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一戸建てリノベーション事例「左官で築いた『地形』で得た猫も人もくつろげる住まい~大手ハウスメーカーの中古住宅改造大作戦~」

雑誌「LiVES」に掲載された一戸建てリノベーション事例から、今回は東京都目黒区のご夫婦の事例をご紹介。壁を撤去できない壁式パネル構法のため、間取り変更は最小限に。床と天井の大変革とブラックカラーでつくった愛猫を愛でる家。(text_ Eri Matsukawa photograph_ Takuya Furusue)

築30年、時間を積み重ねてきた一戸建てをリノベーション

この家にある色は、「黒」と「木」の色だけ。それは、はからずも二匹の愛猫たちの色と一致している。窓という窓にはカーテンやブラインドが下ろされ、天窓から差し込む光が黒い床を洞窟の底のように照らし、不思議と心が鎮まる。家づくりのスタート時点では新築を想定したが、やがて中古住宅に手を加えるほうが自分たちらしい家ができそうだ、と夫妻は考えた。

「本当に格好いいのは、表面的な経年感ではなく、実際に時間を積み重ねてきた結果の姿。築30年ほどのこの家を内覧すると、田舎のおばあちゃんちみたいな安心感が心地よく、住むならここがいい! と感じて購入を決めました」(奥さま)

以前の内装はほぼ跡形もなく剥ぎ取られ、まるで別世界になったが、時を経たものの力強い存在感や心地よさは、かえって強調されている。

猫と人が集まる広場のようなダイニング。普段ブラインドは下げたままで、天窓からの光が差し込み洞窟のよう。外界から遮断された安らぎを覚える不思議空間。

モールテックスでつくった黒い造形物はロフトへのキャットタワー。黒で統一したキッチンの中でも小判のタイルが奥さまのツボ。猫ご飯スペースもタイル敷き。

ステンレスのワークトップでシンプルに徹したキッチン。「無駄な窓は不要」と、隣家の壁しか見えない窓を有孔ボードで塞ぐ潔さ。調理道具を吊り下げられて便利。

自由に暮らせる空間づくり

リノベーションの前提は夫妻が憧れる「経年の格好よさ」を表現すること、愛猫のベンガルとメインクーンを家の主として計画すること、そして、趣味のゲームや仕事など、機能に沿いながら自由に暮らせる空間づくりを目指した。この家は大手ハウスメーカーによる木質パネル構法で、壁で耐震性をもたせる構造のため、既存の壁を撤去することが難しい。そこをどうクリアするか。

調べると、この特殊構法の特徴として既存の仕上げを剥ぐと合板が出てくることがわかったので、その合板を剥き出しのまま全面的に内装として活かすことに。構造の専門家に相談した上で2階の間仕切り壁の一部を撤去し、ダイニングとリビングをゆるやかにつなげることで、流動的な広がりをもたせることができた。

2階の天井はそのまま残すつもりだったが、大工さんがうっかり撤去してしまうと、屋根裏収納だった大きな空間が室内と融合し、天窓から光が降り注いだ。肋骨のような光景が面白くて残した垂木や梁は、猫たちの散歩コースになっている。

2階天井を抜いて小屋裏を現しにすることは当初の計画にはなかったが、大工さんが剥がしかけたところを見て方針を転換。梁と垂木がキャットウォークになった。

肉球を眺めるために垂木の上にアクリル板を載せた。

ロフト収納に上がるのに使われていた既存の梯子は温存した。

1、2階を行き来するための穴(キャットウェル)を開けた。

猫も人もくつろげる家づくり

ひときわ目を引くのが、黒いモールテックスの床だ。提案の経緯を、設計者の永澤一輝さんと菊嶋かおりさんはこう話す。

「猫と暮らす上でのメンテナンス性の良さと質感の美しさを、どういった素材で両立させるかを考えました」

その上で、猫との目線が近くなる床座のスタイルを提案し、岩風呂のようにいろいろな場所で自由にくつろげるイメージを提示した。

ダイニングとリビングには掃き出し窓の手前に立ち上がる縁、曲面や窪み、段差でさまざまな「地形」を構成。猫も人も、それらに体を預けてくつろぐ。夫妻はそれぞれ別のモニターに向かいゲームに熱中できる。

床にモルタルで「地形」を造形したリビング。ベンチのように腰掛けたり、窪みにすっぽりはまり込んだりとフリースタイルでくつろげ、ゲームをするのにも好都合。

段差部分に寄りかかったり腰掛けたり。固いはずのモールテックスが曲面のおかげで体になじむ。

格子戸越しに見る玄関。靴収納は扉なしで棚板も黒く塗装。壁には有孔ボードを取り付け、絵を飾ったり外出時の携帯品をぶら下げたりしている。

既存の障子枠を2枚合わせて間に金網を挟み、猫脱走防止の引き戸に。アイアン塗料で質感までチェンジすると、和風が消えインダストリアルな雰囲気が出た。

「猫のための家を求めたら、人も猫になれる家ができました」(ご主人)

夫妻と猫たちが、異国の古い広場にたむろして暮らす、四匹の猫に見えてきた。

しまい込む収納に対し「徹底して逆を行こうと思って」と、すべてをむき出しにした洗面。有孔ボードや金属枠のミラーでハードなイメージにまとめた。

化粧コーナーは洗面と分けて、通路に沿いにビルトイン。
ご主人の仕事場。障子が和室だった名残を伝える。天井を黒く塗り畳を黒の塩ビタイルに変更。スタンディングデスクで仕事をし、トレーニングマシンで肩こりを予防。

●Before

木質パネル構法は壁で支える構造のため、ぶち抜いて間取りを大きく変更することができないのが課題だった。

建物データ

〈敷地面積〉78.09㎡〈建築面積〉45.44㎡〈床面積〉1階 43.88㎡、2階 45.44㎡、合計 89.32㎡〈用途地域〉第一種中高層住居専用地域〈主要構造〉木質組立構造〈既存建物竣工〉1990年〈リノベーション竣工〉2021年〈設計期間〉4ヶ月〈工事期間〉2.5ヶ月〈施工〉ファーストハウジング 西澤佑二、鈴木亮佑(大工)、高山成也(左官)、工藤雅之(電気)

※この記事はLiVES Vol.118に掲載されたものを転載しています。
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