テーマ:二次創作 / 萩原朔太郎『月に吠える』

月に吠えるよ、シャララララ 

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「ハウリン・アット・ザ・ムーン」は「サブタレニアン・ジャングル」の次に出た一九八四年のアルバム「トゥー・タフ・トゥー・ダイ」に入っている曲、何度も何度も聞いてきた。そうかこの曲にもビデオあったんか、世の中知らんことばっかりで最高や、声に出して言い、プロモーションビデオ再生し、ピコピコの人口的な音が混じるイントロ、これはこれで八十年代のええ味つけやナと久しぶりに噛みしめ、シャララララという言葉繰り返されるサビからはじまる曲の構成もええナと思い、映像を注視して三十五秒がたったとき、覚えず俺は、ヒャッホー! イエス! と叫んでいた。

 あのサル顔の役者、またビデオに出ていた。二度も続けてラモーンズのPVに出るなんて、こいつ、ラモーンズのなんなんや。今度のビデオ、波止場の場面からはじまり、そこのマフィアのボスとして出て来るが、ものすごく小男なのでまったく貫禄なく、それだけで可笑しい。ビデオのストーリーはあるようでないようではっきりとわからないが、ワシントン条約に反して稀少動物、こっそり密輸するように、サル顔、ラモーンズのメンバーを大きな木箱にいれて売り飛ばそうとする。確かに「ハウリン・アット・ザ・ムーン」の歌詞、最初んとこで「船がついて、飛行機も着陸、終わることなんてない」って歌われるから、それにあわせて波止場にしたのかナ。サル顔、箱に入ったラモーンズ眺めてニヤリとするが、なんともわざとらしくて面白くて、俺、こいつのことが好きになってきた。わけのわからないうれしさの中で、ビデオを見ていると、「闇んなかで、輝いて輝いて輝いてる、夜んなかで、きらめいてきらめいてきらめいてる」「なにも間違ってない、ほんのお遊びだ」と歌われる二番の歌詞、これくらいなら耳で聞いて俺にもわかる英語、こころに直接なにかを語りかけられたように思い、酔いと興奮のなか、涙が出てきて、けれどラモーンズのみんなが箱に入って運ばれているヘンな映像を視覚で捉えながらだから、なんやその状況とも思い、可笑しくて、泣きながら笑って、笑いながら泣いた。ラモーンズのみんなが死んじゃったことを思って泣くみたいなわかりやすい涙じゃなく、俺が思ったのは、ラモーンズは月にシャララララと吠えるバンドだったんだナということで、そういう泣き笑いの波が来た。

ウォッカロック、もう一杯注ごうと、台所に立ったとき、顔をついでに一洗いし、ふっと息をついて、流しの上の窓を開けた。今夜は示し合せたように、大きな大きな月が出ていて、俺はその月に向かって、シャララシャララと歌ってみた。ザラザラしたこころ、月に吠えたくなるやつのためにパンクはあるんちゃうか、思うた。たったひとり、大きな明るい月へ向かいシャララララ、しばらく歌うと、さっきみたいにぐしゃっとした涙じゃなく、さらっとした涙がまた出た。「ぬすっと犬めが、くさった波止場の月に吠えている。たましいが耳をすますと、ラモーンズがシャララララと歌う」。うん、今夜は酔いました。

月に吠えるよ、シャララララ 

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