クッカバラは元気
彩乃はやり遂げたんだ。あたしにだってできないはずはない。今からでも、と部屋を見回しながらわからなくなっていく。
いったい、何から、どうやって手を付ければいいんだ……。
変えたいのなら、部屋をおしゃれにしたいなら、魔法使いに杖を一振りしてもらうか、ビフォーアフターの匠にでも来てもらって、そっくり変えてもらうしかないだろう。
あーいいなあ。誰かあたしの部屋をまるごと素敵に変えてくれたらいいのに。
そんなうまい話があるわけがない。
魔法使いの知り合いもいない。
そう思っていたが世の中、いろいろなことがあるものだ。
「芹奈って一人暮らしだったよねー」
突然、佐藤香苗から声をかけられた。
「そうだけど」
同じ授業をいくつかとっているから顔見知りではあるが、いきなり声をかけられたことに少々戸惑う。
「私の友達、高校の同級生なんだけど、半年くらい留学するからその間部屋に住んでくれる人を探しているんだって。家具も全部置いていくからそのまま使ってくれていいって。けっこういい部屋なの。家賃もそんなに高くないし」
へーえ、そうですか。でも別に住む場所を探しているわけじゃないんですけど。
「けっこうおしゃれだよ。緑の館だけど」
「緑の館?まさか、部屋のものが全部緑色で統一……」
想像して、一瞬くらっとする。
「やだ、芹奈ったら面白いなあ。そんなわけないじゃん」
香苗の指がスマホの上を踊るようにタップする。
「ほら、これ」
うぃん。広げられる一枚の写真。白い壁。観葉植物。落ち着いた色のソファ。
「わ、素敵」
「でしょ?でもソファや植物は持っていけないし、ここが気に入っているからこのまま誰か住んでくれないかなあって言っているの。布団と身の回りのものだけ持ってきてくれたら、あとは相談で」
「へえ」
おしゃれな照明。きれいに片付いた部屋。インテリア雑誌の一ページみたいだ。本当にこんな部屋に住んでいる人がいることも驚きだが、このまま住まないか、なんてそんな夢みたいな話があるだろうか。
魔女が杖を振った。
ほら、素敵な部屋を出してあげたよ!
どうせ、今住んでいる部屋なんて折り畳みテーブルとカラーボックスぐらいの家具しかない。いや、家具なんてないに等しい。これはチャンスでは?
「でも、半年たったら出て行かなきゃいけないんでしょ?」
「んー。まあねー。先のことはわからないけど、最低半年、って言ってたから延びるかも。まあ、条件は直接話せばいいんじゃない?」
クッカバラは元気