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リノベーションマンション事例「小さな居場所が連なるおおらかな“ワンリビング”のリノベーション」

雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、神奈川県横浜市の茂木さんご家族の事例をご紹介します。LDKに縛られず、自分たちらしいしなやかな暮らしがしたい。築40年の団地が、ホテルのようにのびやかで上質な空間に生まれ変わった。(text_ Sakura Uchida photograph_ Takuya Yamauchi photography)

nLDKという物差しで日本の間取りが示されるようになり70余年。しかし、社会も価値観も変わり、今やその型で暮らしは語りきれない。築40年の団地をリノベーションした建築士の茂木哲さんは、その答えを自身で設計した住まいでしなやかに提示してみせた。

お子さんの誕生をきっかけに庭のあるのびやかな環境で子育てをしたいと考えるようになった茂木さん。将来的にSOHOにする可能性も見据え、リノベーション前提で物件を探していた。出会ったのは庭が44㎡もある1階の住戸。南北に長く、間口は約6m、奥行きは庭も含めれば約18mにもなる。この特徴を活かしつつ、66㎡という限られた面積のなか、いかにさまざまな生活シーンを展開させるかが設計の鍵となった。

和室から寝室越しにリビング、さらに庭を見通す。構造的に動かせなかった壁を活かしてカウンターを造作。ゆるやかにゾーニングしながら仕事もできるスペースに。
間仕切り壁を設けずに障子戸を設置。引き戸なので、空間を細やかに仕切ったり、大きくつなげたりできる。障子は和に偏りすぎないモダンなデザイン。

アオダモやシマトネリコなどの株立ちやグランドカバーのディコンドラがつくる優しい緑に包まれて。ベンチは違い棚のような和モダンを取り入れたデザインに。

もとは3LDKだが、茂木さんが試みたのはnLDKには納まらないフレキシブルな空間構成だ。まず、収納やキッチンを東西の壁面にまとめることで、生活スペースを最大限確保。18mの長さを活かした抜けのある空間は、視線の先に美しく切り取られた緑が広がる。室内は引き戸でゾーニングすることで、多様な居場所をしつらえた。寝室はキッチンのそばに配して子育てがしやすい位置に。和室は置き畳にして、畳を動かせば多彩な使い方ができる。そして各部屋の引き戸を開け放つと家全体が一つの大きなリビングに。日中と夜、四季、来客を迎えるハレの日と、どんなシーンにも対応できる間取りを実現した。

ゆったりとしたキッチンは奥さまのお気に入り。収納の性能とコストバランスのよさからシステムキッチンを採用しているが、造作に見えるよう仕上げをアレンジ。
リビングではソファの代わりに好きな場所に持ち運べるニーチェアを愛用。

もう一つ特徴的なのが、浴室だ。窓のある明るい場所に移動し、隣接する和室とは建具も介さず、視界にオープンに浴槽が立ち現れる。ホテルライクな非日常性を醸し出すが、実用性に関しては十分に配慮を。隣にシャワーブースを設けており、浴槽は純粋に湯に浸かったり、ときにはお茶を楽しむために用いるので、水仕舞いの心配は無用。また、浴室を間仕切らないことで、南北に長い空間と一体になり、風が抜けて湿気が溜まることもない。

居室のようなオープンなバスルーム。和室と寝室の障子戸を開けると庭の緑も眺められる。シャワー水栓は浴槽の掃除用。床にはバスマットを敷いている。

個性的な浴室はハーフユニットがベース。1階で配管の扱いが比較的自由だったため実現できた。蒸気は和室側の梁で止め、間接照明側に設けた換気扇で抜く。

休日に光と緑を楽しみながら、お子さんと入浴するのが大切な癒しの時間。浴室前の和室は洗面台やクローゼットを備え、フィッティングルームとして使える。 © Norihito Yamauchi

シューズインクローゼットなど収納と面積を拡充した玄関。

「大切にしたのは、可変性。空間の広さ・使い方をその時々のシチュエーションに応じて自在にできるような間取りを試みました。場所を固定するようなソファを置かないなど、家具づかいも考慮しています」

この家の「一つの大きなリビング」を構成する間取りには、庭も含まれている。とかく集合住宅のリノベーションでは内外のつながりが希薄だが、植栽にこだわるほか、ベンチやテラスを造作し、空の下のリビングと位置付けた。内外をつなぐ大きな窓にはあえて垂れ壁を設け、サッシ枠を消して一体感を強調する工夫も。個性ある間取りとその発想を引き立てるディテール。おおらかな空間のもと、若い一家の暮らしはさまざまな可能性を育んでいくことだろう。

庭もリビング感覚でくつろげるようにテラスやベンチを新設した。
庭と一体となったリビングでくつろぐ至福の一刻。
洗面、洗濯機、トイレを一つの空間に納めた。造り付け収納を備え、間接照明やアクセントウォールを取り入れて心地いい場所に。

建物データ

〈専有面積〉66.31㎡〈庭面積〉43.69㎡〈主要構造〉鉄筋コンクリート造〈既存建物竣工〉1979年〈リノベーション竣工〉2018年〈設計期間〉3ヶ月 〈工事期間〉3ヶ月〈設計〉茂木哲建築設計事務所〈コーディネート・実施設計・施工〉リノベる。

引き戸で空間を伸縮。多様な居場所がつながる家

収納、キッチンといった設備を東西に固めて大きなワンルームをつくり、その中で細やかな居場所をつくる。各室は障子で仕切り、こもることもできれば開け放って家全体を一体的なワンルームとして使える。庭や浴室も居室の一つ。

※この記事はLiVES Vol.110に掲載されたものを転載しています。
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