テーマ:二次創作 / ギリシャ神話・ミノタウロス

ラビリンス

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読者賞について

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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 あらかじめ知っているとはいえ、やはり説明を聞いているだけで鼻息が荒くなってしまう。こんな簡単なゲームに勝つだけで都心の一等地の豪邸が、しかも土地家具家電付きで手に入るなんてまさに棚からぼた餅、濡れ手に粟。しかもその告知がウェブサイトで無造作に行われているなんて、全く時代の変化とは恐ろしいものである。
私は夢想する。どちらにお住まいですか?あそこに?戸建てですか?いやあ羨ましいなあ。え、いいんですか?ぜひ遊びに行かせてください。ゴルフ?少しは嗜みますがまたどうして、え、何ですって、庭にコースが?いやあ驚いた、凄いですねえ、全くこちらも少しはそのご利益に預かりたいものですよ――。
この頃すっかり口を利いてくれなくなった由香のはしゃぐ顔が目に浮かぶ。お父さん、友達呼んでいいかな、自慢したい!いいともいいとも、何ならクラスの全員を呼んでパーティーを開こうじゃないか。素敵、お姫様みたい!部活三昧で休日もほとんど家にいることのない俊哉だって大喜びだろう。やったね、わざわざグラウンドまで行かなくてもここで練習できる。いやこれは本来はゴルフ場なのだが、いいだろう、可愛い息子がそう望むならば野球場として明け渡すことに躊躇いはない。じゃあわたしはリビングでダンス仲間と発表会をしたいわ。勿論だ有希子、好きに使いなさい。
私は拳を握り締める。これは戦いだ。家族の愛と団欒を勝ち取るための大戦なのだ。
「それでは、カウントダウンに入ります。五、四、三、二、一、スタート!」
 スピーカーがハウリングすると同時に扉が開き、私たちはマラソンランナーのようにどっと走り出した。
 玄関を通り抜けた先は、マンションの部屋が二つか三つほども入ってしまいそうな広いホールになっていた。あまりの広さに目眩がしそうだ。右奥には二階に上がる螺旋階段、正面には奥に続く絨毯敷の廊下が緩やかなカーブを描いており、どうにも遠近感を狂わされる。左には庭園に続くガラスの扉が見え、その先には果てしない緑が広がっていた。
参加者たちからどよめきが上がる。やはり皆、予想外の広さに戸惑っているのだ。しかしいつまでも立ち尽くすわけにもいかず、右往左往しながらそれぞれの道に分かれていく。
「前田さん、それではお互い頑張りましょう」
 爽やかな笑顔を残し、藤城翁も軽やかな足取りで廊下の奥に消えていった。私はとりあえずまだあまり人のいない螺旋階段を上る。上りきった先にはまた絨毯敷の廊下が続いているが、階段はそこで途切れていた。これより上の階に行くにはまた階段を探さなければならないようだ。

ラビリンス

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