テーマ:ご当地物語 / 神奈川県:茅ヶ崎市、藤沢市、鎌倉市

自分探し

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読者賞について

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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今年も夏がやってきた。毎年毎年、律儀に来るなぁ。この季節が好きだっていう人もいるのだから不思議だ。そんなの蚊かセミぐらいかと思っていたが・・・。いつからこんなに夏が嫌いになってしまったのだろうか。三日前から夏休みに入った。学校にいってつまらない授業を受けずに済むが、その代わりに、長い退屈が両手を広げて待ち受けている。僕は部活に入っていないから、なおさらだ。友達と遊ぼうにも、みんな部活やバイトで忙しいらしく、なかなか都合が合わない。しなきゃならないことはある。机の上に山のように積み重なっている課題だ。ちなみに今朝、雪崩を起こし、今にも床の上に散らばってしまいそうだ。ただ、いくら暇とはいえ、その山に手を付ける気にはなれなかった。しかし、この退屈を何もしないで乗り越えられる気もしない。どうすればいいだろう。何をすればいいだろう。こんな時、「無趣味」の僕は困ってしまう。僕には趣味と呼べるようなものが無い。それもさることながら、僕はまだ自分というものがよくわからなかった。自分は何が好きで、何をしたいのか、一体どういう人間なのか。きっと趣味が見つかればもう少し自分のことをわかる気がするのだが。
ふと時計を見ると、午後12時半をさしていた。もうお昼か。確かに腹が減っていた。自分の部屋にこもっていると時間の感覚を忘れてしまう。居間に行くと、母と妹がそうめんを食べていた。さっそく椅子に座りお椀の中に氷とめんつゆと水を入れた。パキッと氷が割れる心地よい音がした。テレビを見るとちょうどツール・ド・フランスの生中継が流れていた。僕は幼いころから夏になると、フランスで行われる、この世界で最も過酷とも呼ばれる自転車レースをテレビで見るのが習慣だった。絶壁のような山道を、羽でも生えているのではないかというくらいスイスイと登ってしまうクライマーや、ゴールに向かって時速約80㎞。まるで弾丸のように突っ込んでいくスプリンター達はとてもかっこよかった。テレビ越しでもその迫力と必死さが伝わってくる。はっとした。僕は自転車レースを見るのが好きだ。でも見ていただけで、実際に選手たちの乗っているようなロードバイクには乗ったことがなかった。家にある自転車は、ハンドルの前にかごのついている、いわゆるママチャリだ。ロードバイクに乗って風を感じてみたい。選手たちのようにはいかないだろうけどそれでもママチャリとは格段に違うはずだ。ロードバイクに乗ってみたい。一瞬のうちにその気持ちは膨れ上がり、今にも破裂しそうになった。ロードバイクに乗って、湘南の海辺を走る。なかなかオシャレじゃないか。

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