このページの一番上へ

古民家リノベーション事例「150余年の歴史に寄り添いながら新たな時間を古民家に刻む」

雑誌「LiVES」に掲載された古民家リノベーション事例から、今回は三重県亀山市の小林さんご家族の事例をご紹介。江戸時代には宿場町として栄えた亀山市・関宿。東京から移住した建築家一家が、由緒ある古民家の新たな歴史を紡いでいく。(text_ Sakura Uchida photograph_ Tololo studio)

伝統的建造物にリノベーションで新たな風を吹き込む

東海道五十三次において47番目の宿場町である三重県亀山市の関宿。今も約200軒の町家が軒を連ね、往時の雰囲気を伝えている。この関宿でも指折りの名家であった浅原家住宅は空き家となって久しかったが、東京から移住してきた小林さん一家を迎え、150余年の歴史に新たな時を刻むこととなった。

ご主人の勇治さんは、亀山の隣の鈴鹿市出身。東京で仕事に追われる日々に息苦しさを覚えるようになり、生き方を見つめ直し、Uターンを決意。東京ではマンション暮らしだったので、「地方住まいをするのなら、昔から好きだった関宿に」と考えていた折、出会ったのが伝統的建造物の指定も受けたこの住宅だった。

連子格子が美しい外観。縁台や馬繋ぎの輪も残っていた。外壁は昔ながらの工法で修復。宮大工の技が光る。
開放的な南庭。縁側や引き戸など日本家屋らしい趣が。屋根に新設のガラス瓦が並ぶ。

新旧のリミックスを楽しむ

改修を手掛けたのは、建築家である奥さまの由紀子さん。施主となる勇治さんも建築の仕事に従事しており、計画を詰めるプロセスはさながらバトルのようだったと二人は笑う。たどり着いた結論は、暮らしの便利さのために空間を変えるのではなく、自分たちが建物の歴史に寄り添う改修をしようということ。まず、雨漏りで傷んだ構造は全面的に補修。梁・柱と一部の壁を残してスケルトンの状態にして、建物全体をジャッキで持ち上げ、基礎を打ち直した。

材木問屋を営んでいたため立派な材が使われていたが、腐食部は交換して継ぎ直した。リビングは鮮やかなブルーの聚落壁。色使いは現代的だが古来の素材を踏襲。

柱・梁が織りなす架構や、南北に貫く通り土間など町家の基本的な構成は尊重し、仕上げや使い方を変えることで暮らしやすい空間に。通り土間が光と風を運ぶ。

街道に面した土間。壁は土壁の上に、墨モルタル金ゴテ仕上げ。框戸より奥が家族のプライベートなゾーン。厨子2階に続く階段は納戸から発見して再設置したもの。

間取りは基本的に手を加えず、居室の使い方やゾーニングを整理することで暮らしやすさを実現。街道に面した3間は土間と由紀子さんの仕事場、客間に充て、奥は家族の住居に。また、既存の通り土間を拡充し、キッチンやダイニングを機能的にまとめた。インテリアは土壁や建具など残せるものは活かし、修復が難しい箇所は現代的な素材や鮮やかな差し色を使い、新旧のリミックスを楽しむ。遊び心あるデザインが、古民家の魅力を引き立てている。

書斎から仕事場を見る。街道からの視線は障子で遮る。

土壁は漆喰を塗る前段階の中塗り。

残っていた和箪笥。「吊床」など往時が忍ばれる貼り紙が。

グラフィカルな襖は滋賀の野田版画工房によるもの。

問題となったのは「暗さ」。正方形に近い家屋の開口は南北だけで、奥まで光が届かない。そこで家の中心部の仏間を光庭につくり替え、続く和室と納戸も天井を取り払って吹き抜けに。上部にガラス瓦を載せて光のゾーンを生み出した。こうして古民家の本質的な魅力は損ねずに、風が巡り、明るく暮らしやすい空間に生まれ変わった。

寝室から光庭越しに和室、客間を見通す。光庭の上は吹き抜けでガラス瓦から光が落ちる。欄間は既存。

南の縁側。建具は洗い直したもので、竿縁天井は新設。

歴史ある古民家を未来へ紡ぐ

住み始めて約半年、以前とは180度異なる環境に子どもたちはすぐ順応し、家の中だけでなく野山を駆け巡る毎日だとか。夫妻も味噌づくりや蕎麦打ちを始めるようになり、暮らしに対する姿勢も変わった。ただ、改修は完成したわけではない。

「壁を漆喰で仕上げる時は、中塗りの工程からさらに2~3年おくなど、ゆっくりと家に手を入れるそうです。私たちもそんな風に時間をかけて、この家の未来をつなぎたい」

と夫妻は話す。手付かずの蔵を隠れ家に改修したり、やりたいことは盛りだくさん。そんな思いを歴史あるこの家は、大らかに受け止めてくれることだろう。

街道側の厨子2階(中2階)は宿泊用の客間。古民家を味わって欲しいと民泊の資格も取得。
中2階の子ども室。左に光庭が見える。土壁は大きな穴だけ補修し、修復の過程を見せる。

子ども室に隣接した浴室。脱衣室越しにダイナミックな構造を眺めて入浴する。

1階のトイレ。塗装した朱色の壁やタイルなど、由紀子さんのセンスが光る。

●Before

雨漏りにより柱・梁が傷んでおり、石場立ての基礎も腐食。建物全体が歪み、建具が動かないほどだった。古民家特有の暗さも解決する必要があった。

建物データ

〈敷地面積〉539.29㎡〈建築面積〉149.70㎡〈床面積〉1階 149.70㎡、2階 74.04㎡、合計 223.77㎡〈用途地域〉近隣商業地域〈主要構造〉木造(伝統工法石場立)〈築年数〉築158年以上〈リノベーション竣工〉2019年〈設計期間〉8ヶ月〈工事期間〉9.5ヶ月〈施工〉ミヤザキ社寺業

※この記事はLiVES Vol.107に掲載されたものを転載しています。
※LiVESは、オンライン書店にてご購入いただけます。amazonで【LiVES】の購入を希望される方はコチラ

関連する記事を見る
別荘リノベーション事例「夫婦でリノベーションした海と森を見渡せる家」【アットホーム】リノベーションの情報サイト アットホームなら、ご希望にピッタリの中古一戸建てリノベーション物件が簡単に検索できます。その他、リノベーションの住宅探しに役立つ事例や物件取材記事が盛りだくさん。リノベーションのことならアットホームにお任せください。
不動産お役立ち記事・ツールTOPへ戻る