テーマ:ご当地物語 / 鎌倉

こじらせ男子、鎌倉で恋をする。

この作品を
みんなにシェア

読者賞について

あなたが選ぶ「読者賞」

読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

閉じる


目を見開いて30回くらいメールの文面をチェックした後、俺はいよいよ震える手で送信ボタンを押す。

(・・送った!送ってしまった!)

と、思う間もなく、画面上に既読の表示がつく。

(おわわわ!読んだああああ!!はやいいい!!)

ピコン。

数分経って、彼女からの返信を告げる電子音が響く。
俺はすぐさま内容をひらいた。

-こちらこそ、たくさん話を聞いて下さりありがとうございました。帰り道、気を付けて下さいね。-

可愛らしいスタンプと共に、彼女からもお礼の文が書かれていた。


(うわああああ!!やべぇ!!超嬉しい!)

俺は興奮しながら、必死に次の文を考える。と、その時。

ピコン。

「!?」

スマホの電子音が再び響く。

なんと彼女からもう一通、連続で送られてきたようだった。
俺は、はやる気持ちでメールを再び開く。


-また鎌倉の方にもぜひ遊びに来て下さいね。その時は彼氏も連れていきます。では-。


「・・・・。」


手に持っていたスマホが、ガタン、とテーブルに落ちる。

(彼氏、いたの・・・?)

天国のような気持ちから、一気に地獄に転げ落ちるとは、まさにこのことだ。

(こんな、こんなオチありかよ!!神様ああああ・・・。)


ショックのあまり、勢いよくテーブルに突っ伏す。現実は、やはり、冷たい。
俺の恋は、あまりにも呆気なく終わってしまった。





(-がっこう、がんばって、いきます・・。)

あの時の、彼女の気の張った姿を思い出す。

「・・・・。」

俺は傷心を抱えたまま、喫茶店を後にした。

(-人間、前を向こうと思えば、いつでも向けるものだ。)

「・・・・。」

父のあの時の言葉を改めて思い出す。
確かに、そうかもしれない。でもそれは、誰かと何かを共有できて、初めてその勇気がもてるのかもしれない。

「・・鳩サブレ、買おう・・。」

俺はゆっくりと、駅に向かって歩きだした。
人はやはり、そう簡単には変われない。

でも、人生をこじらせるのは、きっとまだ、まだまだ早い。

こじらせ男子、鎌倉で恋をする。

ページ: 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

この作品を
みんなにシェア

5月期作品のトップへ