最初に人間に恋したマーメイド以来、わたしも恋をしたいと想うマーメイドはいたことはいたけれど、ああいう最期を遂げてしまったことに対する恐怖心が彼女たちに二の足を踏ませていた。そんななか、人間に恋した3番目のマーメイドがいた。
今日は二〇一四年の七月十二日、大阪は晴れている土曜日で、ラモーンズの初代ドラマー、トミー・ラモーンが死んだのはきのう十一日の金曜日、ニューヨーク。阪急・十三駅近くのアパートに帰って、俺、はやくラモーンズが聞きたい。
風呂場や洗面所、家中の排水溝をパテで塞ぎ、窓枠もテープで目張りする。そして家中の蛇口を全開にひねる。今夜中には二階まで水は溜まるだろう。そう、今日から私はこの小さな家で、人魚と暮らすのだから。わがままで、すこし悲しい人魚の願いと、水浸しの暮らしの結末は……。
それは、突然の、来訪だった。うさぎと月、の、看板が、目印。その店の、前に。黒塗りの、車が、止まった。降り立った、紳士。仕立ての良い。三つ揃えの、スーツ。白い、ワイシャツ。絹の、ネクタイ。銀縁の、メガネ。ステッキ。紳士の、カタログから。
祖母の遺したシェアハウスの管理人兼住人として暮らす紅子。大学生の雪絵と太郎、留学生のグレーテ、専門学生のヒナキと過ごすルームシェアの日々に、ある夜新たな住人がやってくる。
野地沙麗子(のぢされいこ)。彼女のせいで最近の私は憂鬱だ。一人暮らしの部屋探し、おまけにお金に糸目はつけないときた。だが、その要望が「自分の髪を垂らしても問題ない物件に住みたい」という、わけのわからないもので…。