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リノベーションマンション事例「スタイルにこだわらず『場』の可能性を拓く空間づくり」

雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、東京都世田谷区の豪希さん・桃子さんご夫妻の事例をご紹介します。料理家とライフスタイルデザイナーのご夫妻が求めたのは、「食で人と人をつなぐ」創造的な生活と、新たな出会いの生まれる場だった。 (text_ Satoko Hatano photograph_ Takuya Furusue)

食で人と人をつなぐ活動「てとてと」を展開する料理家の豪希さんとライフスタイルデザイナーの桃子さんご夫妻。以前住んでいた賃貸住宅でも、料理の成り立ちや食器、空間の設えを含めて楽しんでもらう料理教室やホームパーティを開いていたそう。家をつくるにあたり中古マンションのリノベーションを選んだのも、活動を展開しやすい立地と空間を得るためだった。

料理教室やホームパーティの舞台となるオープンキッチン。

見つけたのは、東京都内に建つ築39年のヴィンテージマンション。1階角の住戸で広い専用庭付きだ。料理でも家づくりでも、成り立ちや背景を大切にしたいというご夫妻は、思いを共有できる建築家を求めて松島潤平さんに辿り着いた。

「空間全体を5だとすると、お二人の要望は食の空間が4でその他が1くらいメリハリのあるものでした」

と話す松島さん。提案したのは、長方形平面の住戸を玄関から庭まで長手方向に貫く開放的なLDK。その隣に、間仕切り壁を隔ててコンパクトな個室と水まわりゾーンが並ぶ構成だ。ご夫妻はこのプランに一目惚れ。奥行きのある空間に合わせて造作した大型のキッチンカウンターとテーブルを活用し、以前より頻繁に料理教室を開くようになった。

玄関から食の空間へ直結。3面採光の明るいLDKの窓を壁面収納で囲い、腰掛けにもなる出窓に仕立てた。
左・食を中心とした創作料理を得意とする豪希さん。わずか20分ほどの時間で彩鮮やかな3品を供してくれた。/右・理教室での使用を考え、熱の拡散がないIHクッキングヒーターに。メーカーは豪希さん指定のGAGGENAU。

もうひとつ大きな特徴となっているのが、ラワン材の有孔合板を使った造作家具仕上げの壁面。コスト面で選択した建材だが、よくあるラフな雰囲気に陥らない技が見られる。

ラワン合板の壁面収納。棚板の厚さも建具の見切り縁も9㎜で統一。家具職人の仕事で強度と精度を実現している。

LDK長手方向のラワン合板の壁は家具職人による造作仕上げ。壁と同材の建具の見切り縁、棚板の厚さまですべて9㎜で統一した繊細な意匠が大空間を引き締める。

「お二人とも好みが違うのですが、桃子さんの好きなナチュラルな雰囲気は合板の木質感で得られます。豪希さんの求める和の表情は、繰り返し現れる9㎜のラインを障子の棧や畳縁のような和のモジュールに重ねたり、光が漏れる有孔合板を欄間に見立てることでも表現できます」

と松島さん。ラワン材の質感と設え方で、好みを反映しつつ、スタイルが偏らない空間を提案した。

家具職人が仕上げた上質な空間に北欧のヴィンテージ家具やアイビーが馴染むリビング。コンクリート現しのラフな天井と隙間なく接する合板壁の収まりは見事。

「人を招きやすくなり、僕たちの活動は驚くほど発展しています。料理教室のほか、パーティルームやギャラリーのアイデアもあるのですが、この場所なら実現できそうです」

と豪希さん。過ごし方を限定しない住まいは、「てとてと」の可能性を広げる場にもなっている。

左・船舶ランプやオープン収納にご夫妻の好みが表れた洗面室。/右・専用庭の一部にデッキを敷いた。
左・洗面室の扉に愛猫の花火専用の抜け穴を設けた。/右・住宅購入で手放した愛車のカラーリングをトイレに反映。

天井まで棚を造り付けたパントリー。カゴを利用した収納術で見た目もすっきり。居室もバックヤードも床は幅広のオーク材で統一。

益子焼きの陶器市に買い出しに行くご夫妻。料理教室では料理に合わせた食器選びも学べる。テーブルコーディネートは桃子さんが担当。
壁の棧が扉の見付に。内装工事の範囲を圧縮しながら、イノウエインダストリィズによる造作家具で空間をまとめることで、コストを調整。

建物データ

〈専有面積〉82.49㎡〈専用庭面積〉32.20㎡〈主要構造〉鉄筋コンクリート造〈プロデュース〉リビタ〈設計〉松島潤平建築設計事務所〈施工〉ヨシナガ工業〈家具工事〉イノウエインダストリィズ〈グリーンコーディネート〉cabbege flower styling〈設計期間〉3ヶ月 〈工事期間〉3ヶ月〈既存建物竣工〉1976年〈リノベーション竣工〉2016年

※この記事はLiVES Vol.95に掲載されたものを転載しています。
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