テーマ:二次創作 / 人魚姫

3番目のマーメイド

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いつものようにわたしは、真夜中に秘密の入江へとやってきた。満月の月のひかりがおだやかな海にひとすじのラインをつくっていた。人間の足にかえただけで、わたしにはまだ人魚の能力はそなわっている。海に両手をつけて、わたしたちの種族のみに伝わる音波でメッセージを送ってから波打際の砂浜にすわっていると、やがて月のラインを交互に飛び越えるようにして姉や妹たちが集まってきてくれた。わたしのすぐそばまできて横たわったショートカットヘアの姉や妹たちは、みんな笑顔だった。人間が発生させるさまざまな海の中の騒音のせいで、わたしたちの能力はさらなる進化を遂げていた。わたしたちは用心深く、テレパシーで話す。
(心配かけてごめんね)と三女であるわたし。
(だいじょうぶ?)と長女。
(うん、だいじょうぶよ)とわたし。
(ナイフは使わなかったのね)と次女。
(かれの結婚相手は男だったの。魔女の条件は、わたし以外の女と結婚したらってゆうことだったから、だからもう、わたしは泡になることはないと思う)
(ならいいんだけど)と長女。
(式の前に気づかなかったの?)と次女。
(そうなの。かれ、行方不明だったでしょ。それに相手の名前がひかるだったからてっきり。それなのに、大切な髪の毛をわたしのために、ほんとにごめんね)とわたし。 
(いいのよ、髪の毛なんてすぐにのびるけど、あなたの命にはかえられないわ)と長女。  
(万が一ってゆうこともあるから、あのナイフはちゃんと持っておくのよ)と次女。
(わかってる)とわたし。
(これからどうするの?)とただひとりの妹。
(生きてゆくわ、このまま、人間のままで)とわたし。
(そっか、やっぱりそっか)と妹。
(でもたいへんよ)と長女。(ひとりで暮らしていくのは)
(覚悟はしてる)とわたし。(それにかれがこれからも、いろいろと協力するからっていってくれてるし、なんとかなるわ。この足は不便きわまりないけど、死ぬほどじゃないし。それに歩かなくても移動できるものが、いまの人間の世界にはたくさんあるから心配してないの。仕事のほうも、イルカトレーナーとしてやっていけると思うしね)とわたし。
(ひくてあまたよね)と次女。
(どういう意味?)と妹。
(食べていくのに、困らないってことよ)と次女。
(なるほど。ぜったい世界一のイルカトレーナーになれるわね)と妹。
(さびしくない?)と長女。
(こうしていつでも会えるから)とわたし。
姉や妹たちがそれぞれにそうねと微笑んでくれたので、わたしは泣きだしそうな微笑みでこたえるのが精いっぱいだった。 

3番目のマーメイド

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