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リノベーションマンション事例「柔らかいスギの厚板を床に洗練されたモダンさでまとめる」

雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、埼玉県さいたま市のSさんご家族の事例をご紹介します。国産のスギを中心に数種の木材を用いたマンションリノベーション。障子や畳など和の要素も織り交ぜつつ北欧家具が似合う洋風の趣に。(text_ Eri Matsukawa photograph_ Takuya Furusue)

「湿度の高い日も、室内の空気はサラッとしているような気がします」

と話す住まい手のSさん。自身がアレルギー体質であることから、住まいの内装は天然素材でと考え、中古マンションのリノベーションを小谷和也さんに依頼。小谷さんは「床にはスギ板しか使わない」と決めている建築家だ。

「スギ材の柔らく傷付きやすいというデメリットを理解した上で、空気を多く含んでいて断熱性が高く、床暖房がいらないくらい温かみがあるというメリットを取り入れたいと思いました。実際とても快適なので、引っ越ししてからスリッパを使わなくなったんですよ」(Sさん)

節の少ない吉野スギの一等材は、きれいに見えるように赤身でそろえ、色のバラつきをなくした。キッチン前の用途を限定されないフリースペースがゆとりを生んでいる。
将来の家族の変化に合わせて間仕切りを変えられるよう、娘2人の個室とWICは可動家具で仕切りを。家具の上は空間が連続して光と空気が行き交い、圧迫感も軽減。

小谷さんが常用する奈良県吉野産のスギの床板は30mmと厚く、幅は21.5cmと一般的な製材品より広め。長さは約半分で、マンションでも搬入がしやすい。これは施工のスピードや掃除のしやすさなどを考え抜いたサイズで、製材会社に独自に発注しているもの。品質が安定して施工後も収縮が少ないのは、木材の乾燥にじっくりと時間をかけているからだという。

Sさんが小谷さんを選んだ理由には、洗練されたデザイン性もある。スギを用いた内装は和風のイメージに寄りがちだが、S邸には北欧家具もしっくりと馴染む洋風のモダンさが備わる。小谷さんが考えるそのコツは「木材の節の量を少なくすることと、スギ材は赤身部分を選んで用い、色のバラツキを抑えること」だという。

キッチンの腰板と吊り棚の扉は、シナ合板の塗装拭き取り仕上げ。白い塗装の薄化粧の下から微かに木目が浮き出る。白のシンプルさと木目の柔らかさが共存する。

造作家具にはホワイトオークや米ツガ、シナ合板など節のない数種の材を組み合わせ、シンプルに見せている。反面、リビングと畳スペースの壁は主張の強いスギ板の鎧張りに。柿渋を塗った横張りの壁は、外から家を眺めているようなトリッキーなイメージ。障子のデザインとともに横のラインが強調され、部屋の重心が低くなることで落ち着きと広がりが生まれている。

[左]・畳スペースの書斎カウンター。小窓に付けた障子は、リビングの窓と連続させている。
[右]・ 梁下空間に造作収納を組み入れすっきり見せる。障子のデザインは和風感を抑えて。

造作キッチンの面材は木目のグラデーション。吊り棚はシナ合板に白い塗装の拭き取り仕上げ、中央はツガ、カウンターはホワイトオークで、下部はシナ合板クリア塗装。

リビングの壁の一部は木造住宅の外壁風でスギ板の鎧張り。柿渋を塗って温かみを。右手の壁に縦張りしたのはツガ。造作のソファベンチで小さな空間を有効に使う。

節のない米ツガの板を張った部分は、障子を引き込む戸袋として機能。手前に何を置いても絵になるコーナー。

天然素材が相手だけに、美しく仕上げるには木を知る経験と性質を生かす技術が必要。施工を担当したサンビックでは、大工職を社員として雇い、施工に集中できる安定的な環境を提供している。代表の友政伸也さんは、力のある職人が減少の一途をたどる現状への危機感を小谷さんと共有し、持続可能な形を模索中だ。S邸のようなリノベが増えることは、打開策のひとつとなり得るだろう。

洗面室の天井はスギの天然オイル塗装品。炭化させたコルクを用いた床タイルは、足裏に優しく、汚れが目立ちにくいという利点もあり、水まわりに適した素材。

タイルやガラスなど異素材も上手く取り入れ、軽さをプラス。

【気になる木使いポイント】How to use WOOD

木の空間をより心地よくする知恵

木を多用しても野暮ったくならない見せ方で、木の香りや肌触りは好きだが空間はモダンにしたい、という人も満足できるスタイル。
単にシンプルにするのではなく、鎧張りのようなデザイン的な遊びを添えることで、空間に色気が備わっている。
また、高断熱化した上で天井懐や床下空間を利用した空調設備を入れるなど、温熱環境の向上にも力を入れた。

[左上]/京都の「きびら」というハリのある麻布を張った障子。木と相性がよく、素材感と適度な透け具合が清々しい。
[右上]/廊下の天井は一段低くして、スギの板張りに。手前の戸は天井裏に組み込んだエアコンからの送風口。
[左下]/浴室には直接窓が取れなかったが、洗面室の窓から風を取り込める内窓を設置。枠は米ヒバ、奥はスギ板張り。
[右下]/空調の暖気を床下に通し、窓際送風口から給気する仕組み。不使用時期はガラリを閉じることができる。

建物データ

〈専有面積〉76.28㎡〈バルコニー面積〉18.44㎡〈主要構造〉鉄骨鉄筋コンクリート造〈既存建物竣工〉2003年〈リノベーション竣工〉2018年〈設計期間〉4ヶ月〈工事期間〉4ヶ月〈設計〉小谷和也/マスタープラン一級建築士事務所〈施工〉サンビック

※この記事はLiVES Vol.106に掲載されたものを転載しています。
※LiVESは、オンライン書店にてご購入いただけます。amazonで【LiVES】の購入を希望される方はコチラ

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