テーマ:お隣さん

In My Life

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読者賞について

あなたが選ぶ「読者賞」

読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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 由利子は髪を乾かすと、部屋着のTシャツの上にセーターを着てベランダに出た。大学の騒音に負けじとコオロギが鳴いている。十一月の夜はかなり冷えるが、湯船に長く浸かりすぎた由利子にはちょうど良かった。いつもより外に灯りの多い今夜も、空にはたくさんの星が輝いていた。由利子がベランダに出て少しすると、隣の窓がカラカラと音を立てて開いた。二人は顔を見合わせると小さく微笑み、ごく自然に会話を始めた。彼は由利子とは別の学部で、年は一つ上だった。成り行きで軽音部に入ったが、うまく馴染めず幽霊部員となった。友達はほとんどおらず、授業がないときは由利子と同様アパートで一人の時間を過ごしている。「だから今日もこの通り」と彼が肩をすくめ、由利子は「私も」と真似て見せた。それから二人は、好きな音楽のこと、映画のこと、本のこと、家族のこと、思いつく限りのたくさんの話をして、共通点を見つけては笑い合った。
「そろそろ学園祭もお開きかな」
彼が腕時計で時間を確かめて言った。家にいるときもずっと着けているという、祖父の形見の腕時計だ。
「毎年最終日には花火が上がるんだけど、良かったら……」
 彼の言葉の最後は、突如響いた爆発音にかき消された。思ったよりも早く始まってしまった花火に彼は苦笑いをして、さっきよりずっと大きな声で言った。
「見に行きませんか?」
 由利子は心からの笑顔で「はい」と答えた。

In My Life

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