隣は何をする人ぞ
「扉を開けなかったら、数時間は大丈夫でしょ」
「そうなの? ならいいけど、先週アイス安かったからけっこう買っちゃって」
「グリーンマート?」
「そう。半額セール」
「オレもまとめ買いに行きました」
吉村とサラリーマンの会話にあれ? となる。ご近所情報? じゃあ、やっぱり吉村はここの住人か。そうだよな。泥棒とか、計画的停電とか、考えすぎだよな、ははは。やっぱり、ただの停電だ。そう思おうとしたが、すっきりしない。
「とりあえず、戻りますか」
「まあ、何かあったら、また」
「ああ、俺、一階に来たついでにコンビニ行くわ」
兵頭の発言にあれ?と首を傾げる。
「兵頭さん、カギ、忘れたって言ってませんでした?」
「あ、そっか、そうだ、はは。戻らなきゃ」
坊主頭をぺしゃぺしゃ叩く。本当はこのままずらかりたかったんじゃないのか、ここの住民じゃなければ最初からカギなんか持っていないだろう。吉村が本当にここの住人だととしたら、そうか、他に仲間がいるのか。兵頭はひきつけ役で、なるべく多くの住民を住居から離れたエントランス付近に導くことが目的だった、としたら、ぼくと吉村とサラリーマンの部屋は確実にやられちゃっているんじゃないか?
そうだ、こいつが一番怪しい。最初に声をかけてきたし、それにこの坊主頭。坊主頭の奴に今まで一度だって会ったことがあったか?同じ五階ならエレベーターでいっしょになるとか、廊下ですれ違うとかあったはずだろう。これだけ特徴のあるやつならすれ違っただけでも覚えているはずだ。
だとしたら。
兵頭はここの住人じゃない。501に住んでいるのは兵頭という名前のやつかもしれないが、この坊主の男ではない。
ああ、なんとか吉村とサラリーマンにこの発見を伝えたい。だが、やはり証拠はない。
「長谷川さん、どうしたんです?」
サラリーマンがじっとぼくを見る。
「なんか、さっきから様子が変ですよね」
吉村もぼくを見る。
「え?」
「落ち着きがないし、なんだかおどおどしているっていうか……あんた、本当にここの住人?」
「は?」
ぼくが疑われている? なんで、どうして? 思いもかけない展開に呆然とする。
「もしかして、この停電、あんたがやったんじゃないの?」
「ど、どうやったらこのマンションだけ停電にできるんですか?」
「怪しいなあ」
「怪しい」
ぐるりと取り囲まれて何か言おうとするが声にならない。あわあわと舌をかみそうになる。落ち着け、落ち着け、これは何かの間違いだ。ぼくが疑われるなんて!
隣は何をする人ぞ