月に吠えるよ、シャララララ
急速に楽しくなる時間、俺は、ルイスレザーの革ジャン、ライトニング、七十年代終りのやつ、クローゼットからひっぱりだしてきた。これ、今を遡ること八年ほど前、無理して高校生のころ、たこ焼きを焼きまくるバイトして得た七万円を投入して、俺ら世代の大阪パンク少年みんな、憧れのようで、すぐに話もできるようで、でもやっぱ恐れ多かったバンド、レディオ・ボンベイのベース、ナルヒロさんが今も心斎橋でやってるパンク古着屋「フリッギン」で手に入れたやつ、買ってからずっと大好きな服だ。たとえばプロテックスとか、そこまで有名じゃない七十年代パンクのバンドいろいろ教えてくれたのもナルヒロさんだし、マリと知り合ったのは二年前、この古着屋でレジロスの「トップ・オブ・ザ・ポップス」がBGMに鳴っていた瞬間だった。俺がハミングしていたら、その時「フリッギン」に入ってきたかわいいパンクの女の子、「レジロス好きなん?」ごくナチュラルに話しかけてきて、それがはじまり。「うん、好き」と目を見て返事したら、レジロスじゃなく、その女の子のことを好きだと言った気になって、あとで聞いたらマリもそんな気になったらしくて、今日まで俺たち、その勘違いが続いてる。これを前に着ていたパンク、どんな奴でどうしてこんなかっこいい革ジャンを売ってしまったのだろう、クイズです、いち、太った、に、パンクやめた、さん、死んだ。これは革ジャンの種類で言えばサイドベルトのついたロンジャンで、ラモーンズのみんなが着ていたアメリカっぽいショットのワンスターとは違うけど、パンクは理屈よりも気分やからいい。暑いとかもう知らない。
「電撃バップ」一曲のたった二分を血や肉に変えると、あれも聞きたいこれも聞きたいと次々に頭に浮かんでくる。ユーチューブはドラえもんみたいに便利で、パソコン画面の右のとこ、いま見たんと関係ある動画が出てくる。それはだいたいラモーンズのほかのやつ、眼はすぐに「ラモーンズの激情」の三曲目、大好きな「ジュディ・イズ・ア・パンク」を見つけ、しかも七十四年、結成してアルバムも出していないころのCBGBでのライブと書いてあるのにはやる心、カチカチ、クリックする。さっき風呂を出てから身につけている黒いボロTシャツが、マンハッタンにあっていまはもうない、このライブハウスのロゴを白抜きにあしらったものだという偶然、俺も七十四年のそこにいるような、ヘンな気になり、ドキドキする。ハイネケンはもう二本目。
月に吠えるよ、シャララララ