テーマ:二次創作 / 萩原朔太郎『月に吠える』

月に吠えるよ、シャララララ 

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 え。

トミー・ラモーン、死んじゃった?

死んじゃったっぽい。
スマートフォンのネットニュースでちらと見て、目、ちょっと大きなる気がした。あまり記事をちゃんと見る間なく、その時、御堂筋線は梅田についたので、「トミー・ラモーン」「死去」言葉の断片あたまに残したまま、今度は阪急の梅田駅へ歩く。せわしいひとの足取りの中に混じり、俺もぼんやり早足で歩く。
パン工場の仕事帰り、枚方から京阪線でまず淀屋橋まで、御堂筋線で梅田まで、梅田からまた少しの阪急、もう慣れた乗り換えは三回で、梅田出る阪急電車のドアがプシュリと閉まるとき、ほぼ部屋に帰ったよな気持ちになり、いつも息を吐く。
走り出した阪急のなか、朝日新聞デジタルの記事、立ったまま見直せば、「米パンクバンド、ラモーンズ初代ドラマー、トミー・ラモーンさん死去」、やはりそう書いてある。こめパンクバンド? サンディエゴのパンクでRICEというへんなバンド名の人たちがいて、その人らのレコードのジャケット、「米」って漢字で書いてあったりするから、「米パンクバンド」という見出しの字面見ると、それ頭に浮かんだが、あ、「米」ってアメリカのことな、と俺はすぐ理解する。記事くわしく読めば、今日は二〇一四年の七月十二日、大阪は晴れている土曜日だけど、トミーが死んだのはきのう十一日の金曜日らしくて、ニューヨーク。死因、胆管がん。胆管、ってどこかナ? たんかん、と読む? わからんけど、六十五で死んだ。そうか、俺とちょうど四十歳、離れとったんか。この年齢差、はじめて知る。トミーと俺、じいさんと孫でもおかしなかったこと、少しびっくりだ。

毎日起きる殺人事件なんかどうせ俺とは遠いこと、ニューヨークでトミーが死んだことのほうがよっぽど近い。そやから、他の記事見るのやめてスマートフォン、ポケットにしまおうと思ったが、野次馬な気持ちは誰かになにかを言いたくて、「きのうニューヨーク、トミー・ラモーン死にました」とマリにラインする。その時、「ニューヨーク」という言葉の変換候補に「紐育」と出てきて、どうして漢字にすると紐育と書くのだろう、あの街では紐が育つのか? にょきにょきと? と思う。すぐ、マリはラインを返してくれ、「いまそれナルセくんに言おうとあたしもおもった」「悲しいと言えばいいのかわからへん」とふたつにわけて伝えて来て、マリはいいこと言うと感じたからもう返事しない。なにかに満足して今度はほんとにスマートフォン、ポケットにしまい、夏の夕焼けの伸びやかな光、電車の中から眺める。きれい。

月に吠えるよ、シャララララ 

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