テーマ:二次創作 / 人魚姫

3番目のマーメイド

この作品を
みんなにシェア

読者賞について

あなたが選ぶ「読者賞」

読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

閉じる

結婚式の招待状が届いてからというもの、わたしはかれの居場所を血眼になってさがしていた。やむえなかったけれど、それにはかなりのお金を使ってしまった。それもそのはず、大手の探偵事務所に依頼して、可能なかぎりの探偵を一度におおぜい雇ったのだから、そこそこの額になるのはいたしかたないことだった。でもそこまでするのには、のっぴきならない理由があったから。彼を一刻もはやくみつけださないといけない、切羽詰まった理由がわたしにはあったから。目的はもちろん、彼を殺すこと。殺さなければ、わたしが死んでしまう。そう、わたしはマーメイド。かれがだれかと結婚してしまったら、わたしは泡となって消えてしまう。それが、魔女との約束。わたしは生きたい。裏切ったかれが生きて、わたしが死ぬなんてどう考えたっておかしい。だから殺す。かれには悪いけど、死んでもらう。生きるためだものしょうがない。この世界でいちばんとまでいわれた美しい声をうしない、もう水に濡れてももどることはない歩くたびに激痛がはしる人間の足にかえて、ほんとうにつらくて痛くてたまらない犠牲をはらってまでして人間になったわたしなの。これからも死ぬことはなく、生きてゆける方法がたったひとつあるのだから、それを行使しない手はないと思う。それは残酷で冷酷な血も涙もない方法だけれど、それしかわたしが生き延びる方法はないのだからやるしかない。何度もいうけど、裏切ったのはかれのほうだから。あんなに一途だったわたしを捨てて。まあ正確にいったら、絶対に結婚はしないという条件をつけて、それを受け入れてくれるなら別れてもいいといってしまったのはわたしほうなんだけれど。それはもういまとなってはほんとうに、愚かで浅はかな判断だったと後悔しきりなんだけどね。だからといってあのとき、あの瞬間にわたしにかれを殺せたはずもなく、もう現実としてこうなってしまったわけだから、いまさら後戻りはできやしない。だって、そうするしかなかった。愛してないといわれたら、もうこの、ぎりぎりの折り合いをつけて別れるしかなかった。かれは条件をのんで、わかったといって出ていった。わたしはわんわん泣いた。一晩中、泣いていた。人間になって、はじめて泣いたのはかなしみの涙だった。結婚しないってかれは約束したのに。どうして。わからない。人間とはそうゆうものなんだきっと。だからためらいなく、たんたんと、何にも思うことなく、わたしはかれの胸にナイフを突きたてる。そうすることができる。まちがいなく確実に。そして計画したとおりに完ぺきに。かれの胸から流れでたその血がわたしの足にかかったら、わたしは人魚にもどれる。ふたたび大海原を思いっ切り自由に泳いでみたいの。この人間の世界で思ったこと、感じたことを、海の世界のみんなに語って聞かせて、話し合って、のこりのいのちをチカラいっぱい生きてゆくの。

3番目のマーメイド

ページ: 1 2 3 4 5 6

この作品を
みんなにシェア

7月期作品のトップへ