空き家リノベーション事例「仕事場もLDKも、テラスも広々。築古の空き家をホームオフィスに再生」
雑誌「LiVES」に掲載された空き家リノベーション事例から、今回は東京都中野区の松浦さんご家族の事例をご紹介。20年間手付かずだった日本家屋を、建築家のオフィス兼自宅にリノベーション。止まっていた時計の針をふたたび動かす。（text_ Sakura Uchida photograph_ Takuya Furusue）
築60年の空き家をホームオフィスに再生
黒光りする柱や古い調度品に囲まれ、建築家の松浦怜子さんは仕事にいそしむ。１階中央に位置する仕事場は、寝室や浴室、和室や庭が見通せるハブのような存在だ。
「日中自宅にいるのは私一人なので、オープンなこの仕事場は取締役室のよう（笑）。机を対面キッチンのようなレイアウトにしたので、子どもたちが帰宅したら、庭や和室で遊んでいる様子に目配りをしながら仕事を続けられます」
仕事場から寝室を見る。机の上は既存のキッチンの吊り棚をそのまま使用。天井高が低く集中できる。施工は古い家屋の構造補強に長けた地元の工務店に依頼した。
マンション暮らしをしていた一家だが、のびのびと子育てをしたいと一戸建てでの暮らしを考えるようになった。ネット検索で見つけたのが築60年の２階建ての木造家屋。20年間ほど空き家だったこともあり、松浦さん曰く初見の印象は「ボロボロ」。再建築不可物件なので、住むならリノベーションをする必要があるが、実際に訪れたところ傷んだ外壁に比べて内部は状態が良く、和箪笥や柱時計なども当時のまま置かれていた。タイムスリップしたような空間に、「何か面白いことができそう」という予感が心を掻き立てた。
ローコストで快適空間をつくる
リノベーションの基本方針は、建物の味わいを損ねず、性能を上げて快適な空間にすることと、ローコストの２点。まず外断熱にして外壁を張り替えることで、躯体への影響は最小限に。間取りは、当初１階だった生活の場を２階に上げて個室群の壁を取り払い、ワンルームのLDKに。平天井を剥がして梁を見せ、柱・鴨居も現しにして建物に眠っていた記憶を蘇らせた。既存のテラスも、手を入れて日が注ぐ第二のリビングに。縁側越しにLDKの奥まで光が差し込み、２階全体が明るい親子団らんの場となった。
接道義務を満たさない旗竿敷地に建つ再建築不可物件。内部の意匠に影響を与えない外断熱工法で断熱性を向上させた。
2階テラスは床を張り替え、ベンチやテーブルを置いてアウトドアリビングに。鉄骨トラスがレトロな趣。
生活と仕事が地続きになった住まい
１階は構造を担保するため、壁の位置はほぼ既存を踏襲している。しかし、北側を開放的な水まわりゾーンに改変して南北に光と風の道を確保。そして北の水まわりと南の和室の間を松浦さんの仕事場とした。和室は打ち合わせに利用したり、ご主人のテレワーク時の仕事場に。オンライン会議中に古時計が鳴って皆がどよめくなど、時を重ねた家屋ならではの楽しい一幕もあったとか。
「仕事で根を詰めていても、ふと顔を上げれば庭の緑が目に入り気持ちも安らぐ。お婆ちゃんの家のようなぬくもりが宿るこの家の雰囲気や、生活と仕事が地続きであることに、安心感がこみあげてくるんですよ」（松浦さん）
靴箱やリブ材の壁、パーケットフローリング、扉など、既存を維持した玄関まわり。照明はシンプルなものに交換。
玄関扉とポーチの床タイルは当時のまま残し、外壁をガルバリウム鋼板に刷新。バルコニー下は家庭菜園コーナー。
建物データ
〈敷地面積〉140㎡〈建築面積〉74.36㎡〈床面積〉1階 74.36㎡、2階 52.05㎡、合計 126.41㎡〈用途地域〉第一種低層住居専用地域〈主要構造〉木造〈既存建物竣工〉1959年〈リノベーション竣工〉2019年〈設計期間〉6ヶ月〈工事期間〉4.5ヶ月〈設計〉松浦怜子一級建築士事務所〈施工〉ヒカリハウジング
※この記事はLiVES Vol.112に掲載されたものを転載しています。
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