4月期
甲子園とチョコレート、そして四月
「こんな小っちゃい町やさかいな、お前が、もちょっと大きいなって、嫌になったら、いつでも出て行ったらええ。帰ってきたなかったら、帰って来ンでもええ」
「よっこいしょ」と肩車からコータを降し、マウンド上で手をつないだ。
「帰りたなかったら、帰って来ンでもええけどな、コータ。けんどな、父ちゃんは、お前がいつ帰ってきてもええように、ちゃんと、しといたるからな」
コータは、ヒロユキの言葉がわかっているのかいないのか、ぶかぶかの帽子の頭を傾げ、手をつないだヒロユキを見上げている。
「よっしゃ! も一発、挨拶代わりのストレートぶち込んだろ。ええか、コータ」
大きく振りかぶったヒロユキのフォームを、「きゃはは」と笑いながら、コータが懸命に真似る。
「よっしゃ! そうや、それから、こうやって……」
ゆったりとスローモーションで大きくテイクバックを取る、たどたどしいフォームのコータが続く。
そして、「ぶん!」と大きく右手を振りぬいたヒロユキに続いて、コータもまた「ぶん!」と口真似しながら、右手を振り下ろす。
大股に足を開いて腰に手を当て、顎をそらせて傲然と町を見下ろすヒロユキを、またコータが真似て同じポーズを決めた。
「きゃははは!なんなン、あんたらは……! あははは、変な親子……」
またも腹をよじって笑う美佐子の周りを、コータが「きゃはきゃは」笑いながら飛び跳ねる。
「ゴウ」と音を立てて山から一陣の風が吹き颪し、三人の上に桜の花びらを散らした。
甲子園とチョコレート、そして四月