こじらせ男子、鎌倉で恋をする。
自分の記憶の中にある鎌倉駅に比べて、ホームの幅が随分と狭いのである。
そして俺は、すぐに自分が大きな間違いをしたことに気が付いた。
駅の名前が書いてあるプレートを見る。
「北、鎌倉・・。」
見上げると、「北鎌倉」という駅の表記。目的地であった鎌倉駅は、あとひとつ先だった。
どうやら俺は、寝ぼけて降りる駅を間違えてしまったようだ。
「あちゃあ・・・。」
都会とは比べ物にならない、のどかすぎる空気が俺を包む。
(・・仕方ない、次の電車まで待つか。)
と、諦めて辺りを見渡した、その時だった。
俺は視線の先にぽつりと立っている、一人の少女に目を奪われた。
「・・・・。」
俺の心は興味に忠実になり、彼女から目が離せなかった。
ひざ下10cm以上はあるプリーツスカートに、さわやかな白いセーラー服。いかにもひと昔前の女学生、といった格好の女子高生だった。
(こんな時間に、制服姿で一人か・・。それにしても、かわいいな。)
そんなことをぼんやり考えていると、俺の視線に気が付いた少女が、はっとこちらに顔を向ける。
(・・・はっ!!しまった!目が合ってしまった!)
これでは下手したら変質者に間違われてしまう!非常にまずい。
「・・あの・・何か?」
彼女は少し目を丸くして俺に話しかけてきた。
俺は激しく動揺しながらも、変質者だと誤解されぬよう必死に頭を働かせる。
「あ、あ、すみません!こ、このあたりに学校なんてあるんだなぁ、とあなたの制服をみて思っておりましてええ。」
ぎゃああ。何を言っているんだ俺は。これじゃあ本当に変な人じゃないか!
久しぶりに身内以外の人間と話をしたため、完全に俺はこの時、テンパっていた。
しかし意外なことに、彼女は俺の様子に怪訝な顔もせず、少し笑いながら丁寧に質問に応えてくれた。
「あぁ。そうです。ここから駅を出て、10分程歩いた場所に。女子校なんですけど。」
彼女は更に、奥に佇む景色を指さす。
向かい側の改札の向こうには、小さな建物の隙間に薄緑と深緑の木々が交互に風に揺れている。どうやらその先に、彼女の通う高校があるらしい。
「そ、そうなんですか・・。」
どうやら俺の事を変質者だと勘違いしていることはなさそうだった。
彼女の表情には、俺が恐れていた侮蔑や警戒の眼差しは無い。
そしてよく見ると、今どきの高校生にしては珍しく化粧っ気が全くない。校則だろうか。
彼女は更に気さくに続ける。
「お寺だけじゃなくて、結構この辺は学校も多いんですよ。ちなみに自然も豊かなので、リスなんかもよく見たりします。」
こじらせ男子、鎌倉で恋をする。