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隣人田中さん

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「産地直送!」
母はいつも、勢いよく洗濯挟みから乾いた下着を引っ張り取り、笑いながら私に投げつけた。特に子供の頃、私と母は、下着は大抵、干してある乾いたものから着ていた気がする。
干してある所から、直接届くから「産地直送」なのだそうだ。手抜きといえばそうだが、女手一つで私を育てた母は、常に色々忙しそうではあった。

私は、今年4月から大学生になり、一人暮らしを始めた。奨学金貰えた事、家賃の3分の1を自分で負担する約束で、ここでの生活をスタートさせた。
他に仕送りは無いので、食費や光熱費等は勿論自分だ。世間の女子大生みたいな、サークルやら合コン的な生活なんて、私にはほぼ皆無だ。家中では夜はLEDのスタンドライトのみ、食事は一口コンロだけどひたすら自炊・お弁当作り・バイトの賄ご飯で食費節約、電源も使わないコンセントは全て抜いて、待機電力は可能な限りカット…一円も無駄にはできない生活をしている。
机、ノートPC、スマホ、iPod、本棚、冷蔵庫、電子レンジ、ミニソファー、クッション、カーペット、洗濯機、洋服かけ、鏡…。6畳のワンルームでは、目に入る位置に全てある。布団と漫画と化粧品だけ、ロフトの上だ。狭いけど、天井が高いのだけは気にいっている。
大分TVの無い生活に、慣れてきている。バイト帰ってきたら、シャワー浴びて、勉強して、ロフトの梯子登って、布団の中に潜りこむ。時々、小さな天窓を開けて、夜の空気の匂い吸い込んだり、星を眺める。最初、オリオン座しかわからなかったけど、星空アプリ起動してスマホを夜空にかざすと、画面に星座が沢山表れて、かたちや名前を教えてくれる。私には光る点にしか見えない星を見て、物語を想像した昔の人達は、凄いなぁと思う。
このロフトで寝るのも、何だか秘密基地に隠れている様な、冬眠みたく籠っているような気分になる。貧乏だと、一人遊びが上手になる。何にでも楽しみを見出だそうとするところは、母に似ているのかもしれない。

今日は、大学も休みで予定も0だ。昨日は深夜迄居酒屋でバイトして、倒れこむ様にソファーで寝てしまった。起きたら、丁度正午だった。猛烈にシャワーを浴びたくなり、のっそりと起きた。
ベランダから、タオルを取り込む。乾いたタオルが沢山あるから私は今、「タオル大臣」だ。母との昔からのやり取りの中で、アホな概念が私にも染み付いている。
「…産、直!」
略していいながら、私も下着をピンチから引っ張り取った。流石に下着は、室内干しにしている。

隣人田中さん

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