こじらせ男子、鎌倉で恋をする。
(・・あれ?ていうかこれデートみたいじゃないか?俺が意識しすぎなのか。)
「へ、へぇ・・そうなんだ。」
やばい。俺の緊張が伝わっていないといいが。
俺はクレープにかじりつく。俺は目の前にいる可憐な少女にドギマギしていた。
取り留めもない話題のあと、彼女はすこし伏し目がちに話し始めた。
「・・さっきの話の続き。」
「あ・・うん。」
「うちの学校、ちょっと窮屈で。おしゃれもできないし、勉強、勉強ってうるさいし。」
「・・・。」
俺は黙って、彼女を見つめる。
「周りの友達も、先生に媚売って、ばかみたいだな、とか思って。こんな態度だから、あたし、結構クラスで浮いちゃって。」
「・・・。」
「・・・色々、疲れちゃって。それで、ちょっと嘘ついて、息抜き。」
諦めと不安の影が、彼女の顔に色濃く映る。
「・・あ、すみません。初めて会った人にこんなこと。」
「・・・・。」
無理して作った笑顔を見て、なんだが俺も胸が痛くなる。
他人事じゃない、気がした。
「わかるよ・・・。」
俺はたまらず、話し出した。
「・・え?」
深刻な俺の声色に、彼女は少し驚いたように反応する。
「俺も、一緒だからさ。君の気持ち良くわかるよ。疲れちゃうよな。わかる。」
彼女への緊張はいつのまにか消え、俺は知らない内に、自分に言い聞かせるように話していた。
「気を張るの、疲れるよなぁ。でもそうしなきゃいられないんだよな・・。孤立したら、それこそ目をつけられるし。マジ怖いよな。」
俺の言葉に、彼女の瞳が、ゆらり、と微かに揺れる。
それはきっと、俺の言葉への深い同調なのだと思った。
ひとりだと、思っていた。
こんな、惨めな気持ちになるのは。
電車の中でみた夢の内容が、再び脳裏を過る。
何不自由なく高校まで過ごしてきた。俺は、自惚れていた。
でも、年を重ねる度、世界が広がる度に、俺は段々と小さく、弱い存在になっていった。
それがたまらなく辛かった。何もかも認めたくなかった。
だから、引きこもった。自分だけの世界で、自分は特別だと、もう一度信じたくて。
もう、傷つきたくなくて。
「おれは・・・。」
俺は下を向いて、話す。
視線の端で、いつの間にか彼女は、何かを堪えるような顔で俺をじっと見つめていた。
「おれも、嫌になってさ。自分のことが、誰かと付き合うのが、疲れちゃって。でも俺は君みたいに強くないから、本当に全部捨てて逃げちゃって。大学にも行かなくなって。」
「・・・・。」
こじらせ男子、鎌倉で恋をする。