擁壁工事とは?工程や費用の目安、トラブルと回避方法を解説
この記事では、擁壁の種類から実際の工事工程、新設費用の目安まで、擁壁工事の基礎知識を解説。よくあるトラブル事例とリスクを回避の方法も紹介しますのでこれから住宅を新築する方、既存の擁壁の老朽化が不安な方は、ぜひ参考にしてください。
記事の目次
擁壁とは

擁壁(ようへき)とは、高低差のある土地で傾斜部分の土が崩れるのを防ぐために設置される壁のこと。擁壁が建物や土の圧力に抵抗して支えることで、敷地や道路の安全を確保します。
ここでは、擁壁の役割や種類、耐用年数などを解説します。
擁壁の役割
擁壁のおもな役割は、崖や盛土の側面の崩壊を防ぐことです。
高低差のある土地や斜面を宅地として利用する場合、地面を平らにするために土を盛ったり(盛土)、削ったり(切土)して造成をおこないます。この時、高い地面と低い地面の間にできる段差部分が崩れないよう、側面を固定しなければなりません。この際に設置するのが擁壁です。
側面に擁壁を設置することで、高低差のある敷地を有効活用できるだけなく、地震や大雨などの自然災害時に地盤が崩れるリスクを軽減できます。また、川や海沿いの地域では、洪水や高潮などの水害から陸地を守るために設置されるケースもあります。
擁壁の種類と耐用年数
擁壁にはいくつかの種類があり、使用する材料や構造によってそれぞれ強度や特徴が異なります。ここでは主要な4種類の擁壁を解説します。
鉄筋コンクリート擁壁
鉄筋コンクリート擁壁は、コンクリートの中に鉄筋を配して強度を高めた擁壁です。現在の宅地造成などでもっとも一般的な方法で、「L型擁壁」や「逆L字擁壁」、「逆T型擁壁」といった形状があります。
強度や耐震性に優れ、垂直に施工できるため敷地を有効活用しやすいのが特徴です。工場であらかじめ製造されたプレキャスト製品を使用する他、現場でコンクリートを流し込んで作る場合があります。
耐用年数は、50年程度とされることが一般的です。
無筋コンクリート造擁壁
無筋コンクリート造擁壁は、鉄筋が入っておらず、コンクリート自体の重さで土の圧力(土圧)を支える擁壁です。「重力式コンクリート擁壁」とも呼ばれます 。
自重で支えるため壁に厚みが必要になります。用途にもよりますが、耐用年数は一般的に20年から30年程度で比較的高低差が小さい場所で採用されることが多い工法です。
コンクリートブロック擁壁
コンクリートブロック擁壁は「間知(けんち)ブロック」と呼ばれるコンクリート製のブロックを積み重ね、裏側にコンクリートを充填して造る擁壁です。
勾配(傾斜)をつけて積む必要があるため、垂直な擁壁に比べて敷地の有効面積が狭くなりがちですが、比較的安く施工できます。耐用年数は、30年から50年程度が目安となります。
石積み擁壁
自然石や加工した石を積み上げた擁壁です。石と石の間にコンクリートやモルタルを詰めて固める「練石積み(ねりいしづみ)」と、石だけを積み上げる「空石積み(からいしづみ)」があります。
比較的古い住宅地などで見られ、現在の建築基準法などの技術基準に適合しない「不適格擁壁」にも含まれることも多く、強度や耐震性に不安がある点に注意が必要です。
20年から30年程度の耐用年数とされることが多いですが、空石積みの場合個別の診断が必要です。
擁壁と他の壁との違い
擁壁と似た構造物としてブロック塀や土留めがあります。それぞれの違いを解説します。
擁壁と土留めの違い
土留め(どどめ)は、土が崩れないように止める工事や構造物全般を指す広い意味の言葉です。擁壁も土留めの一種ですが、一般的に「擁壁」と言うと、建築基準法などの基準を満たした構造物を指します。
一方で、ガーデニングの花壇の仕切りや、簡易的なブロック積みなど、小規模で法的な制約をともなわないものでも「土留め」と呼ぶことがあります。
擁壁とブロック塀の違い
擁壁は、高低差のある土地で土圧や自重、水圧を支えるための構造物です。一方、ブロック塀は「敷地の境界を区切る」「目隠しにする」ことを目的とした構造物であり、隣接する土地の高低差に関係なく設置されます。
一般的なコンクリートブロック塀は、土の圧力に耐えるようには設計されていません。そのため、擁壁のように土留めとしてブロック塀を使用することは危険であり、法律上も認められません。
擁壁に関連する法律
擁壁工事の際は、安全性を確保するためにさまざまな法律の規制を受けます。ここでは擁壁に関する3つの法律を解説します。
建築基準法
高さが2mを超える擁壁を設置する場合、建築基準法に基づく確認申請が必要です。地盤の強さや壁の構造計算などが厳しくチェックされ、検査済証が発行されたものでなければ適法な擁壁とは認められません 。
宅地造成及び特定盛土等規制法
この法律で指定された区域(宅地造成等工事規制区域など)で、以下の規模の工事を実施する際は、工事に着手する前に都道府県知事の許可を受けなければなりません。
- 切土:高さ2mを超える崖が生じる工事
- 盛土:高さ1mを超える崖が生じる工事
- 切土と盛土を同時におこなう場合に2mを超える崖が生じる工事
高さが2mを超える擁壁工事をおこなう場合、建築基準法の確認申請に加えて、この法律に基づく許可も必要になるため注意が必要です。
参照:宅地造成及び特定盛土等規制法第12条|e-GOV法令検索
都市計画法
都市計画法は、地域にもよりますが、主に1,000平方メートル以上の土地の形状を変えて宅地にする場合、あらかじめ都道府県知事の「開発許可」を受けなければなりません。
この許可を受けるにあたって、擁壁の構造や地盤の強さが厳格な技術基準(都市計画法第33条など)を満たしている必要があります。
つまり、開発許可を受けて造成された分譲地であれば、そこに設置された擁壁は行政の技術基準をクリアした安全性の高いものである証明のひとつとなります。
擁壁工事とは

擁壁工事とは、高低差のある土地で土砂崩れを防ぐための壁(擁壁)を新たに設置したり、作り直したりする工事全般を指します。
山や坂の多い日本では、傾斜地を切り開いて宅地造成をおこなうケースが少なくありません。宅地造成にあたり、そのままでは斜面が崩落する危険があるため、コンクリートや石材などで土留めをし、平坦な敷地にする工事をおこないます。
擁壁工事とは、斜面や高低差がある土地を安全かつ有効に活用できるようにするための工事です 。
擁壁工事が必要になるケース

擁壁工事は具体的にどのような場面で必要となるのでしょうか、主な3つのケースを見ていきましょう。
高低差のある土地に建物を建てる場合
傾斜地や起伏のある土地を宅地として利用するには、地面を水平にする造成工事が欠かせません。この時、高い部分の土を削り取る切土や、低い部分に土を足す盛土をおこないます。
このように作られた平坦な敷地の境界には、隣地や道路との間に高低差が生じます。段差部分(法面(のりめん))の土が崩れ落ちないよう、土留めとして擁壁の設置が必要です。
擁壁工事は、建物の敷地を確保し、敷地の外へ土砂が流出することを防ぐために必要な構造物です。
高低差が2m以上ある場合
各自治体の条例(通称「がけ条例」)や建築基準法などにより、敷地内や隣接地との高低差が2m以上ある土地では、多くの場合、擁壁の設置が義務付けられています。
高低差の測定基準などが自治体によって異なることもあるため、詳細は、自治体の窓口で確認しましょう。また、擁壁を造る際は、構造計算に基づいた設計と行政への確認申請が必要です。
既存の擁壁が劣化・老朽化している場合
中古住宅を購入したり、相続した土地に家を建て替えたりする際、すでに擁壁が存在しているケースもあります。しかし、その擁壁が現行の技術基準を満たしていない「不適格擁壁」であったり、経年劣化により強度が低下していたりしていないか確認しなければなりません。
例えば、石を積み重ねるだけで作られる「空石積み擁壁」は、構造の一体性や安定性が低いとされています。こうした擁壁は、地震や大雨の際に倒壊するリスクがあるため、状況に応じて補修や補強、あるいは造り替えを検討する必要があります。
参照:宅地擁壁の健全度判定・予防保全対策マニュアル|国土交通省
擁壁の劣化症状
次のような症状が見られる場合は、擁壁の強度が低下している恐れがあるため、専門家による診断も検討しましょう。
白色生成物
コンクリートや石積みの表面、あるいはひび割れ部分から、白い粉のような物質が染み出している現象です。「エフロレッセンス(白華現象)」とも呼ばれ、この白い粉の正体は、コンクリート内部の成分が雨水などに溶け出し、表面で結晶化したものです。国土交通省のマニュアルでは、壁面の数カ所から白色生成物が析出している場合や、壁面全体に析出し漏水も見られる場合を、劣化障害が進行している状態としています。
排水の不具合・ひび割れ・ふくれ・変形
擁壁の安全性を保つうえで、水はけの状態や形状の変化は重要なチェックポイントです。
以下の症状が出ている場合は、注意が必要です。
- 擁壁の水抜き穴から水が出ていない、穴が詰まっている
- 擁壁の表面が常に湿っている
- 擁壁に幅の広いひび割れや亀の甲羅のようなひび割れがある
- 擁壁全体あるいは一部がせり出している
- 擁壁の継ぎ目に段差や開きが発生している
このような症状が見られる場合、裏側の土に水が溜まり、水圧で擁壁を押し出す力が強まっていたり、地盤の不同沈下が生じていたりする可能性があります。
擁壁工事の工程

採用する工法によって工事の進め方には多少の違いがありますが、一般的な鉄筋コンクリート擁壁を新設する場合、おおむね次の流れで進められます。
現場の測量
工事をはじめる前に、敷地の境界線や高低差、地盤の高さなどを正確に測量します。図面どおりに擁壁を配置するための基準となる「丁張り(ちょうはり)」と呼ばれる仮設の木枠を設置し、位置や高さを現地にマーキングしていきます。
掘削作業
擁壁の基礎を作るための地盤を所定の深さまで掘り下げます。これを「根切り(ねぎり)」や「床掘(とこぼり)」と言います。擁壁を構築し直す場合は、古い擁壁の解体・撤去も併せておこなわれます。
床付け作業
掘削した底面に砕石を敷き詰めて転圧し、地盤を固めます。そのうえに、墨出しや型枠設置の作業をしやすくするために、「捨てコンクリート」と呼ばれる薄いコンクリートを打設します。
鉄筋組立作業
捨てコンクリートの上に記された位置に従って、鉄筋を格子状に組んでいきます(配筋)。
配筋作業は、鉄筋コンクリート擁壁の強度を決定づける重要な工程であり、鉄筋の太さや間隔、つなぎ目の長さなどが設計図どおりになっているか、正確な管理が求められます。配筋が終わるとコンクリートを流し込むための型枠を設置します。
擁壁のコンクリート打設
型枠のなかに生コンクリートを流し込みます。強度が均一になるよう、バイブレーターなどで振動を与えながら隙間なく充填します。
通常、ベースの底版部分と、立ち上がり(壁)部分に分けて打設することが一般的です。その後、コンクリートが固まるまで一定期間養生し、十分な強度が確保できれば型枠を取り外します。
埋め戻し作業
擁壁の裏側に土を戻します。この際、単に土を戻すのではなく、壁にかかる水圧を減らすために透水性のよい砕石を入れたり、排水層を設けたりします。
擁壁には壁面の面積3平方メートル以内ごとに、内径75mm以上の「水抜き穴」を1箇所以上設置するなど、適切な排水措置を講じることが技術的基準として定められています。排水設備が十分に機能しないと、雨水が溜まって擁壁崩壊の原因となるため慎重な施工が必要です。
完成検査
最後に、仕上がりの寸法や見た目、排水機能などに問題がないか検査をおこないます。
高さが2mを超える擁壁で建築基準法の確認申請をおこなっている場合は、役所の完了検査を受け、検査済証の発行を受けて完了となります。
擁壁工事にかかる費用・使える助成金

擁壁工事の費用は、種類や高さ、施工面積、現場の状況(重機が入れるかどうかなど)によって大きく変動します。一般的に、鉄筋コンクリート造(RC造)の擁壁を新設する場合、1平方メートルあたり3万円から10万円程度が相場と言われています。
例えば、高さ2m、幅15mの擁壁を造るには、およそ90万円~300万円の費用が必要です。また、既設の擁壁を造り直す場合は、別途解体費用などがかかります。
ただし、自治体によっては、擁壁工事の際に助成金を受け取れるケースも。ここでは、擁壁工事の費用負担を軽減できる自治体の助成金を2つ紹介します。
神奈川県横浜市の助成金制度
神奈川県横浜市では、自然崖や既存擁壁などでがけ崩れが予想されるがけ地に対して、擁壁工事や解体除去費などを助成する「崖地防災対策工事助成制度」を設けています。
対象となる崖地や助成金額は次のとおりです。
【対象となる崖地】
助成金を受け取るには以下の条件をすべて満たしている必要があります。
- 自然崖や擁壁などの人工崖
- 地盤面からの高さが2mを超えるもの、または道路等に被害が及ぶ恐れがある崖地は、道路面からの高さが上方1mまたは下方2mを超えるもので傾斜角度が30度以上の崖地
- 崖崩れにより居住用の建物または道路等に被害が及ぶ恐れがある崖地
【助成対象になる工事】
以下の条件をすべて満たしている必要があります。
- 予防対策工事(崖崩れ未然防止)及び復旧対策工事(崖崩れ発生後)
- 建築基準法もしくは盛土規正法の手続きが必要になる工事、または土砂災害防止法により指定された区域の全部・一部を解除できる法枠工事等
- 崖地の高さ及び広さが変わらない工事
【助成金額】
次の3つの基準のうちもっとも少ない額が支給されます。
- 助成対象となる工事費の3分の1以内
- 市で定めた工法別の単価より算出した金額
- 限度額400万円
参照:崖地防災対策工事助成金制度|横浜市(PDF)
福岡県福岡市の助成金制度
福岡県福岡市では、危険な擁壁や崖の崩壊による災害を防止するため、擁壁工事や補修・改修工事を助成する「福岡市宅地防災対策助成金」事業をおこなっています。
【対象となる崖地】
- 高さが2mを超える崖地
- 市が定める影響範囲に建築物、公共施設または私道がある崖地
- 既存擁壁がある場合は、築造後20年を経過している、または一定の変状があると判断される
- 工事完了後に土地利用できる平坦地の広さが工事着手前と同規模
【助成対象になる経費】
- 防災工事(擁壁工事)又は減災工事(補強工事または補修工事)に要する経費
- 既存擁壁の撤去工事及び付帯工事に要する経費
- 上記のほか、市長が必要と認める経費
【助成金額】
- 工事費用の3分の1
上限額は以下のとおりです。
| 防災工事 | 擁壁工事 | 300万円 |
|---|---|---|
| 減災工事 | 補強工事 | 300万円 |
| 補修工事 | 100万円 |
擁壁工事にまつわるトラブル

擁壁工事では、設計や施工に不備があったり、維持管理を怠ったりすると、深刻なトラブルを引き起こすことがあります。ここでは、代表的な4つのトラブル事例を紹介します。
擁壁の崩壊
擁壁が崩れ落ちてしまうトラブルです。原因としては、設計時の強度計算ミスや施工不良の他、経年による排水施設の不良などが考えられます。
また、既存の擁壁のうえにブロック塀などを積み増した増積み擁壁では、上下の擁壁の構造物が一体化していません。そのため、地震や大雨の影響でバランスを崩しやすく、崩壊のリスクが高いとされています。
建築基準法第8条では、建築物の所有者や管理者・占有者に対し、構造物の維持保全をおこない、安全を確保する義務を定めています。擁壁の崩落によって通行人などの第三者に損害を与えてしまうと、損害賠償責任を負う可能性がある点にも注意が必要です。
参照:擁壁のはなし|横浜市建築局(PDF)
水はけの不良
擁壁のトラブルで多いのが、排水に関する問題です。 擁壁の裏側には雨水や地下水が浸透しており、これを適切に排出できないと土の中に水が溜まり続けます。その結果、水圧で擁壁が外側へ押し出されたり、地盤が緩んで不同沈下を起こしたりします。
水抜き穴から水が出てこない、あるいは擁壁の表面が常に湿っている場合は、内部で排水不良が起きている可能性が高いでしょう。
隣地とのトラブル
擁壁は敷地の境界線に設置されることが多いため、隣地所有者とトラブルになることもあります。 よくあるトラブルの要因に次のようなものがあります。
- 擁壁の基礎部分(底版)が地中で隣地にはみ出してしまうトラブル
- 工事中に隣の敷地を掘削する必要が生じた際に承諾が得られないトラブル
- 重機の騒音や振動にともなうトラブル
- 擁壁を新設したことで雨水の流れが変わり、隣地に水が流れ込むトラブル など
トラブルを防止するために、工事前の正確な設計・測量と、近隣への説明・挨拶が重要です。
施工不良
技術不足による施工不良が原因のトラブルもあります。具体的には、以下の施工不良が挙げられます。
- コンクリートの厚みが設計より薄い
- 鉄筋の量が足りない
- 排水をよくするための砕石が入っていない
また、コンクリートの打設時に充填不足があり、表面に隙間ができたり、打ち継ぎ目が一体化していなかったりすると、そこから水が浸入して鉄筋が錆び、擁壁の寿命を縮める原因となります。
擁壁工事のトラブルを回避する方法

擁壁に関するトラブルが生じると、生命や財産(建築物)を脅かす事態になりかねないため、土地の購入前や工事の計画段階から適切な対策を講じることが重要です。
ここでは、トラブルを未然に防ぐための5つのポイントを解説します。
擁壁の状態や種類を事前に確認する
土地や中古住宅を購入する際は、敷地内にある擁壁がどのような種類で、現在の法的基準を満たしているかを確認しましょう。 注意が必要となるのは、現在の基準に合わない不適格擁壁です。
国土交通省のマニュアルでは、石積み擁壁(空石積み)、増積み擁壁、二段擁壁などが、構造の一体性や安定性が低い不適格擁壁として挙げられています。これらは再建築の際に行政から造り替えを指導される可能性が高く、予期せぬ出費となることがあります。
国土交通省の「我が家の擁壁チェックシート(案)(PDF)」を活用し、ひび割れや排水の状態を自分でチェックしてみることもおすすめします。
経験豊富な施工業者を選定する
擁壁工事は、構造計算や地盤調査など、専門的な知識が求められる工事です。単に工事費用の安さだけで選ぶのではなく、擁壁工事の実績が豊富で、地域の地盤特性や法規制(がけ条例など)に精通した施工会社を選ぶことが大切になります。
見積の際は、基礎の深さや水抜き穴の設置基準などが法令の基準を満たしているか、具体的な説明を求めるとよいでしょう。
適切な排水システムを設ける
擁壁の安全性確保にとって水の処理は重要です。設計段階で、敷地内の雨水が擁壁の裏側に集中して流れ込まないよう、地盤面の勾配や排水溝を計画する必要があります。
また、擁壁自体の水抜き穴が十分に機能するよう、裏側には透水性の高い砕石(裏込め石)を十分に充填しなければなりません。これにより、土の中の水分をすみやかに排出し、擁壁にかかる水圧を軽減できます。
完成してしまうと、排水層が設計どおりに施工されているかを確認できません。そのため、施工中に写真などで記録を残してもらうと安心です。
擁壁診断を受ける
既存擁壁がある場合や工事の品質に不安がある場合は、専門家による「擁壁診断(健全度判定)」を受けるのも有効な方法です。
例えば、「一般社団法人 日本擁壁保証協会」では、国土交通省が策定したマニュアルに基づき、擁壁の状態(ひび割れやはらみ、水抜き穴など)や環境条件を目視で確認し、擁壁の安全性を判定しています。
診断を受けることで、安全性が確認できない既存の擁壁でも、補修工事によって再利用できるケースもあります。
定期的な点検とメンテナンスをする
コンクリートや石材も経年により劣化するため、擁壁の安全性を維持するためには、定期的な点検やメンテナンスが欠かせません。特に、地震や大雨の直後は、新たなひび割れや変形がないか確認することが望ましいでしょう。
また、水抜き穴に雑草や泥が詰まっていると排水機能が低下するため、定期的な点検・清掃も大切です。
まとめ
最後に、擁壁工事に関する重要なポイントをまとめます。
擁壁工事とは?
擁壁工事とは、高低差のある土地で、斜面の土砂崩れを防ぎ、土地を有効活用するために壁状の構造物(擁壁)を造る工事のことです。地盤調査や構造計算に基づいた設計、そして適切な排水処理など、専門的な技術が必要となります。
擁壁の種類は?
主な擁壁の種類として、以下のものがあります。
- 現在主流となっている 「鉄筋コンクリート擁壁」
- コンクリート自体の重さで支える「無筋コンクリート造擁壁」
- 間知ブロックを用いた「コンクリートブロック擁壁」
- 古い住宅地で見られる「石積み擁壁」 など
ただし、石積み擁壁(「空石積み擁壁」や「増積み擁壁」)は、現在の技術基準に適合しない「不適格擁壁」である可能性もある点に注意しましょう。
擁壁工事にかかる費用は?
擁壁工事費用の目安は、一般的に1平方メートルあたり3万円から10万円程度と言われています。
ただし、擁壁の種類や高さ、施工条件によって費用は大きく異なるため、条件によっては高額な出費となるでしょう。助成金や融資制度を設けている自治体もあります。
土地や住宅を購入する際、擁壁の安全性や適法性は大切なチェックポイントのひとつです。擁壁は、単に土留めのための壁ではなく、生命や資産を守るための重要な構造物です。
一見すると頑丈そうに見える擁壁でも、経年劣化や施工不良によって見えないリスクが潜んでいることもあります。これから土地を購入する方も、すでにお住まいの方も、擁壁の安全性に少しでも不安を感じたら、自己判断せず信頼できる専門家に相談することをおすすめします。
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