テーマ:二次創作 / 萩原朔太郎『月に吠える』

月に吠えるよ、シャララララ 

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映像はモノクロで画質がすごくいい。一目見て、これ、十年くらい前に作られて、ちょっとしてから俺もDVDで見たラモーンズのドキュメンタリー映画「エンド・オブ・ザ・センチュリー」の中で使われてた映像かも、とおぼろげに思い出す。若い四人はそこにいて、ひょろひょろでっかいジョーイが「次の曲はジュディ・イズ・ア・パンクや」ってぼそっと言うけど、すぐにはじまらなくて、ディーディーが、「ええか?」ってみんなのほう見て言う。カメラはドラムに寄っていく。トミー、ニコニコして「おい、はよカウントしてや」ってディーディーに言う。結成初期からドラムのトミーじゃなく、ベースのディーディーがカウントとるんやナ、と改めて発見する。ディーディー、「ワントゥ」って言うんだけど、フォーカウントじゃないからみんな曲にはいれなくて、「おいおいもっかいや」みたいな顔をトミーがするし、客も「しっかりしてや」みたいにたのしく野次る。けど、バンドも客もそのこと誰も怒ってなくて、みんなニコニコ、仕切り直して「ワントゥスリフォ」。
リラックスした、悪たれがのびのび遊んでいる演奏前のこの感じ、涙が出そうになったけど、はじまった音は素敵な音質の悪さ、ガシャガシャで、笑ってしまって、俺はうれしい。このガシャガシャのエイトビートは、かっこいいのかどうかよくわからないかっこよさに満ちていて、楽しいから、俺の顔は自然にシド・ヴィシャスみたいなしかめ面になる。ジュディ・イズ・ア・パンク、とってもギリギリで、はやくて、かっこ悪くてかっこいい。これよりテンポがはやい曲なんていまのパンクにはいくらでもあるけど、このエイトビートのほうが俺ははやく感じる。一分半くらいしかない曲の短さ、それでいいしそれがいい。もうどんどん見るし、ハイネケンもどんどん飲む。


…………そんな感じでラモーンズと酒にかまけ続け、五時間は一秒のように過ぎた。ラモーンズは当たり前だけどラモーンズ以外の何物でもなく、その存在の手触りはなんなのかナ、と思う。笑わそうとして不自然なことをしたりするわけじゃなく、ただそこにいて、やりたいことやってるだけなのに、なんかみんなヘンで、笑っちゃうようなところがあって、すぐ手が届くようなのに宇宙から来た人たちみたいにも見えて、それがラモーンズ。俺、ラモーンズの音楽を聴くだけで、人生がそれだけで終わってもええわ。いつの間にか飲み尽くしたハイネケンの六本はウォッカのロックに変わって三杯め、まだまだ次々とクリックしたくて、この夜にネットの海のラモーンズの映像をみんな見てしまいたいと思う。もう夜の十二時半で、まだ十二時半だ。

月に吠えるよ、シャララララ 

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