こじらせ男子、鎌倉で恋をする。
目を見開いて30回くらいメールの文面をチェックした後、俺はいよいよ震える手で送信ボタンを押す。
(・・送った!送ってしまった!)
と、思う間もなく、画面上に既読の表示がつく。
(おわわわ!読んだああああ!!はやいいい!!)
ピコン。
数分経って、彼女からの返信を告げる電子音が響く。
俺はすぐさま内容をひらいた。
-こちらこそ、たくさん話を聞いて下さりありがとうございました。帰り道、気を付けて下さいね。-
可愛らしいスタンプと共に、彼女からもお礼の文が書かれていた。
(うわああああ!!やべぇ!!超嬉しい!)
俺は興奮しながら、必死に次の文を考える。と、その時。
ピコン。
「!?」
スマホの電子音が再び響く。
なんと彼女からもう一通、連続で送られてきたようだった。
俺は、はやる気持ちでメールを再び開く。
-また鎌倉の方にもぜひ遊びに来て下さいね。その時は彼氏も連れていきます。では-。
「・・・・。」
手に持っていたスマホが、ガタン、とテーブルに落ちる。
(彼氏、いたの・・・?)
天国のような気持ちから、一気に地獄に転げ落ちるとは、まさにこのことだ。
(こんな、こんなオチありかよ!!神様ああああ・・・。)
ショックのあまり、勢いよくテーブルに突っ伏す。現実は、やはり、冷たい。
俺の恋は、あまりにも呆気なく終わってしまった。
(-がっこう、がんばって、いきます・・。)
あの時の、彼女の気の張った姿を思い出す。
「・・・・。」
俺は傷心を抱えたまま、喫茶店を後にした。
(-人間、前を向こうと思えば、いつでも向けるものだ。)
「・・・・。」
父のあの時の言葉を改めて思い出す。
確かに、そうかもしれない。でもそれは、誰かと何かを共有できて、初めてその勇気がもてるのかもしれない。
「・・鳩サブレ、買おう・・。」
俺はゆっくりと、駅に向かって歩きだした。
人はやはり、そう簡単には変われない。
でも、人生をこじらせるのは、きっとまだ、まだまだ早い。
こじらせ男子、鎌倉で恋をする。