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住宅ローンの審査に勤続年数は関係する?転職の場合は?審査に通るポイントを解説

住宅ローンを組む際に審査があるということ自体は、比較的よく知られているかと思います。しかし、具体的にどの項目が審査の対象になるのかご存じでしょうか。
また、勤続年数が審査に影響すると聞いたことがある人もいると思いますが、勤続年数が短い場合はどのような対策があるのでしょうか。この記事では、住宅ローンの審査の疑問を解消しながら、スムーズに審査に通るためのポイントを解説します。

住宅ローンの審査基準とは?どこを見られる?

住宅ローンを借りるためには審査に通らないといけません。具体的にどのような内容が審査されるのか、代表的な審査項目をご紹介します。

勤続年数

住宅ローンの返済は長期にわたります。そのため金融機関が重視するのは、主債務者が安定した収入を得て、きっちりと返済をしてくれる見込みがあることです。
こうした理由から、一定の勤続年数があるかを審査基準としています。主債務者が転職をすると、勤続年数が短くなるため審査に影響する可能性があります。

年齢

一般的に住宅ローンの審査では、完済時の年齢は80歳まで、借入時の年齢も70歳や65歳までなどの基準があります。
これらの基準は金融機関によって異なります。なお、完済時年齢の上限が80歳の金融機関で35年ローンを組もうと思えば、必然的に45歳までに申し込む必要があります。

年収

年収の基準も金融機関によって異なりますが、最低でも100万円以上としている金融機関がほとんどです。また返済負担率(年収に占める年間返済額の割合)も審査項目となり、年収によって借りられる金額が違ってきます。

例えば【フラット35】の場合、年収400万円未満の返済負担率基準は30%以下、年収400万円以上の場合は35%以下と決まっています。仮に年収400万円であれば、年間の返済額はその35%=140万円が上限で、月額にすると約11.6万円です。
なお、返済負担率を計算する際、住宅ローン以外にも借入がある場合はその返済額も含めて計算されます。

職業

業種や職種、勤務先や就業形態も審査の対象になり、やはり安定性が重視されます。したがって非正規雇用の場合や、収入に占める成果報酬の割合が大きい場合、また危険度の高い職種の場合などは審査が厳しくなる可能性があります。

健康状態

ほとんどの民間住宅ローンでは借入に際して団体信用生命保険(団信)への加入が義務付けられています。団信も加入時に告知や健康診断書による審査があるため、健康状態に大きな問題がないことが条件です。なお、健康状態の加入条件が緩和されたワイド団信もあります。また【フラット35】では、団信への加入は義務ではなく任意となっています。

不動産担保評価

本審査では、不動産担保評価は書類だけでなく、実地調査や保証会社による調査など、厳密な審査がおこなわれます。金融機関も不動産の担保価値を重視しており、担保評価が低ければ融資が受けられなかったり、融資額を減らされたりする場合があります。特に中古物件の場合は担保価値を低く評価される可能性が新築物件より高いので注意が必要です。

他の借入額

上述のとおり、返済負担率の計算では住宅ローン以外の借入額も含めて計算されます。したがって他の借入額が多い場合は、希望する金額を借りられない可能性があります。
またクレジットカードのキャッシング枠を設定している場合、実際にはキャッシングを利用していなくても利用枠があるだけで、審査のうえでは利用しているとみなされることもあります。そのため、複数のクレジットカードを保有している人は、事前に使わないカードを解約するなどしておいたほうがよいかもしれません。

勤続年数は審査に影響する?

国土交通省が国内金融機関を対象に調査をおこなった「令和2年度民間住宅ローンの実態に関する調査結果報告書」によると、回答した金融機関のうち95.3%が融資をおこなう際に考慮する項目として「勤続年数」を挙げています。
ここからは、住宅ローン審査において具体的に勤続年数がどう影響するのかを解説します。

勤続年数は最低限でも1年以上が必要?

住宅ローン審査の勤続年数の基準は金融機関によって異なりますが、「令和2年度民間住宅ローンの実態に関する調査結果報告書」(国土交通省)によると、金融機関が求める勤続年数は「1年以上」が654件、「2年以上」が57件、「3年以上」が195件、「その他」が221件と、「1年以上」と回答した金融機関がもっとも多くなっています(回答数:1087、複数回答)。

ただし、すべての金融機関で必ず1年以上の勤続年数が必要なわけではなく、最近ではネット系の金融機関を中心に勤続年数が1年未満でも受けつけたり、勤続年数を問わない金融機関もあります。また【フラット35】でも勤続年数は要件になっていません。

したがって、勤続年数は長いほうが選べる金融機関が増えるのは事実ですが、金融機関によっては、勤続年数が短くても住宅ローンを組むことは可能です。

参照:国土交通省「令和2年度民間住宅ローンの実態に関する調査結果報告書

住宅購入者の勤続年数は?

それでは、実際に住宅を購入した人の一般的な勤続年数はどのくらいなのでしょうか。

令和2年度住宅市場動向調査報告書」(国土交通省)によると住宅の種類別の購入者の勤続年数は次表のとおりです。
30代から40代で住宅を購入する人が多いため、「勤続10年~20年未満」がもっとも多くなっていますが、「勤続5年未満」の人も決して少ないわけではありません。最近は転職も一般的になってきており、勤続年数だけが審査の基準ではないため、特に勤続年数の長さにこだわる必要はなさそうです。


住宅の種類 勤続5年未満 勤続5年~10年未満 勤続10年~20年未満 勤続20年~30年未満 勤続30年以上
注文住宅 17.6% 25.6% 32.8% 12.2% 11.3%
分譲戸建て 16.1% 25.5% 32.6% 14.9% 5.6%
分譲マンション 8.6% 22.1% 33.6% 20.1% 11.1%
中古戸建て 14.8% 13.8% 31.1% 21.0% 11.8%
中古マンション 11.8% 14.1% 28.6% 25.0% 12.7%

【住宅の種類別 購入者の勤続年数の割合(三大都市圏)】※2 出典:国土交通省「令和2年度 住宅市場動向調査報告書」(調査対象:2019年4月~2020年3月に住み替え・建て替え・リフォームをおこなった世帯))

勤続年数が短くなってしまう場合の対応

転職をすると勤続年数は短くなりますが、だからといって必ずしも住宅ローンが借りにくいとは限りません。
転職にもさまざまなパターンがあり、転職先の会社や転職の理由によって審査への影響は違ってきます。いくつかのパターンを確認してみましょう。

転職で勤続年数が短くなってしまう場合

転職によって勤続年数が短くなっても、次のようなケースでは審査でマイナスにはならない可能性があります。その際に重要なことは金融機関とのコミュニケーションです。転職にプラスの要素がある場合は、審査の前にその情報を金融機関の担当者に積極的に伝えておくとよいでしょう。

大手企業への転職

本審査では、勤務先企業の事業内容や財務内容も調査の対象になります。業績良好な大手企業であれば安定した収入が見込めるため、勤続年数が短くても審査でマイナスにならない可能性があります。

関連会社への転職

書類上は勤続年数がリセットされて短くなりますが、関連会社への転籍であることを証明すれば、審査では勤続年数を転籍前と通算してもらえる場合があります。したがって審査前に、金融機関に転籍であることを説明しておいたほうがよいでしょう。

同業種への転職

仕事が長続きせず、業種や職種を転々としている場合は安定したキャリアが期待できないと判断され、審査でマイナスになる可能性があります。
一方、同業種への転職はそれまでに培った経験やスキルを活かすための前向きな転職ととらえられ、必ずしもマイナスとはなりません。特に転職によって年収がアップする場合は、逆に審査で有利になることもあるでしょう。

弁護士や税理士業への転職

弁護士や税理士の資格を取って転職する人は、実績のある弁護士事務所や税理士事務所に所属するのと個人で独立するのとでは違いがあります。実績のある事務所に所属するのであれば安定した収入が見込めると判断されやすいので、審査でマイナスにはならない可能性があります。
一方、個人で独立する場合は不確定要素が多く、特に開業当初は不安定と見なされる可能性があります。弁護士や税理士として独立する場合は一定年数の実績が必要になると考えておいたほうがよいでしょう。

フリーランス(個人事業主)への転身

フリーランス(個人事業主)の場合、直近3年分の確定申告の提出を求められます。所得が3年連続で黒字であることを条件としている金融機関も少なくありません。したがって、勤続年数が3年以上あることが前提となり、さらに安定して黒字を続けていることが求められます。ただし【フラット35】は開業後3年経過していなくても安定した収入があれば利用可能です。

勤務先が倒産してしまった場合

勤務先の倒産は本人の都合による転職ではありませんが、だからといって審査の基準が緩和されることは基本的にありません。勤続年数はゼロからになるため、転職後、一定の勤続期間があったほうが審査は通りやすくなります。また倒産による転職であっても、なるべくステップアップや年収アップにつながる転職ができたほうが審査ではプラスになるでしょう。

会社都合で転職を余儀なくされてしまった場合

リストラなどの会社都合で転職を余儀なくされた場合も、基本的には上述した倒産による転職の場合と同じです。退職後、なるべく期間を空けずに安定した職場に再就職し、可能であれば1年以上勤務してから住宅ローンに申し込むほうが審査は通りやすくなります。

なお、審査に通っても、融資が実行される前の転職・独立は避けるべきです。融資承認はあくまで審査時の勤務先・勤続年数に基づくものなので、融資が実行される前に勤務先が変われば融資承認が取り消される可能性があります。

年収は審査に影響する?

前述したとおり、ほとんどの金融機関では審査で年収の基準が定められおり、また返済負担率(収入に占める返済額の割合)も審査項目となっています。返済負担率の基準は金融機関によって異なりますが、【フラット35】の場合、年収400万円未満の返済負担率基準は30%以下、年収400万円以上の場合は35%以下ですので、それに照らし合わせると年収と借りられる金額の関係は次表のようになります。

 

  借入期間
20年 30年 35年
年収
300万円 15,542,578円 21,731,558円 24,495,039円
400万円 24,177,344円 33,804,646円 38,103,395円
500万円 30,221,680円 42,255,807円 47,629,243円
600万円 36,266,016円 50,706,969円 57,155,092円

※借入金利1.5%とした場合の借入可能額の試算(年収300万円は返済負担率30%、年収400万円・500万円・600万円は返済負担率35%で計算)

なお、返済負担率の上限で試算した上記の借入可能額は、あくまで「借りられる額」です。実際に住宅ローンを組む際には借りられるだけ借りるのではなく、「安心して返していける額」で借りることが何より大切です。

住宅購入者が住宅ローンを受けられなかった理由

住宅ローンの審査に申し込んだ結果、希望する住宅ローンを受けられないことも現実にはあります。「令和2年度住宅市場動向調査報告書」(国土交通省)によると、住宅購入者が希望額融資を断られた理由は次表のとおりです。

住宅の種類 年齢 勤続年数 年収 健康状態 所有資産
注文住宅 15.7% 15.7% 29.4% 13.7% 7.8%
分譲戸建て 29.2% 29.2% 41.7% 8.3% 4.2%
分譲マンション 16.7% 16.7% 41.7% 16.7%
中古戸建て 25.0% 22.7% 36.4% 6.8% 4.5%
中古マンション 27.8% 16.7% 27.8% 11.1% 2.8%

勤続年数に関してはすでに解説したとおり、金融機関によって条件が異なります。また、【フラット35】のように勤続年数が要件になっていない住宅ローンもあります。住宅ローンの審査は複数の金融機関に申し込めるため、ネット系の金融機関や【フラット35】も含めて複数の金融機関で審査を受けておくことをおすすめします。

返済負担率を確認し、無理のない金額で住宅ローンを申し込むことが大切です。年収がそれほど高くない場合でも、夫婦や親子で一緒に住宅ローンを組むことで借入可能額を増やす方法もあります。

このように住宅ローンの審査ではさまざまな手段や対策があるため、ご自身の勤続年数や年収などに不安がある場合は、不動産会社の担当者やファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談してみるとよいでしょう。

まとめ

住宅ローンを借りるためには審査を避けては通れません。スムーズに審査に通るためには金融機関が重視する主な内容を理解しておくことが大切です。勤続年数もその一つですが、今回解説したとおり、勤続年数が短いからといって審査に通らないわけではありません。ご自身の状況に合わせて適切に審査に備えるために本記事が少しでもご参考になれば幸いです。

長尾 真一

執筆者

長尾 真一

ファイナンシャルプランナー(AFP認定者)、企業年金管理士(確定拠出年金)

1977年広島県生まれ。大学卒業後、医療機器メーカー・エアライン系商社で海外営業として勤務した後、ファイナンシャルプランナーに転身。
生活に関わるお金の不安を解消し、未来に希望をもって暮らしていくためのお手伝いをする「生活設計のコンシェルジュ」として相談業務や執筆業務に従事。
企業や学校での講演・セミナーにも年間100回以上登壇しており、これまでの延べ聴講者数は2万人を超え、わかりやすい説明が好評を得ている。

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