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諾成契約とは?要物契約との違いや民法改正による変更点をわかりやすく解説

諾成契約とは?要物契約との違いや民法改正による変更点をわかりやすく解説
契約という言葉は頻繁に耳にしますが、「契約とは何か?」と聞かれると的確に答えられる方は少ないのではないでしょうか。契約には種類があり、諾成契約とはそれらの契約を分類するカテゴリの一つといえます。
2020年の民法改正により、諾成契約に該当する契約が増えました。諾成契約について知ることは、契約についての理解を深め、契約トラブルから身を守ることに役立ちます。
本記事では、不動産の契約にも関わりのある諾成契約について解説します。

諾成契約(だくせいけいやく)とは?

諾成契約(だくせいけいやく)とはどのような契約でしょうか?
諾成契約(だくせいけいやく)とはどのような契約でしょうか?

諾成契約(だくせいけいやく)とは、当事者の意思の合意のみで成立する契約のことをいいます。契約をする場合、書面で契約書を交わすことが必要と思われがちですが、実はそうではありません。書面で契約書を交わさなくても、口頭でお互いに意思表示をするだけで契約が成立します。お互いに意思表示するというのは、例えば次のような感じです。

諾成契約

スーパーやコンビニでも見かける、ごく普通のやりとりではないでしょうか。これが意思の合致です。つまり、皆さんは普段から、当たり前のように契約をしていることになります。
ちなみに、お店で商品を買うことは「売買契約」にあたります。何かを借りるときは「賃貸借契約」、無償で何かを譲ってもらうときは「贈与契約」です。民法では契約の種類ごとに分類がされており、典型契約として13種類の契約が規定されています。



要物契約とは?諾成契約とどう違う?

諾成契約と要物契約の違いは?
諾成契約と要物契約の違いは?

諾成契約の対義語となるのが「要物契約」です。要物契約とは当事者の合意に加え、物の引渡しが成立条件となる契約です。民法が規定した13種類の契約のなかでは、消費貸借契約、使用貸借契約、寄託契約が要物契約とされていました。後ほど詳しく解説しますが、2020年4月の民法改正でこれら要物契約のほとんどが諾成契約に変更されました。



諾成契約の成立要件

諾成契約の成立要件は?
諾成契約の成立要件は?

さて、ここで問題です。Aさんが、画家であるBさんから絵画を買いました。納品は1週間後です。契約が成立するのは、次のうちどの場面でしょうか。

① Aさんが絵を購入すると言い、Bさんが応じたとき
② Aさんが契約書にサインをしたとき
③ Aさんが代金を全部支払ったとき
④ 絵画が納品されたとき

諾成契約の成立要件は、当事者の意思の合致です。このケースで当事者の意思が合致したのは、いつなのか考えてみましょう。

答えは、①の「Aさんが絵を購入すると言い、Bさんが応じたとき」です。

売買契約では商品を注文することが申込みにあたり、相手が注文に応じることが承諾にあたります。つまり、諾成契約は申込と承諾によって成立します。契約書にサインすることや、同時に商品を引渡す必要はありません。しかし、例外として「保証契約」については、取引の安全を考慮し書面でおこなうことが効力要件になっています。

諾成契約の例

諾成契約の例を見ていきましょう
諾成契約の例を見ていきましょう

売買契約は諾成契約の典型的な例ですが、売買契約以外ではどのような契約が諾成契約になるのでしょうか。実際の例をいくつかご紹介しましょう。

贈与契約

贈与契約とは、自分の財産を特定の相手に無償で与える契約のことです。無償で与える意思表示と、相手方の受諾の意思表示の合致によって契約が成立します。簡単にいうと、「これあげるね」「ありがとう」というやりとりが贈与となるのです。贈与契約をしているという認識がなくても、日常的に使われている契約の一つといえるでしょう。

贈与には「書面による贈与」と「書面によらない贈与」があります。口頭で契約が成立した場合は「書面によらない贈与」となり、引渡しの前なら当事者の一方から撤回ができるルールになっています。これに対して書面による贈与の場合、引渡しの前であっても撤回ができないという違いがあります。

請負契約

請負契約とは、当事者の一方が仕事の完成を約束し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払う約束をすることで成立する契約です。例えば、「所要時間1時間でスマホを修理します」「では修理代金を支払うのでお願いします」というようなやりとりが請負契約にあたります。

ほかに運送業者に配達を依頼したり、リフォーム会社に家のリフォームを依頼したりすることも請負契約に該当します。請負契約は意思の合致のみで成立するので、契約書を作成する必要はありません。しかし、建設工事を請け負う場合には、建設業法により契約書作成が定められています。

贈与契約や請負契約以外に、業務委託契約、保険契約、委任契約など日常的におこなわれているさまざまな契約が諾成契約に分類されます。民法上の雇用契約も諾成契約に当たりますが、雇用契約については労働基準法を中心とした労働法が優先されますので、民法の規定が適用される場面は限られています。

不動産における諾成契約は?

不動産における諾成契約にはどのようなものがあるでしょうか?
不動産における諾成契約にはどのようなものがあるでしょうか?

不動産の契約については、不動産を借りる賃貸借契約と不動産を購入する売買契約、どちらも諾成契約に該当します。また、贈与契約がおこなわれることもあり、贈与契約も先ほどお伝えしたとおり諾成契約となります。不動産の契約という視点から各契約を見ていきましょう。

不動産賃貸借契約

賃貸借契約とは、何かを有償で借り受ける契約です。マンション・アパートを借りる場合、借りたい人が「借ります」と意思表示をし、大家さんが「貸します」と意思表示をすることが意思の合致となって契約が成立します。書面を交わさなくても、口頭での合意で契約は成立します。ただし、実際は使用の制限や解約の条件を詳細に定めた契約書を交わすことが一般的です。

逆に、契約書を作ってくれない大家さんや管理会社から不動産を借りることは、トラブルが生じるリスクが高いといえるでしょう。

不動産売買

不動産の売買契約も諾成契約に該当します。不動産は食料品や日用品と違い、特に高額な買い物です。そのため、他の売買契約と扱いが違うのではと考える方もいるかもしれません。しかし、不動産も民法の規定に従って、他の売買契約と同じく「買います」という意思表示と「売ります」という意思表示の合致で、契約が成立することになります。ただし、不動産の賃貸借契約と同様に、トラブル防止のため契約の内容を詳細に記した契約書を交わすのが通常です。

なお、不動産の取引においては法令上の制限の有無や設備状況など、不動産特有の確認すべき項目がいくつもあります。そこで、宅建業法では取引時、宅建業者に契約内容の書面での交付義務や、宅地建物取引士による重要事項の説明及び書面の交付を義務付けています。

不動産贈与

不動産の贈与は、生前の相続対策としておこなわれることが多い契約です。通常の贈与契約と同じく、口頭のみで契約が成立します。口頭での贈与の場合、引渡しがされる前までは各当事者が契約を解除することが可能です。
しかし、ここでいう不動産の引渡しとは、実際に物件を引渡すことや、権利証を交付することなどが含まれます。引渡しがあれば、所有権移転登記がなくてもよいとされています。民法上は登記の有無を問わないとなっていますが、トラブルを避けるためには書面で贈与契約を交わし、実際の引渡しに加え所有権移転登記をした方がよいでしょう。



2020年の民法改正で諾成契約となった契約

2020年の民法改正で諾成契約となったものは?
2020年の民法改正で諾成契約となったものは?

2020年の民法改正で、これまで要物契約とされていた契約が諾成契約に変更になりました。これによって、今ではほとんどの契約が諾成契約に分類されることになっています。以下の契約は、民法改正により要物契約から諾成契約に変更された契約です。契約の名称だけ見ると、どのような契約なのかイメージしにくいかもしれません。しかし、比較的身近な契約ですので詳しく見ていきましょう。

  • 代物弁済契約
  • 消費貸借契約
  • 使用貸借契約
  • 寄託契約

代物弁済契約

代物弁済契約とは、弁済者と債権者との間で本来の債務を弁済する代わりに、別の物を給付して債務を消滅させる旨の契約をすることです。民法改正前は、代物弁済は要物契約であるという解釈が有力でした。しかし、実務では諾成的に使われることが多く、民法改正により諾成契約であることが明文化されたのです。契約自体は意思の合致のみで成立しますが、債務の消滅の効力は、代わりの物の給付が完了してはじめて生じることになります。

消費貸借契約

消費貸借契約とは相手方からお金を受取り、受け取ったお金と種類、品等、数量の同じ物を返す契約です。例えば、AさんがBさんから千円札を借りて買い物したとしましょう。借りた千円札はレジで支払ってしまいました。借りた千円札は消費したため手元にないので、別の千円札(種類、品等、数量の同じ物)を用意して返さなければなりません。これが消費貸借契約です。

民法改正前は、相手方からお金を受け取ることで契約が成立する要物契約でした。しかし、事前にお金を借りる契約が成立していないと、今後の計画が立てられないなど不都合が生じていたのです。判例でも諾成的消費貸借契約を認めていたことから、民法改正において、書面でおこなう消費貸借契約については諾成契約に変更されました。なお、書面でおこなわない消費貸借契約については、改正前と変わらず要物契約となっています。

使用貸借契約

使用貸借契約とは、相手から無償で物を借り、使用したあと、約束した日にその物を返すという契約です。例えば運動会で使うため、運動会が終わったら返すという約束で、知人から無償でビデオカメラを借りたとしましょう。これが使用貸借にあたります。

改正前の民法では要物契約とされていたので、前述の例の場合、知人からビデオカメラを受け取った時点が契約成立のタイミングとなっていました。しかし、民法改正で諾成契約に変更されたことにより、契約の成立要件にビデオカメラの受取は不要となりました。なお、改正民法では書面によらない使用貸借の場合、目的物を引渡すまでは貸主から解除ができると規定されています。

寄託契約

寄託とは、当事者の一方が相手方のために物を保管する行為のことです。家のリフォームのため、一時的に引越し業者に家財道具を預かってもらうようなケースをイメージするとわかりやすいでしょう。寄託契約も民法改正前は要物契約で、保管する目的物を受取ることで契約が成立するとされていました。しかし、実際は事前に当事者同士が合意をしてから目的物を引渡すような諾成的な実務がなされており、法律と実態が一致していませんでした。そこで民法改正により、寄託契約も実態に合わせて諾成契約に改められ、「保管の依頼をする」という意思表示と、「依頼を受諾する」という意思表示によって契約が成立するようになったのです。

寄託契約も使用貸借と同様、書面によらない寄託契約の場合において、物の引渡しを受けるまでは依頼者(寄託者)からの解除が認められており、一定の条件のもとに保管する側(受寄者)からの解除も認められています。

2020年の民法改正によって要物契約が諾成契約に変更され、多くの契約が口頭での意思の合致のみで成立することになりました。しかし、口頭での契約は「言った、言わない」のトラブルに発展しがちです。対象となる物が高額な場合や契約期間が長い場合、その他取引の安全に配慮する必要がある際には契約内容を書面にし、お互い理解をしたうえで契約を締結する方がよいでしょう。

諾成契約に関するおさらい

諾成契約とはどういう意味?

諾成契約とは、当事者の意思の合致のみで成立する契約のことをいいます。意思の合致とは「これください」「かしこまりました」のように、申込と承諾の意思表示が合致することです。

諾成契約と要物契約はどう違う?

諾成契約は当事者の意思の合致のみで契約が成立するのに対し、要物契約は当事者の意思の合致と目的物の引渡があって、初めて契約が成立するという違いがあります。

2020年の民法改正で諾成契約になった契約は?

2020年の民法改正で要物契約とされていた「代物弁済契約」、書面による「消費貸借契約」、「使用貸借契約」、「寄託契約」が諾成契約に変更されました。

いかがでしたか?諾成契約と要物契約について、具体例を交えてお伝えしました。本記事の例を見て、なんとなく契約のイメージをつかめた方も多いのではないでしょうか。一言で契約というと、なんだか堅苦しい感じがあるかもしれませんが、世の中は契約で溢れています。諾成契約は物の引渡しがなくても契約が成立するため、何を・いつ・どこで・どのように引渡してもらうかなど、契約内容、契約条件を事前に明確にしておくことが重要です。

その場の勢いに乗せられて「買います」と言ってしまい、後から冷静になって「やっぱりやめたい」と思っても、相手が悪質なら「もう契約は成立している」と主張されてしまう可能性だってあります。不動産の売買や賃貸も諾成契約となっており、意思の合致のみで契約が成立するため、このようなことがないとはいえないのです。特に大きな契約については、後から後悔することがないよう意思表示の重要性を認識し、慎重に対応するようにしましょう。

森川美琴

執筆者

森川美琴

司法書士

2014年度合格。2023年小藤・森川司法書士事務所設立。宅建士、AFP2級、行政書士有資格者。新築マンションから中古物件売買、相続まで不動産登記全般に携わる。また未成年者のための法教育にも積極的に取り組んでいる。プライベートでは一児の子供を育てるシングルマザー。

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