テーマ:ご当地物語 / 神奈川県:茅ヶ崎市、藤沢市、鎌倉市

自分探し

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次の朝、目が覚めると8時半だった。カーテンを開けると真っ青な空と、真っ白に輝く太陽が目に飛び込んできた。目の奥がギュっと痛くなった。外は、絵に描いたような晴天だった。今日は絶好のサイクリング日和だ。朝食を食べ、水筒には冷やしたスポーツドリンクを入れた。ヘルメットをかぶりサングラスをかけた。2つとも今日この日を待っていたかのようにピカピカしていた。(おそらく日光のせいだが)準備は整い、いよいよ出発だ。とその瞬間、家の中から母が出てきた。熱中症と事故にはくれぐれも気を付けるようにとのことだった。やけに長い諸注意だったので、僕は繰り返し「分かったよ、大丈夫」と言って、何とか母を家の中に戻した。さぁ、いよいよ出発だ。とりあえずの目的地は江の島だ。茅ヶ崎駅をさらに南下し、国道134号線に出た。この道は、目の前に海が見える幅の広い国道だ。この道をずっと直進してゆくと、江の島に着く。またさらに進むと由比ガ浜の方まで続いている。まさしく湘南といった感じの景色を見ることができる。僕は15年以上この地に住んでいるのに、ほとんどここを通ったことがなかった。通ったとしても車でしかなかった。また、海がこんなにも近いのに、ここ最近はほとんど来てなかった。小学生の時は夏に結構遊びに来ていたとおもうのだけどなぁ。車道の端をすいすいと走ってゆく。しばらく走っていると、防砂林が多い場所を抜け、いよいよ海が見えてきた。気温も上がってきているので、さっさと江の島を目指すことにしよう。真夏だというのに顔に当たる海からの風は涼しく、気持ちよかった。昨日乗っていた時も風は心地よかったが、比べ物にならなかった。まさか8月に外でこんなにさわやかな思いをできるとは思わなかった。そうしているうちに、あっさり江の島についた。浜辺にはたくさんの人がうごめいていた。海で泳いでいる人、ビーチバレーをしている人、焼きそばを食べている人。その人たちを否定するつもりはないが、正直あんなに人口密度が高い場所にいるより、こうしてロードバイクに乗っている方がよっぽどすがすがしい気分になれると思った。このさわやかな風もビーチにいたのでは味わえないだろうし。
案外まだ疲れていない。よし、せっかくだし、由比ガ浜までめざしてみようか。僕は強くペダルを踏み込んだ。走っているうちに気が付いたことが、ロードバイクに乗っている人が結構いることだった。やはり皆このすがすがしさを味わいに来ているのだろうか。途中で、稲村ケ崎公園という、海にせり出したような形の公園についた。ここで一休みしよう。水筒に入っていたスポーツドリンクをがぶ飲みした。暑さのおかげで少しぬるくなっていたが、今は仕方ない。自動販売機があるから出発するときに買えばいいか。ヘルメットとサングラスをとってみた。海は太陽の光を反射して銀色に輝いていた。そして波で水面が揺れるたびに、その銀色はピカピカと光りながらまるで生きているかのように、人間を軽くあしらうように、海の上を動いていた。空の青と雲の白、そして海の銀色。美しかった。それ以外言葉が出なかった。おそらく人間には表現できないものなのだろう。青と白と銀色は、どれか一つでも欠けてはいけない絶妙なバランスで成り立っているような気がした。海はこんなにもきれいな所だったのか・・・。どうしてここ数年、あまり来なかったのだろうか。しばら海を眺めていたが、そろそろ出発しようか。そう思ってペダルに足を置こうとした瞬間、急に体の力が入らなくなった。あっという間だった。視界もどんどん暗くなってきた。海の涼しい風を浴びていたせいかまったく気が付かなかったが、相当体温が高くなっていたようだ。そしてこのとき、僕はなぜ夏が嫌いなのか、なぜ母は出発する前にあんなに長々と注意していたか、そしてなぜ海にも来なくなったのかが分かった。     

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