テーマ:二次創作 / 萩原朔太郎『月に吠える』

月に吠えるよ、シャララララ 

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こんな俺の気持ちなど死ねば消える泡だけど、いまこの瞬間大事なことは「サイコ・セラピー」にプロモーション・ビデオがあることに気づいたってことで、たいへんだたいへんだと胸がドキドキする。好きなものだろうと知識は奇妙な偏りがあるもので、後期ラモーンズでとりわけ好きなほうの曲なのに、俺はこの瞬間まで「サイコ・セラピー」にビデオがあるなんて知らなかったから、胸が高鳴り頭は酔って、ダブルクリックがトリプルクリックくらいにはなる感じ、再生する。
「サイコ・セラピー」が入ってる一九八三年のアルバム「サブタレニアン・ジャングル」のドラム叩いてるの、このとき入ったばかりのリッチー、救急車のピーポーピーポーを重ねたザラザラしてはやいギターのイントロ、やはりたまらなく好きや思う。このビデオ、歌詞の内容に合わせてか、精神病院にメンバーみんな入れられているという設定のようで、鍵つきの大部屋んなかに全員いて、エアギターしたりエアベースしたりしていて、可笑しい。みんな頭がおかしくなってしまったという設定だから、実際にはないギターやベースが見えとるという世界になっとるが、リッチーがドラム代わりに叩いているのはお鍋、面白くて笑う。でもボーカルのジョーイは本当に精神ずっと病んでたらしいから、しゃれになるようなしゃれにならんような感じがする曲だ。途中に一瞬映るメンバーみんなのカルテに書いてある言葉が調べたくなり、一生懸命、映像から読み取れた英単語ネット検索してみたら、「ジョーイ・ラモーン、うつ病、きけんじんぶつ」「ジョニー・ラモーン、統合失調症、きけんじんぶつ」「ディーディー・ラモーン、重度のパラノイア、きけんじんぶつ」みたいなことが書いてあり、適当なような芸が細かいような設定の細部がおもしろくて笑う。リッチーのカルテは読めなかった。ビデオの真ん中あたりで頭がおかしくなった患者役で出ている女の子がいて、クルクル部屋を歩きまわるが、マリに雰囲気も顔立ちもよく似ておりドキッとする。「おわああ、ここの家の主人は病気です」。
このビデオ、うれしくて三回続けて見るうちに、このビデオの主役のような男のこと、妙に気になり、眼が離せなくなってきた。ペラペラの世界によく似合うペラペラな演技をする、サル顔の小男だった。精神病院にむりやり入院させられたパンクの役をしている。いかにも性格が悪そうな医者、死人が化けたものだとこいつの妄想の中で誤解され、蹴飛ばされたりする。そのあと、うおお、やめてくれー、みたいな顔をしながら、氷づけにされたり、脳波とられたりもする。すべての演技、かなり嘘くさく、素晴らしい。最終的にこいつを手術すると頭からもうひとりのこいつが出てくるというよくわからない場面になるが、人形が粘土であることをすこしも隠さないアホらしさ、心から惹かれる。そしてなんだかこいつの存在自体、アホらしさいっぱいで、本当にラモーンズのビデオに出るのに適任なやつだナア、としみじみ思って椅子の背もたれに伸びようとしたとき、ユーチューブの関連動画のひとつ目にとまり、え、「ハウリン・アット・ザ・ムーン」にもビデオあるんかいナと、俺の背筋はうれしく緊張した。

月に吠えるよ、シャララララ 

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