デッドクロスが不動産投資に与える影響とは?理解しておきたい対処法を徹底解説

そこで本記事では、デッドクロスの定義や原因、購入前後の対策方法を詳しく解説します。デッドクロスを未然に防ぎ、より安定したキャッシュフローを確保するための具体的な手法を学びましょう。
記事の目次
不動産投資のデッドクロスとは

不動産投資におけるデッドクロスとは、減価償却費などの経費より、返済している投資用ローンの元金部分が上回る状態のことをいいます。この状況に陥ると、帳簿上の利益が増加するため、課税所得が増えてしまい、税負担が重くなって資金繰りが悪化します。帳簿上は利益が出ているように見えますが、実際には手元の現金(キャッシュフロー)が不足してしまい、投資家の経済的な負担は避けられません。
デッドクロスは、不動産投資の「税法上の利益」と「キャッシュフロー」の違いが原因です。キャッシュフローは、実際の収入から実支出を差し引いたもので、投資家の実質的な資金繰りを示しています。一方で、税法上の利益は、実際の現金の出入りに関わらず、帳簿上で計上された収入と支出の差額で計算されるため、実際の資金繰りとは合いません。この二つの数字が異なる理由は、投資用ローンの元金返済と減価償却費の扱いにあります。
投資用ローンの元金返済は、毎月手元から支払っていくので、実際に現金が減っていきます。しかし、税法上は経費として認められず、税法上の利益を圧縮する効果はありません。一方で、減価償却費は建物などの固定資産の購入費用を耐用年数に応じて分割して計上します。帳簿上では経費扱いとなるものの、実際にはキャッシュアウトをともなっていません。この減価償却費は、デッドクロスを避ける重要な経費になっています。
不動産投資でデッドクロスが発生する原因

不動産投資でデッドクロスが発生するのはなぜでしょうか。本章では、その原因を解説します。
ローンの返済が進むと経費計上できる金利が減少する
投資用ローンの返済が進むにしたがって経費に計上できる金利部分が減少する点は、不動産投資でデッドクロスが発生する原因です。不動産ローンの返済方法には「元利均等返済」と「元金均等返済」があり、どちらも年が経つと利息の支払いは減っていき、元金返済の割合は増えていきます。
例えば、元利均等返済方式の場合を考えてみましょう。これは、毎月元金と利息を合わせた一定の金額を返済していくものです。そのため、最初の段階では返済額に占める利息の割合が高くなります。仮に月々の返済額が10万円とした場合、初期の利息部分と元金返済部分がそれぞれ5万円の場合もあります。この利息部分は経費として計上できるため、税法上の利益を抑える効果がありますが、ずっと続くわけではありません。年を経るにつれ利息は減少し、帳簿上では黒字が大きくなっていきます。減少する利息部分に代わって元金返済部分が増加するため、帳簿上の利益が圧縮されず、所得税は増加するでしょう。
元金均等返済は、毎月の返済額のうち元金部分は一定のもの。利息支払いは徐々に減るため元利均等返済と比較すると緩やかに減少します。しかし、いずれにせよ利息部分は減少していくため、デッドクロスは避けられません。このようなキャッシュフロー悪化リスクが、不動産投資における財務管理の大きな課題となります。
減価償却がなくなり計上できる経費が減る
減価償却が終了すると経費計上ができなくなり、帳簿上の利益が増える点もデッドクロスの原因です。例えば、木造建物の耐用年数は22年、設備に関してはさらに短く15年と定められています。不動産は建物部分のみ減価償却が可能で、一定の耐用年数にわたり毎年の経費として分割して計上しますが、期間が過ぎると計上できません。この期間が終了すると減価償却費がゼロとなり、帳簿上の利益が増加してしまいます。耐用年数が終了すると経費がなくなるため、帳簿上の利益が一気に増加し、結果として所得税が増えキャッシュフローが悪化する要因となります。
経年劣化で家賃が下がりキャッシュフローが悪化する
物件の築年数が経過してデッドクロスが発生する場合もあります。築年数が古くなると、経年劣化によって建物や設備が老朽化し、物件の魅力が低くなることも。その結果、入居率の低下につながり家賃を下げざるをえなくなるケースもあるでしょう。例えば、築10年程度では初期の家賃設定が維持できていても、築20年を超えると周辺の新しい物件との競争力が弱まり、10%~20%程度の家賃減額を余儀なくされるケースもあります。築20年や30年を超える物件では修繕費が初期の2倍以上に増える場合も。そうなれば家賃収入の減少と相まってデッドクロスのリスクを加速させるでしょう。これらの要素はキャッシュフローの悪化をひきおこし、デッドクロスの原因になります。
購入前後にできる不動産投資のデッドクロスの対策

デッドクロスは、不動産投資で避けたいリスクの一つですが、どのようにすれば回避できるのでしょうか。そこで本章では、デッドクロスを回避または軽減するために、物件購入前にできる対策をみていきましょう。
購入時に自己資金を多く用意する
不動産投資でデッドクロスを回避する対処法の一つは、購入時に自己資金を多く投入する方法です。自己資金を増やして頭金を多く支払うことで、借入総額が抑えられ、毎月の元金返済額を減らせるでしょう。その結果、キャッシュフローに余裕が生まれ、資金繰りが安定しやすくなります。例えば、1億円の物件を購入する際に自己資金を3,000万円投入し、7,000万円のローンを組む場合、全額投資用ローンで購入するケースに比べて毎月の返済額が軽減され、黒字倒産のリスクも下がるでしょう。
また、自己資金を多めに用意すると投資用ローンの返済期間を短縮できる可能性があります。返済期間が短いほど、減価償却費の割合と投資用ローンの返済額のバランスを維持しやすくなり、長期的なキャッシュフロー悪化のリスクを軽減できるでしょう。自己資金をどの程度出すべきかは、物件ごとの収益シミュレーションで確認するのがおすすめです。
ただし、自己資金を多くすると、投資用ローンを利用したレバレッジ効果が薄れる点には考慮しましょう。自己資金が多すぎた場合には、投資効率が低下するため、一定額を残して突発的な支出に備えることが望ましいです。自己資金と借入金のバランスを取り、不動産投資のデッドクロスのリスクを適切に管理し、安定した収益を得るようにしましょう。
残存耐用年数が長い物件にする
減価償却期間が長い物件、すなわち残存耐用年数が長い新築や築浅の物件を購入する方法もデッドクロスの回避に有効です。減価償却期間が投資用ローンの借入期間よりも長い物件を選ぶと、投資用ローンの返済が完了する前に減価償却が終わってしまう事態を避け、リスクを軽減できます。
例えば、耐用年数が47年と長いRC(鉄筋コンクリート)造やSRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造の新築マンションを購入する場合を考えてみましょう。長期間にわたり減価償却費を計上でき、投資用ローン返済期間が減価償却期間を下回るかもしれません。築年数の浅い物件であれば減価償却の残存期間も長く、築20年程度であれば残り27年の減価償却費の計上が可能です。仮に投資用ローンの返済期間が30年の場合、減価償却費を返済期間に沿った形で計上でき、デッドクロスのリスクを軽減できます。
ただし、減価償却期間が長い物件を選ぶと、1年あたりに計上できる減価償却費は少なくなるため、初期の節税効果が薄れる点に注意しましょう。例えば、耐用年数の短い木造物件は、早期に大きな減価償却費を計上できるため節税効果が高く、短期的な税負担を軽減します。しかし、減価償却期間が早期に終わる分、デッドクロスのリスクが増大するかもしれません。結果、デッドクロスを避けるためには、減価償却費を長期的に計上できる物件を選ぶとよいですが、節税効果とのバランスを取らなければならない点に留意が必要です。
元金均等返済を採用する
投資用ローンの返済方法に「元金均等返済」を選択する方法も効果的です。デッドクロスは、物件の減価償却期間が終了し、減価償却費が計上できなくなり、キャッシュフローが悪化して発生します。元金均等返済では、毎月の元金返済額が一定で、返済当初の元金返済額の割合が高いため、元利均等返済に比べて早い段階で投資用ローンの元金が減少していきます。返済初期には利息が加わる分、返済額が多くなるものの、毎月の返済額が次第に減っていくため、デッドクロスを回避または遅延させやすいでしょう。
また、元金均等返済は初期段階で元金を減らすスピードが速いため、総返済額を抑えられる点もメリットです。これにより、投資用ローンの返済期間が進むにつれて利息の負担が減少し、安定したキャッシュフローを維持しやすくなります。ただし、この返済方法には、返済当初の負担が大きくなるデメリットが。初期の返済額が高くなりすぎると、資金繰りが厳しくなるため注意しましょう。
利回りの高い物件を購入する
利回りの高い収益物件を購入する方法も効果的です。利回りが高い収益物件の購入自体はデッドクロスを避ける直接的な手段ではありません。しかし、税引き前のキャッシュフローを大きくすると、税引き後のキャッシュフローがマイナスになることを防ぐ効果があります。
高い利回りの目安は、一般的に実質利回りで8~10%以上の目標が望ましいとされます。表面利回りは物件価格に対する年間の収入のみを考慮するため、実際の管理費や修繕費などの支出を含めた実質利回りを確認するようにしましょう。例えば、物件の年間収入が120万円、管理費や税金などの支出が20万円であれば、実質利回りの計算式は次のとおり。
(120万円 - 20万円)÷ 購入価格
さまざまなコストが含まれているため、より正確に収益性を把握できます。デッドクロスを避けるためには、購入前に収益シミュレーションをおこない、税引き後のキャッシュフローがプラスになる点を確認することが必要です。
投資用ローンの返済期間を長く設定する
物件の購入前にデッドクロスを回避するために、投資用ローンの返済期間を長く設定する方法もあります。返済期間を長くすると毎月の返済額が低く抑えられ、キャッシュフローが安定しやすくなるでしょう。ただし、返済期間が長くなると、毎月の返済額は抑えられますが、支払う利息総額は増えます。さらに、結果的に総返済額は高くなるでしょう。このため、実施にはシミュレーションをおこない、長期返済による総返済額の増加とデッドクロスの回避効果のバランスを考慮すべきです。さまざまなケースをシミュレーションして、最適な返済期間を設定するようにしましょう。
デッドクロスを想定して資金を貯めておく
デッドクロスになる前に、事前に資金を確保しておく方法も挙げられます。デッドクロスでは、減価償却費が計上できなくなり、税引き後のキャッシュフローが悪化し、投資用ローンの返済や税金の支払いが厳しくなります。そのため、はじめからキャッシュフロー悪化に対応できるよう、余裕資金を貯めておきましょう。
資金の目安を定めるには、事前のシミュレーションをおこないます。例えば、年間の投資用ローンの返済額と予想される減価償却終了後の税負担を確認し、その合計をカバーできる資金を確保することが理想です。また、物件にかかる修繕費や空室リスクなども考慮し、年間の家賃収入の5〜10%程度を別途確保しておくとよいでしょう。こうした資金を事前に計画し準備すると、デッドクロスの影響を軽減し、安定した不動産経営を継続できます。
短期集中で収益を獲得して売却転売する
購入後にできるデッドクロスの対処法として、短期集中で収益を上げてから売却転売し、利益を得る戦略もあります。これは物件購入後、減価償却が終了してキャッシュフローが悪化する前に売却すると、収益性を最大限に確保する方法です。例えば、築年数の浅い短い物件を購入し、3~4年後に売却すると、収益が見込めるうえ、デッドクロスのリスクも抑えられるでしょう。
ただし、収益物件を売却する際は、所得税や住民税、仲介手数料などのコストを考慮しておく必要があります。さらに、物件を短期保有した場合の譲渡所得税は約40%と高く、5年を超えて保有すると税率が約20%に引き下げられるため、売却するタイミングも重要です。
例えば、2,000万円で購入した物件を5年以内に2,500万円で売却した場合、利益の500万円に対して約40%の譲渡所得税を支払わなければなりません。短期所有集中で売却転売する場合、このような税コストや売却にかかる諸費用も踏まえたうえで、利益を得られるかシミュレーションし、適切な売却タイミングを計画しておくようにしましょう。
不動産投資でデッドクロスになってしまったあとの対処法

対策をおこなってから不動産投資を始めても、思いがけずデッドクロスになってしまう可能性もゼロではありません。もしデッドクロスになってしまったら、どうすればよいのでしょうか。そこで本章では、デッドクロスになってしまった時の対処法をみていきましょう。
投資用ローンを借り換える
デッドクロスになった時、対処法の一つとして、投資用ローンの借り換えが挙げられます。金利を低くしたり、返済期間を長く設定することで、キャッシュフローの改善が見込めます。ただし、ローンの借り換えには諸費用がかかります。また、再度審査を受けなければならないため、確実に借り換えられるとは限りません。借り換えにかかる諸費用や手間などを踏まえたうえで、検討しましょう。
繰り上げ返済をする
投資用ローンの繰り上げ返済も、デッドクロスになった時の対処法の一つです。投資用ローンの一部または全額を繰り上げ返済すると、毎月の返済額のうち元金と利息部分を軽減し、月々のキャッシュフローを改善させられます。繰り上げ返済をすると、利息負担が減り、毎月の返済額も下がるため、手元に残る資金に余裕が生まれやすくなるでしょう。ただし、繰り上げ返済をおこなう際には注意が必要です。手元資金をすべて繰り上げ返済に使ってしまうと、修繕費や空室が発生した場合に資金不足になりやすいため、余剰資金の範囲で無理なく実行するようにしましょう。
売却する
デッドクロスになった物件を売却することも、対処法の一つです。保有し続けていても、キャッシュフローが悪化していきます。また、築年数が経過すると経営におけるリスクはさらに高まるでしょう。売却すれば売却益を得られ、キャッシュフローの改善が期待できます。
新たに物件を購入する
デッドクロスになった時の対処法として、新たに収益物件を購入する方法も挙げられます。収益物件を増やすことで、計上できる減価償却費が増えるため、一時的にデッドクロスの状態を回避できます。ただし、これは一時的にデッドクロスの状態を回避しているだけであり、いずれ追加購入した収益物件でもデッドクロスになる可能性があります。また、新たに収益物件を購入するとなると、資金も必要となるでしょう。そのため、ある程度資金力がある方の選択肢となります。
不動産投資のデッドクロスに関するよくある質問
不動産投資のデッドクロスに関するよくある質問をまとめました。
不動産投資のデッドクロスとは?
不動産投資におけるデッドクロスとは、投資用ローンの元金返済が減価償却費を上回る状態です。この状態になると帳簿上の利益が増え、課税所得が増加し、税負担が重くなります。しかし、実際のキャッシュフローは不足し、投資家の経済的負担が重くなるでしょう。デッドクロスを避けるためには、資金管理やキャッシュフローの見通しが重要で、減価償却が終了する前に、別の節税策を検討することが推奨されます。
不動産投資でデッドクロスが発生する原因とは?
デッドクロスは、投資用ローンの返済により、経費計上できる金利の減少や、減価償却終了後の経費計上ができなくなる点が原因です。投資用ローンの返済が進むにつれ、利息の支払いが減少し、帳簿上の利益が増えると、税負担が増加します。また、減価償却期間が終了すると計上できる経費が減り、利益が増加するため、税負担が重くなりキャッシュフローが悪化することに。さらに、築年数の経過で家賃が低下し、修繕費が増加する点も、現金の支払いが増えることからデッドクロスの要因となります。
購入前にできる不動産投資のデッドクロスの対処法とは?
デッドクロスを回避するためには、以下の対策があります。まず、自己資金を多めに投入し、投資用ローンの返済額を減らすと、キャッシュフローが安定するでしょう。また、減価償却期間が長い新築や築浅物件の選択も有効です。さらに、元金均等返済により元金の返済を早め、返済総額を抑えやすくします。利回りが高い収益物件を購入し、税引き後のキャッシュフローを確保する方法や、投資用ローンの返済期間を長めに設定し、月々の負担を減らす対策も効果的でしょう。また、デッドクロスに備えて余裕資金を事前に貯めておく対策が有効です。
不動産投資でデッドクロスになってしまったあとの対処法とは?
投資用ローンの一部を繰り上げ返済し、月々の返済負担を軽減するとキャッシュフローの改善が期待できるでしょう。また、売却も一つの選択肢となります。追加で収益物件を購入すると、計上できる減価償却費が増えるため、一時的にキャッシュフローが改善されます。しかし、ある程度の資金がなければ難しく、追加で購入した収益物件もいずれデッドクロスになることも考えられます。あくまで一時的な対処法であることを理解しておきましょう。
まとめ
本記事では、不動産投資におけるデッドクロスの概要と、対策方法を解説しました。デッドクロスは、投資家にとって経済的負担を増やすリスクの要因です。しかし、自己資金の投入や物件選び、投資用ローンの返済方法を工夫することで、デッドクロスを回避できます。また、万が一デッドクロスに陥っても、適切な対処法を知っていれば、状況を改善できるでしょう。より安定した不動産投資を実現できるよう、この情報を活用してみてください。

執筆者
長谷川 賢努
AFP(日本FP協会認定)、宅地建物取引士
大学を卒業後、不動産会社に7年勤務、管理職を務めたが、ひとつの業界にとどまることなく、視野を拡げるため、生命保険会社に業界を超え転職。しかしながら、もっと多様な角度から金融商品を提案できるよう、再度転職を決意。今までの経験を活かし、生命保険代理業をおこなう不動産会社の企画室という部署の立ち上げに参画し、商品、セミナー、業務内容の改善を担う。現在は、個人の資産形成コンサルティング業務などもおこなっている。
株式会社クレア・ライフ・パートナーズ