5月期
テーマ:一人暮らし
十月の訪問者
「ん。近いうちにきっと寄る」こっくり頷く。
駅まで送るという申し出を断り、明子は一人家路につく。
ホームに着くころには、あたりはすっかり暗くなっていた。電光掲示板に表示された「各駅停車」そして「急行」の文字。少し考えて、急行電車を待つことにした。それに乗れば、和宏よりも少し早く家に着くはずだ。
食卓に並ぶたくさんの料理を見て、和宏はなんと言うだろうか。食べながら、二人でいろんな話をしよう。佐保が暮らす町のこと、その地を流れる大きな川のこと、部屋から見える富士山のこと――。そうそう、佐保が和宏に会いに来るつもりでいることも、忘れずに伝えなければいけない。
夫の喜ぶ顔を想像して、思わず頬が緩んでしまう。今夜は久しぶりに、楽しい夕餉になりそうだ。
十月の訪問者