こじらせ男子、鎌倉で恋をする。
「でも、君の話を聞いて、おれも頑張んなきゃなぁって、素直に思えた。いままでずっとひきこもってゲームばかりしていたけど、それじゃあ駄目だよなぁ。ははは。」
俺は下を向いたまま、誤魔化すように笑う。
こんな話を誰かに話したのは、生まれて初めてだった。
「・・・悩んでいるのは、君だけじゃないよ。だから、大丈夫。」
そう言って顔を上げると、俺は、驚いた。
彼女は、静かに泣いていたのだ。
「え!?どうしたの?大丈夫!?」
俺が動揺しまくっていると、彼女はすぐに涙を拭いながら首を大きく横に振る。
「すみません。違うんです。すごく、嬉しくて・・・。」
彼女は、泣きながら、それでも笑っていた。
「ありがとう、ございます。」
彼女はそうお礼をいうと、嗚咽を抑えるように深呼吸をした。
「・・がっこう、がんばって、いきます。」
その瞬間、俺の淡い恋心は、確信に変わった。
***
夕方。俺は鎌倉駅近くの喫茶店で、仕事終わりの父に電話をかけた。
「おお。たかし。どうだ。一人旅は楽しんでいるか。」
「うん、旅って程の距離じゃないけど。今、鎌倉にいるよ。」
「おお。そうか。いいとこじゃないか。父さんあそこの鳩サブレが大好きでな。土産に買ってきてくれ。」
相変わらず、父はマイペースに話を続ける。
「・・あのさ、父さん」
「ん?」
「今日、帰るよ。あと、母さんに言っといて。パソコン直しとけって。壊れたままじゃ、大学のレポート、書けないからさ。」
一瞬の沈黙が、流れる。
「・・わかったよ。必ず伝える。」
父は笑いながら、でもとても、嬉しそうに応えてくれた。
「・・ありがとう。」
父との電話の後、俺は再び自分のスマホに目を向ける。
「・・・・さて。」
友人の皆無だった俺のアドレス帳に、新しい名前が表示される。
-新田 明美(にった あけみ)
(よっしゃああああ!!)
俺は心の中で盛大なガッツポーズをした。
あの後、彼女との会話は続き、別れ際に思い切って彼女の名前と連絡先を聞いた。それが今、俺のスマホに輝かしく入っている。
さすがにアドレス聞くときは緊張で吐きそうになったが、それも今はいい思い出だ。
そして俺は早速、明美ちゃんにお礼メールなるものを打とうと文面を必死に考えている。
(・・・落ち着けよ、俺。)
彼女はまだ高校生だ。がっつきすぎるのもよくない。
とりあえずは、今日会えて嬉しかったという旨を伝えようじゃないか。
メールを打つ手が緊張やらなんやらで汗にまみれ、震える。それでも何とか文章を捻り出した。
-今日はありがとう。クレープ美味しかった。色々と話せて俺も元気になったよ。
(とりあえずは、こんな感じで大丈夫か・・?)
こじらせ男子、鎌倉で恋をする。