テーマ:一人暮らし

住む記憶

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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「じゃあ、またね」
 行こうとする彼を、僕は我慢できず呼び止めた。
「あの」
「何?」
「連絡、するんですか?雪さんに」
 近藤さんは小さく息を吐いてから少し笑った。大人が子供へ向ける表情だ。失敗したかなと思っていると、彼は僕の頭をポンポンと叩いてから去っていった。僕は彼の後ろ姿を見送った。近藤さんは自分が馬鹿だったと言っていた。きっと、そうかもしれないと思った瞬間はあったのだろう。だけどちゃんと掴むことができなかったのだ。そしてそれは彼があそこで過ごした時間において、とても大切なものだった。僕は彼の過去との同居を楽しんでしまったし、あの記憶を届けられて良かったと思うけれど、でもやはり、自分のは置いて行かないようにしなくては。
 スマートフォンが鳴った。画面を確認すると、雅美からメールだ。
「うわ、先越された」
 いつか彼女を部屋へ呼ぶことになるのだろうか?そんなことを考えながら、僕は家路を踏んだ。

住む記憶

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