リノベーションマンション事例「分断された間取りを活かし、仕事とプライベートをスイッチ」
雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、東京都世田谷区の萬玉直子さん・鎌谷潤さんご家族の事例をご紹介します。建築家夫婦が自宅をリノベーション。フロアを分断する壊せない壁で、「暮らしの場」と「仕事場＝フリーな余白」とに振り分けた。（text_ Eri Matsukawa photograph_ Takuya Yamauchi）
「朝の支度をして、家族を送り出したら掃除・洗濯。9時半くらいに『A面』の照明を全て消して『B面』に行き、音楽をかけてパソコンを開くと『よし、仕事だ！』と気合が入ります」
建築家の萬玉直子さんは、所属する設計事務所の体制が完全リモートワークに切り替わった。大手建設会社に勤務する夫の鎌谷潤さんも建築家で、時折自宅でも仕事をする。「A面・B面」というのは、夫妻が住まいの場所ごとに付けたネーミングだ。築50年のマンションを自分たちの設計でリノベーション。78 ㎡の住戸をおよそ２対１に分断する壁が、構造壁で取り除けないとわかったとき、それぞれをまったく違うイメージに仕上げることに決めた。
ダイニングからリビングを見る。右奥にはベッドが置かれている。B面の自由さとは逆に、A面では家具によって場所ごとの行動がある程度決まってくる。
玄関を含む広いエリアであるA面は居住区域。生活に必要なすべての機能とスペースを凝縮しつつ、各場所を区切らず、なだらかにつなげることで狭さを払拭し、ゆとりさえ感じさせている。床にはカーペットを敷き、壁・天井はペイントで化粧。木質の素材やカーテンがあしらわれ、全体にやわらかい印象だ。
「B面」であるアトリエの床はフレキシブルボードで、土間風の印象に。壁・天井は躯体現し。人が集まるときはテーブルを中央に移動するなど柔軟に変化させる。
A面とB面の境には合板の枠を回し、隔たりを演出した。
壁の向こうのB面へは、枠を取り付けトンネル状に仕立てた通路をくぐり抜けて移動する。そこは夫妻の仕事場であり、息子の遊び場であり、来客時には広いダイニングになる。床はセメントが原料のフレキシブルボード張りで、壁・天井は既存の仕上げを剥がしただけの荒々しさ。A面と対照的なラフさが屋外のようでもあり、自由な使い方を許容する「おおらかな余白」となっている。2つの場の違いを、鎌谷さんは「コントローラブル（A面）とアンコントローラブル（B面）」と表現する。B面の外にあるルーフバルコニーをC面とすると、3段階のグラデーションをもった家だ。
「B面に仕事の資料や子どものおもちゃを広げっぱなしでも、気になりません。A面は毎日こまめに整えて快適な状態に保っているから、ホッとできます。空間が切り替わることで、仕事とプライベートの気持ちのスイッチングもしやすいんです」（萬玉さん）
アトリエの棚の一部は子ども用。その前のコーナーが遊び場に。「それぞれがアトリエを自分の部屋だと思っています」（萬玉さん）
萬玉さんは、毎日往復3時間の移動がなくなり、時間にピリピリすることがなくなったという。
「朝のちょっとした掃除は5分か10分で済むのに、以前はその余裕すらありませんでした。時間との付き合い方が変わりました」
洒落たタイルで仕上げたバスルームは家族の癒やしの場。
建物データ
〈専有面積〉78.00 ㎡〈バルコニー面積〉31.80 ㎡〈主要構造〉鉄筋コンクリート造〈既存建物竣工〉1971年〈リノベーション竣工〉2020年〈設計期間〉5ヶ月 〈工事期間〉1.5ヶ月〈設計〉萬玉直子＋鎌谷 潤／B-side studio
※この記事はLiVES Vol.112に掲載されたものを転載しています。
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