心裡留保とは?意思表示の種類とポイントをわかりやすく解説

本記事では、心裡留保の基礎知識や心裡留保によって結ばれた契約の有効性、混同されやすい規定との違いなどについて解説していきます。心裡留保についての理解を深めたい方や、初歩的知識を身につけたい方はぜひ参考にしてください。
記事の目次
心裡留保とは?
心裡留保(しんりりゅうほ)とは、人の真意とは異なる意思表示をすることで、簡単に言えば「冗談を口にすること」です。心裡留保という言葉は「真意を心のうちに留めておく」ことを意味しており、心裡留保による意思表示は有効な内心的効果意思を欠くものとみなし、無効になるケースが多いでしょう。ただし、民法の場合は真意と異なる意思表示をする方は法の保護に値しないとされ、心裡留保による意思表示を原則として有効としています。詳しくは後述しますので、参考にしてください。
心裡留保の当事者間の関係

心裡留保がおこなわれたとき、当事者同士の関係としては、基本は心裡留保による意思表示は有効です。売るつもりのない土地を「売る」と言葉にした場合、相手が承諾した時点で契約は成立します。ただし、相手が「売る」という言葉が真意でないことを知った、あるいは知っていた場合には心裡留保による意思表示が無効になります。相手方の状況によって、契約が成立しないケースもあることを理解しておきましょう。
心裡留保と第三者の関係

一方、第三者との関係では当事者間の関係とは異なり、相手が真意でないことを知っていた場合でも意思表示が無効であることを主張できません。第三者が真意でないことを知らない場合も、当然ながら意思表示は有効です。民法では事情を知らない第三者を保護するよう規定されているため、当事者間と第三者の関係とで違いがある点に注意しましょう。
心裡留保によって結ばれた契約は有効?

現行の民法第93条によると、心裡留保による意思表示は有効とみなされ、結ばれた契約も有効となることが規定されています。改正前の民法第93条では、心裡留保による意思表示は無効とされていました。しかし、相手方が心裡留保であることを知っていた場合、つまり「真意」ではないことや不一致であることを知っていた場合にまで相手方を保護する必要はないとされ、改正民法により有効となりました。
ただし、前述のとおり、心裡留保による意思表示は「善意(ある事柄を知らないこと)の第三者」には対抗できません。したがって、原則心裡留保によって結ばれた契約は有効となりますが、その相手が第三者だった場合に限り無効となるケースがあるということです。
意思表示とは?

意思表示は、司法上の効力を発生させる意思を表示する行為です。自らの意思に基づいて権利を得る、あるいは義務を負うことを示し、意思表示は以下の3つから構成されています。
- 内心的効果意思
- 表示意思
- 表示行為
内心的効果意思とは、一定の法律効果の発生を欲する意思のことをいい、表示意思は内心的効果意思を外部に表示しようとする意思です。そして、表示行為が外部に発表する行為のことを指します。
つまり、AがBの販売する商品を買いたいと思うことが「内心的効果意思」、AがBに商品を買いたいと伝えようと思うことが「表示意思」、AがBに商品を買いたいと伝えることが「表示行為」となります。
また、意思表示が意欲されたとおりの効力を発生するのは、内容が確定できて実現可能であり、違法ではなく上記3つの要素に欠陥がない場合です。
意思表示の種類
意思表示は、心裡留保のほかに詐欺、強迫、錯誤、虚偽表示の5種類に分けられ、それぞれ意思表示として欠陥(瑕疵)のあるものです。このうち、詐欺・脅迫は「瑕疵のある意思」、心裡留保・錯誤・虚偽表示は「意思の不存在」という2つのグループに分けられます。以下では、それぞれの種類について解説していきます。
詐欺

詐欺とは他人をだまし、その方に誤った動機を抱かせることです。他人を動機の錯誤に陥れることとも言い換えられます。錯誤に基づいて意思表示をおこなった場合、その意思表示は取り消すことが可能です。ただし、詐欺は社会通念に反する違法性を帯びている行為に限られている点には注意しましょう。詐欺が動機を決定づけた場合にのみ、取り消しが可能です。詐欺による法律行為がおこなわれた場合、善意の第三者は原則として保護されます。また、詐欺は当事者以外の者がおこなう場合もあり、これを第三者詐欺と呼びます。
強迫
強迫とは、他人に害悪を告知して畏怖を与えることにより、真意に反した意思表示をおこなわせようとする行為のことです。害悪の内容が法律的に正当なものであっても、強迫に該当する場合があります。強迫を受けた者がおこなった意思表示は、取り消すことが可能です。ただし、脅迫行為があったとしても意思表示との因果関係がない場合には、その意思表示を取り消すことができません。また、強迫によって法律行為がおこなわれた場合、善意の第三者はまったく保護されておらず、民法では強迫の被害者の保護が強いことがわかります。
錯誤
錯誤とは、意思と表示が異なっていることで、表意者自身が勘違いにより意思表示をすることをいいます。法律的な錯誤として、「動機の錯誤」「要素の錯誤」「事実の錯誤」の3種類あるのが特徴です。民法では意思表示に錯誤がある場合、その意思表示は取り消し可能となります。改正前の民法では「無効」になると規定されていましたが、2020年4月の改正民法により「取り消し」に変更されました。改正前の無効とは異なり「取り消し」の場合は時効が適用されるため、取り消し権を主張する際は早めにおこなうようにしましょう。
虚偽表示
虚偽表示とは、本人が相手方と通じて虚偽の意思表示をすることです。本人と相手方でお互いに通じたうえでおこなうため、「通謀虚偽表示」とも呼ばれています。虚偽表示は、本人の有効な内心的効果意思を欠くため原則無効です。ただし、民法では善意の第三者を保護する規定があるため、第三者に対しては無効を主張することはできません。
心裡留保

心裡留保は先述のとおり、意思表示をする者が自己の真意と表示行為の食い違いを自覚しながらおこなわれる意思表示のことです。虚偽表示と異なって相手方との通謀はないことから、「一方的虚偽表示」や「単独虚偽表示」などと呼ばれることもあります。注意すべきことは、第三者との関係が当事者間の意思表示が有効か無効かで異なる点です。善意の第三者に対して、無効を主張できない点には注意しましょう。
意思表示の種類 | 具体例 | 効果 | 本人の落ち度 | |
---|---|---|---|---|
家を売る場合(売主) | 家を買う場合(買主) | |||
詐欺 | 本人が騙されて売ってしまう | 売主が騙されているのを知らずに(知って)買う | 基本的に有効だが、取り消せる | 騙された落ち度あり |
強迫 | 本人が脅されて売ってしまう | 売主が脅されているのを知らずに(知って)買う | 基本的に有効だが、取り消せる | 落ち度なし |
錯誤 | 本人が勘違いして売る | 売主が勘違いしていることを知らずに(知って)買う | 基本的に有効だが、自分自身の意思表示は無効 | 嘘をついた落ち度あり(重過失でなければ落ち度なし) |
虚偽表示 | 買主が一緒になって嘘をついて売る | 売主と一緒になって嘘をついて買う | 基本的に有効だが、自分自身の意思表示は無効 | 嘘をついた落ち度あり(重過失でなければ落ち度なし) |
心裡留保 | 買主に嘘をついて売る | 売主の嘘を知らずに(知って)買う | 基本的に有効だが、例外的に無効になることもある | 嘘をついた落ち度あり |
上の表のように、意思表示の種類ごとに効果などが異なります。意思表示の種類によって似ている内容のものもあるため、それぞれの違いを理解することが必要です。また、本人の落ち度や相手方、第三者の状況によっても結果が変わるため、それぞれの事例を参考に有効性を覚えておくとよいでしょう。
心裡留保と虚偽表示の違いは?
心裡留保と虚偽表示は規定が混同されがちです。どちらも「嘘をついている」点や、善意の第三者に対して無効を主張できない点は同じです。ただし、心裡留保は一人で意思表示するのに対し、虚偽表示は相手と結託して虚偽の意思表示をおこないます。また、心裡留保による意思表示は基本的に有効ですが、虚偽表示の場合は基本的に無効です。
例えば、AがBの土地を購入する気がないのに「買います」とBに伝え、BはAが真意を述べていないことを知らずに「売ります」となった場合、Aの意思表示は有効となります。Aが真意でないことを知っている場合に「売ります」となっても、無効となるケースが心裡留保です。一方、AとBで結託し、AがBの土地を購入するという仮の売買契約を結ぶこと、結果的に無効となるケースが虚偽表示となります。主な違いとしては、一人か相手を含めた二人の意思表示か、意思表示が基本的に有効か無効かの違いだといえるでしょう。
心裡留保と錯誤の違いは?
心裡留保と錯誤は、真意と異なる内容の意思表示という点が同じです。そのため、同様のものと勘違いされがちです。しかし、心裡留保の場合は真意と表示の違いを本人が自覚しているのに対し、錯誤はその違いに本人が気づいていません。また、心裡留保による意思表示が基本的に有効なのに対し、錯誤による意思表示は基本的に有効なものの、取り消し可能です。ただし、表意者に重大な過失がある場合には取り消すことはできません。また、錯誤には3種類ある点も注意しましょう。
例えば、AがBの土地を買う気がないのにBに「買います」というのが心裡留保ですが、AがCの所有する土地をBが所有していると勘違いし、本当はCの土地を買いたいのに間違えてBに「買います」と伝えるのが錯誤です。善意の第三者、錯誤の場合は善意無過失の第三者には対抗できない点は同じです。意図的に冗談を言っているのが心裡留保、勘違いしているのが錯誤と考えると覚えやすいでしょう。
心裡留保に関するよくある質問
最後に、心裡留保に関するよくある質問について解説します。簡単におさらいしたい場合には、以下の項目を確認するようにしましょう。
心裡留保とは?
心裡留保とは、民法において表意者が自己の真意と表示の食い違いを自覚しつつおこなわれる意思表示のことです。簡単にいうと「冗談」のことを指し、錯誤や虚偽表示と似ている意思表示の一つとして知られています。
心裡留保によって結ばれた契約は有効?
心裡留保によって結ばれた契約は、基本的に有効です。当事者間だけでなく、第三者との関係でも同様に有効となります。ただし、当事者間で相手方が事情(真意でないこと)を知っていた、あるいは知ることができた場合には無効となります。
心裡留保と、虚偽表示や錯誤の違いは?
心裡留保と虚偽表示・錯誤は、意思表示のなかでも似ている種類として知られています。わかりやすく言うと、心裡留保は「わかっていながら嘘をつく」ことで、虚偽表示は「お互いにわかっていながら嘘をつく」こと、錯誤は「勘違い」です。
まとめ

いかがでしたか?今回は不動産契約の際にもトラブルに発展しやすい、意思表示による心裡留保について解説しました。意思表示には心裡留保以外にも複数の種類があり、民法ではさまざまなケースに応じて被害者を保護しています。土地や一戸建てなど不動産を購入・売却する際は、心裡留保を含めた意思表示に十分に注意して手続きを進めるようにしましょう。自身で判断するのが難しい場合には、専門的な知識を持つ不動産会社や弁護士などに相談することをおすすめします。
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