厄年の男、隣人宅にてシャワーを浴びれば
年が明けてまだ間もない頃。いやあ、ほんと。と、誰に言うでもなく困ったように呟く声はしかしながら確実に隣の人物に向けられておる、となればもう一方は、あの、どうかしました、と伺いを立てるのは自明の理、仕方のない事であった。つまり二人はアルバイトの先輩後輩の関係で、コンビニアルバイトの夜勤業務を終えた二人は、まだ日も出て間もない、夕方程の明るさの空の下、とぼとぼと歩いておった。一月の初旬、痛いくらいの寒さに二人の吐く息は白かった。
「いやあね、あの。俺さ、今年が厄年でしょ、本厄」
「あれ、そうでしたっけ。カズさん、厄年っすか」
「そう。今年で二十五。早いもんだよ」
「あれ嘘、カズさんまだ二十三歳でしたよね」
「ああ、いや、違う違う。厄年はさ、数え年の方だから」
ああ数え年。と後輩は相槌うったが、しかし数え年数え年、とはよく聞くものだがいつも分からない。たしかに年配の親族などが、ばあさんももう数えで八十だからなあ、などと言う事はままあったので、なんとなく分かっているような気もするのだが、いまいちその数え方は判然としない。
「あの、カズさん、数え年って、どうやって数えんすか?」
「数え年? ああ。なんていうか、ゼロ歳とかも入れればそれっぽくなんじゃない。俺もよくわかんないけど、そういうことでしょ」
「へえ」
と、後輩は頷いたが、先輩の言い分もあまり判然としていないため、結局、数え年の明確な数え方を二人とも分からぬまま、危うく会話は終了しそうになる。いやいやそうじゃなくて、と思ったかどうかは分からぬが、話の本題を言い損ねてしまっては困る先輩は無理矢理に、でさ、厄年がさ、やばいんだよ。と話を戻した。
「へー、そんな厄年ってやばいんすか?」
「やばいよ。俺、厄年なんて信じてなかったし、というか厄年のやつら全員に厄が降りかかってくるわけないでしょ、そんなの、よく当たる占いじゃないんだから、ってなんにも気にしてなくて。でもね、やっぱり年明けてみたら厄がすごいの、止まんねえの」
ふーん。と言いながら、半信半疑の後輩は、たとえばどんなやつが、その、厄年らしいっていうのは、と聞けば、先輩は待ってましたとばかりに目を輝かせ、あれだよ、大晦日っていうか、本当元旦ね、その日は朝まで遊んでてさ、と話し出す。
「んで、さあ帰るかってことで始発の電車乗ったんだよ。みんな死んだような顔して電車乗ってるの。せっかく新しい年向かえたっていうのに、あれは馬鹿だよ、俺も含めて。ま、そんな話はどうでもよくて、そんとき財布盗まれたの。現金五万も入ってたのに」
厄年の男、隣人宅にてシャワーを浴びれば