テーマ:ご当地物語 / 東京牛込

原っぱの怪人

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読者賞について

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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牛屋(ぎゅうや)が原(はら)は、ふだんは子供たちのいい遊び場になっていて、凧あげをしたり、戦争ごっこをしたりしましたが、夏になると町内会の設営(せつえい)で、盆踊りや植木市、相撲大会の会場になります。それどころか、紙芝居や猿まわし、ときにはテキヤの見世物小屋や軽業(かるわざ)一座(いちざ)のテントもかかります。そんなときは道夫はうれしさのあまり、半(なか)ば気の狂ったようでした。
空き地のすみには、くずれかけた赤レンガの建物の一部が、残骸(ざんがい)をさらしていて、そばに池がありました。春には水面いっぱいにお玉じゃくしが泳いで、秋にはカエル合戦がありました。昆虫類は取っても取りつくせないほどで、ギンヤンマ、オート、ショウリョウバッタ、蝉(せみ)などをさかんに追いまわし、ときにはトカゲやモグラを見ることもありました。
そのほか、夕方になると、まばらな立ち木の枝で、ばさりばさりとカラスが動いていて、子供たちが帰るころになると、おびただしい数のコウモリが原っぱの上空を飛びはじめます。コウモリは、新宿御苑の森からわいて出るということで、ワラジなんかをひろって投げ上げますと、どういうつもりか、それに抱きついて下に落ちてきます。落ちて白い歯をむき出しているコウモリに手を出しかねて、子供たちが遠くから竹の棒で突っついたりしていると、大人から、
「コウモリは、蚊(か)を食べてくれるんだから、そんなかわいそうなことをしちゃアだめだ!」
 と、叱られたものですが、ネズミに羽のついたような姿が気味悪く、あまりかわいそうという気はしませんでした。空を行ったり来たりして飛んでいるコウモリが、ぶつかるのではないかと思うと、接近した瞬間、たがいに道をゆずり合うように身をかわしている。
これは、電波を出し合ってよけているのだということで、コウモリにそんな通力(つうりき)があることも気味悪く感じました。

 紙芝居屋は、リヤカーをつけた自転車に乗ってやってきて、幕を張りめぐらした小さな囲(かこ)いをつくります。現在見ることのできる紙芝居は、話が進むにつれて紙に描いてある絵がつぎつぎに引き抜かれるというかたちのものですが、原っぱにやってくる紙芝居はかなりちがっていました。
 額縁(がくぶち)のような木のワクがあって、背景に黒い布が下がっています。このワクと黒布(くろぬの)のあいだから手を出して紙人形を使うのです。演じ手は黒布の後ろにかくれていて見えません。紙人形は竹の串の先につけてあって、絵は裏表(うらおもて)に紙を二枚はり合わせたもので、両面が使えるようになっています。

原っぱの怪人

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