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リノベーションマンション事例「7mの襖絵で場を分ける運河沿いの職住一体の家」

雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、東京都江東区の菊嶋さんと永澤さんの事例をご紹介します。隅田川につながる運河沿いのマンションをオフィス兼住居にリノベーション。水辺の景色とダイナミックなクジラが想像力を刺激する建築家夫妻の実験的な住まいだ。(photograph_Akira Nakamura text_Kiyo Sato)

「この街には、都会的な部分とのんびりしたところがあって、バランスがちょうどいいんです」

そう話すのは、建築設計事務所Knofを主宰する菊嶋かおりさん、永澤一輝さんご夫妻。ここに暮らし始めてちょうど二年が経つ。

独立を機にSOHOを構えようと選んだのは、隅田川につながる運河を見下ろす築34年のマンション。以前暮らしていた運河沿いのマンションで「水辺の魅力にすっかりはまった」というご夫妻は、地図を片手に都内の川沿いを辿ってこの物件を探し出した。春には川岸の桜が一直線に咲き誇り、遠くに丸の内のビル群まで見渡せる絶好のロケーションだ。

バルコニーから運河越しに東京駅方面まで見通せる。春には桜の絶景も。

「運河に面していると風通しや日当たりがいいですし、何よりまわりに建物が簡単に建たない。これまでの設計経験からどんな間取りでも自由に変えられると分かっていたので、後からは変更できない立地を最優先に探しました」(菊嶋さん)

4LDKの既存の間取りは個室に区切られていて眺望が活かしきれていなかったため、壁を取り払ってスケルトンの状態にいったん戻し、運河に面した西側を大きなワンルームに変更。玄関を入ってすぐ視界に入るオープンキッチンを境にオフィスとダイニング+リビングを振り分け、床材や床レベルを変えながらゆるやかにゾーニングした。

「窓外の景色がつながると広がりを感じられる」と空間をワンルームに。床材と段差でゆるく場を分けた。ハードな素材と襖絵の手描きタッチ、植物の対比が楽しい。

緑豊かでテラスのようなリビング。床には水面のような艶のある壁用タイルを。
ラフな雰囲気のオフィスでは、二人並んで窓外の運河を眺めながら仕事ができる。

「働く場と生活空間の重なりを、いかに最大化するかを考えました。来客を迎えるオフィスでもあるので、生活感が出てしまうトイレや浴室、WICなどの機能は窓のない東側に集約しています」(永澤さん)

開放的な西側ゾーンとプライベートスペースを仕切るのが、躍動感あるザトウクジラを描いたダイナミックな幅7.2mの襖絵。壁ではなく9枚の建具が連続しており、扉を開けると書棚や水まわりなど大小異なるスケールの空間が現れる仕掛けだ。

奥行き最大2.3mの襖絵の中にトイレやWICなど生活機能を。

左・バースタイルのL字カウンター内部に生活感を抑えた業務用キッチンを。/右・襖絵の奥の洗面スペースは白で統一。右側に洗濯機、左奥はバスルーム。

リビングの奥には小上がりの和室が。キングサイズの布団がちょうど敷ける広さで、寝室として使っている。壁は柔らかなグレーに塗装。窓越しに運河が見える。

「廊下に面して扉を設けるのではなく、いっそすべて扉にしたらおもしろいのではと。布を張るなどいろいろな案を検討しましたが、せっかく広い面ができたのだからと、海を連想させるクジラのモチーフを原寸大に近いスケールで取り入れるアイデアに行き着きました」(菊嶋さん)

パネルの絵は、アーティストの池田早秋さんが描いた幅約40cmの原画を拡大してラワン材に直接印刷。「自邸だからこそチャレンジできた」と振り返る。さらに壁や天井は既存のコンクリート躯体現し、床に艶のある壁用タイルを使うなど、今後の仕事につながる提案を踏まえてつくり込んだSOHO。二人の感性が随所に光る空間は、穏やかでありつつ都会的なこの街の雰囲気にも似ている。

大勢で囲めるカウンターは十和田石とモルタルを採用。食器や酒が並ぶ吊り戸棚は圧迫感のないパンチングメタルで造作した。ダイニングは打ち合わせスペースにも。

建物データ

〈専有面積〉 77.04 ㎡〈バルコニー面積〉6 ㎡〈主要構造〉鉄筋コンクリート造〈既存建物竣工〉1985年〈リノベーション竣工〉2017年〈設計期間〉3ヶ月〈工事期間〉3ヶ月〈設計〉一級建築士事務所knof〈施工〉M-CUBE

※この記事はLiVES Vol.105に掲載されたものを転載しています。
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