テーマ:二次創作 / 萩原朔太郎『月に吠える』

月に吠えるよ、シャララララ 

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最初の曲はなんにしよう。トミーがドラムだった、結成からの四年、一九七八年までの曲をひとまずは聞いていきたい。となるとやっぱ、七六年、一枚目のアルバム「ラモーンズの激情」に入ってる曲からいこう、ってことになる。CDプレイヤーもターンテーブルもスピーカーに繋いであるし、「ラモーンズの激情」自体もCDとレコード両方で持っており、iTunesだってラモーンズでいっぱいだけど現代パンクの横着、ユーチューブでかけようと思った。音質とかどうでもええし、ユーチューブなら動いてるラモーンズが見えるナ、という考えやった。それが鳴るイメージはまだ胸の中に残っていたし、「ラモーンズの激情」の一曲目なので「電撃バップ」、これからいこう。
「電撃バップ」というのは邦題、ほんとは綴りのややこしい「ブリッツクリーグ・バップ」いう曲名、とはいえ「ブリッツクリーグ」なんて英単語、すらすら打てるわけもなく、ほんまにアホにやさしい世界になったありがたい、思いながら、Ramonesと打ってスペースキー、あとはユーチューブの検索窓が勝手に予測して候補出してくれた。Blitzkriegという横文字を眺めたら、ローリング・ストーンズの「悪魔を憐れむ歌」の歌詞にも出てきた言葉やナと思い、「電撃バップ」のタイトルはここからヒントをもらったんかナ? と連想した。はて、初期ラモーンズのみんな、ストーンズ好きだろうか? みんな死んだから聞かれへん。
こういうチマチマした連想を繋げていくのが好きで、こういうことを考えている時間に、いちばん自分というものがある気がするけど、こういう自分が好きか嫌いかはよくわからなくて、俺はずっとこんな感じなのだった。

俺が卒業したのは堺市立・深井小学校、三年生くらいんとき、理科の教科書に「ミョウバン」というへんなもんが出てきた。この「ミョウバン」という言葉には見覚えがあった。はやくうちに帰って調べたくてウズウズして、もう授業なんか上の空。はやあしで帰り、母ちゃんに買ってもらい冒険を夢見て愛読していた『冒険図鑑』という本を繰っていけば、なんじゅっページめかに、はたしてそれを見つけ、俺は有頂天になった。山歩きでマメができんようにする方法のところに、歩く前日に「ミョウバン」をとかしたぬるま湯に足つけとくといい、と書いてあった。ヒャッホー! イエス! 
これを次の日の朝いちばんに担任の安田のりお先生に言うたら、先生褒めてくれたけど、俺が思うよりは褒めてくれなくて、アレ? と思うた。俺はなんか間違うたんかナ? とも思うた。そいで授業が安田先生の得意の理科になるころまでに、その日、数時間あり、その間に俺、すっかりショゲてしまい、はじまった理科、「みなさん、ナルセくんがこないだ言うたミョウバンについてなんか見つけてきました。俺も勉強になりました。ナルセくん、持ってきた本、たって読みなさい」と指されたときには死にたくなっていた。違う。「山歩きの……」、砂を噛むように音読した。とても恥ずかしかった。どうしてミョウバンを溶かしたお湯についての文章など、俺は見つけてしまうのだろう。そうして俺は学校が嫌いになっていった。本も嫌いになっていった。嫌いになりたくなかったのに。

月に吠えるよ、シャララララ 

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