テーマ:一人暮らし

おかえりなさい

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読者賞について

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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 そして、また車に乗って、移動をする。道すがら、大きな公園が見えた。
 「すごい、大きな公園ですね」
 「そうですね、この辺りだと県内でもかなりの大きさの公園になるかと思います。スポーツ施設もあって、お花も四季によって色々なものが咲いてとても綺麗なんですよ」
と教えてくれた。
 その後、車は少し坂道を登り、線路沿いを走った。6両編成の電車が横を走っていく。
その後、女性が
 「到着しました」
と言った。車は白い建物の前で止まった。
 「私はちょっと車を止めてきますからここの前で待っていて下さいね」
と言われ、私はその場所で大人しくしていた。どうやら、一階部分は店舗になっているようで眼鏡をかけた人の良さそうなおじいさんがちらっとこちらを見た。私は挨拶をするべきなのか迷いながらも軽い会釈をした。おじいさんもぺこりと会釈を返してくれた
 なんとなく居心地が良いとは言えない状況に、早く女性が来ればいいのにと、先ほど車が走り去った方角を見つめる。女性の姿が曲がり角から見え、足早にこちらに近づいてきた。
 「お待たせしてしまい、すいません」女性の額には汗が滲んでいた。
 その姿を見て、少し胸が痛んだ。
 「こんにちは、お世話になっております」
女性は迷いなく店舗部分に入り、先程私が会釈を交わしたおじいさんに話しかけた。
そして、私に向き直り
 「こちら、今から見に行くお部屋の大家さんです」
と紹介された。
 「お世話になります」
今度は会釈ではなくお辞儀をする。
 「ああ、うん、なんかね、そうかなって思っていたんだよ」
と静かな声でおじいさんは言った。
 「今からお部屋を拝見させていただきます」
 「ああ、うん、気に入ってくれると良いんだけどね」
控え目とも言えるその口調に少し親近感が湧いた。階段を使って三階まで上がる。
外廊下から電車が通過するのが見えた。私は少し動悸がするのを抑えながら女性が鍵穴に鍵を差し込むのを眺めていた。
 室内に入ると、角部屋のおかげで両方向から陽の光が差し込んでいた。がらんとした空間に響く二つの足音。女性は先に室内に入り、ブレーカを探していていた。
 私は窓を開け、外の世界を見た。左手を見ると線路がどこまでも続いているように感じて、少し怖くなった。それを誤魔化すように右手を見ると、戸建ての住宅が広がり、そのうちの一軒の屋上で子どもが水遊びをしていた。色とりどりのパラソルが置かれたその場所で子どもは嬌声を上げながら、水を跳ね飛ばしていた。しばらくすると、踏切の閉まる音が聞こえてきた。

おかえりなさい

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