テーマ:お隣さん

隣人はパールバティ

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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 魅惑的な隣人パールバティは、ほんの少しの間の間借り人なのだ。それでも、僕達は、バルコニーでちらっと顔を合わせる度に、身ぶり手振りの所作で挨拶を交わし続けた。
 そのうち、僕のスマホに彼女から三回目の公演情報が入った。次回も前回と同じで、週末に舞踊教室でやるという。「行くよ。」僕もすぐにそう答えた。
 三回目の公演も見応えのあるものだった。この頃には舞踊の所作の意味に関する僕の知識も少しは増えていた。そのために、舞踊を見ることが随分と楽しくなってきた。シバ神への愛を表現する所作の型は幾つもある。それが自分への所作と考えると、ますます楽しくなる。だが、それはいつまで続くのか?
 僕はその後も三回彼女の公演を見た。そして、ある週末の午後のことだ。バルコニーで顔を合わせるなり、彼女がこう言う。
「来月またインドに」
僕は舞踊の所作で答えたかったが、結局声を出してしまった。
「それは残念だ。寂しくなるなあ」
「・・・インドからメールを送るわね」
「・・・ああ、そうして。また会いたいね」
 彼女は、ええ、是非また、という返事を所作と声で表現した。
 
翌月初めの平日のこと、彼女は隣室を引き払って姿を消した。互いのバルコニーで戯れの挨拶を交わすことはもうない・・・ほんの一時的でも、隣室にはパールバティが住んでいた・・・舞踊衣装を着た彼女の魅惑の姿は、今でも色褪せることなく、僕の脳裏に生き々々と刻みこまれている。スマホの番号とメルアドだけが僕と彼女をつなぐ細い糸のようなものだ。僕は近いうちにインドにいるはずの彼女にメールを送ろうと思っている・・・返信があるかどうかは分らないが・・・

隣人はパールバティ

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