厄年の男、隣人宅にてシャワーを浴びれば
「ああ、大丈夫。厄年、とまんねえな」と、今度は少し嬉しそうにさえ聞こえる声色で笑顔の先輩に、「すげえっすね」と後輩は感嘆の様子であった。
それからしばし二人して歩いていると、先輩の厄年話にも一層花が咲いてくる。携帯をトイレに落とした先輩。バイト中、コンビニの弁当についたマヨネーズを一緒に温めてしまい、破裂させる先輩。実家に帰省する新幹線に乗り遅れる先輩。そしてまた目の前で、こける。道路に落ちたガムも踏む。落ち葉で取ろうとするが、上手くとれない。靴は新年のセールで買ったばかりの新品であった。が、よくよく見れば、セール対象商品ではなかった。家のトイレが詰まってしまった先輩。昨日の話であるから、まだ詰まったままである。だから怖いんだよ、帰ったら部屋中うんこの匂いしそうでさ。げ、なんすかそれ、臭そう。チーズバーガーを頼んだのに、チーズだけが抜けていた先輩。しかも店員に言えなかった。先輩は優しい。そんな優しい先輩は、電車で老人に席を譲る。そしてまだそんな歳じゃない、と怒られる。気まずくて立ったばかりの席にもう一度座った。空から鳩が落とした糞が、先輩の着ているコートに落ちた。カズさん、大丈夫っすか? ああ、大丈夫、厄年だから。年明けセールで買ったコートを、先輩はもうクリーニングに出さなければいけない。しかもこれも、家に帰ってコートについているタグを見たら、セール対象外だった。なんで買う前にタグ見なかったんすか? だって、全部セールだと思ってたから。という返答に、馬鹿なんすか、とは後輩は言わなかった。ほんと、厄年だわあ、と呟き突如後輩の視界から消える先輩。またこけていた。わざとっすか、とは後輩は聞かなかった。代わりに、厄年、こわいっすね、と半分飽き飽きしながら手を差し伸べる。先輩はそれを聞くと満足した様子で、だろ、厄年、こわいんだよ。と言って後輩の手に掴まろうとするが、痛っ。いってぇ。静電気であった。
「先輩これ、厄払いとか、した方がいいんじゃないすか?」
「厄払いな。俺もそう思って、少し調べてたんだよ。そしたらさ、あれってすっげえお金かかんの。一万とか二万とか、そういうレベル。俺さ、財布もすられたし、公共料金払えなくて、新年早々ガス止まってるくらいでしょ? そんな金どこにあんだって話だよ」
「うええ、今ガス止まってんすか。厄年、やばいっすね」
「いや、これは俺がガス代払ってないのが悪いから、しょうがねえけどさ」
厄年の男、隣人宅にてシャワーを浴びれば