不動産投資で繰り上げ返済をするメリット・デメリットは?タイミングや注意点も詳しく解説

ある程度収益が出た場合、繰り上げ返済をして返済を早めたほうがメリットが大きいと考える方も多いでしょう。しかし、繰り上げ返済にはメリットもある一方で、デメリットもあります。メリットの恩恵を受けるためにも、繰り上げ返済に関する理解を深めておきましょう。
記事の目次
不動産投資で繰り上げ返済をする5つのメリット

不動産投資で繰り上げ返済すると、返済期間を早めたり、返済総額を減額できたりなど、大きなメリットがあります。ここでは、繰り上げ返済のメリットを5つご紹介します。
利息の負担が軽減される
利息とは、借入額に対して支払う対価のことです。不動産投資ローンを契約する際は、借りた元金のほかにも、借入額にかかる利息を返済する必要があります。
繰り上げ返済をすると、元金が減ります。元金が減るほど、将来支払う利息の総額も低くなっていくのです。
不動産投資ローンの返済額を最小限に抑えたい場合は、積極的に繰り上げ返済の活用がおすすめです。
毎月の返済負担が軽くなる
繰り上げ返済の方式には、「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2つがあります。それぞれの違いの詳細は後述しますが、返済額軽減型を選べば、月々の返済額を低く抑えることが可能です。支出が減れば、キャッシュフローへの影響を最小限に留められるでしょう。
浮いた支出を次の投資に回したり、不動産の維持管理費用に充てるなど、使い道を広げられる点もメリットの一つです。
返済期間を短縮できる
借入期間が長いほど、総返済額は多くなってしまいます。一方で繰り上げ返済をおこなえば、完済までの時間を大幅に短縮できるため、総返済額を減らせるのです。
また、不動産投資ローンを完済できれば、完済し終わった投資物件を担保にして、新たな融資を申し込むことも可能です。今後投資のチャンスを広げたい場合は、積極的に繰り上げ返済を活用するといいでしょう。
金利変動リスクを低減できる
不動産投資ローンを検討する際は、金利変動のリスクを理解しましょう。融資を受ける際に変動金利を選択すると、借入期間中に金利が変動する可能性があります。一般的には半年ごとに金利が見直されています。
しかし、金利が変動しても、通常5年間は月々の返済額が変わることはありません。これを「5年ルール」といい、5年後の返済額は、その時点の残高や金利、残り期間から再計算されます。
金利が大幅に上昇した場合でも、多くの場合は「125%ルール」といい、前回返済額の1.25倍が上限となるルールがあるため、急激な負担増はありません。しかし、「5年ルール」「125%ルール」は、すべての金融機関で適用されるわけではありません。借り入れている金融機関ではどうなっているか、確認しておきましょう。
また、長期的に金利が上昇し続けると、利息の割合が大きくなり、総返済額が増える可能性があります。そこで、繰り上げ返済で元金を減らすことで、返済額が増えるリスクを小さくできます。
日本の金融政策次第では、今後金利が上がる可能性もあります。事前に変動金利のメリット・デメリットをよく理解し、繰り上げ返済をするかを検討しましょう。
早期におこなうほど恩恵は大きくなる
不動産投資ローン返済の総返済額をできるだけ抑えたいのであれば、返済開始当初から早期に繰り上げ返済をおこなうことをおすすめします。上記でも説明したとおり、早めに元金を減らすほど、利息軽減の効果が大きくなるためです。
金融機関によってサービスは異なるため、事前に確認しておきましょう。例えば、普通預金残高が一定額を超えた時点で、自動的に繰り上げ返済に移行してくれるサービスがあります。
投資物件の追加購入は考えておらず、できる限り節約したい方におすすめです。
また、繰り上げ返済をおこなうタイミングや金額によって、総返済額にどの程度の差が生じるのか、シミュレーションサイトを活用して数値化しておくとよいでしょう。
不動産投資で繰り上げ返済をおこなう5つのデメリット

繰り上げ返済には多くのメリットがある一方で、デメリットもあります。投資計画を立てる際には、メリット・デメリットを十分に比較して検討することが重要です。ここからは、不動産投資で繰り上げ返済をするデメリットを5つご説明します。
手元の資金が減る可能性がある
後先を考えず繰り上げ返済をすると、支出が大きくなり、手元に残る資金が減る可能性があります。
例えば、投資物件の予期せぬ修繕が必要となった場合、十分な費用がなければ修理代の工面に苦労してしまうでしょう。また、家族の病気やケガなどで入院・手術が必要になれば、医療費の支払いに困るかもしれません。
そのため、不測の事態に備えて、ある程度の現金を残しておくことが大切です。繰り上げ返済をする際は、緊急時にも対応できる程度の資金を確保してからおこないましょう。
手数料が必要な場合がある
繰り上げ返済の際には、金融機関によって手数料が発生する可能性があります。手数料の金額は、1回の繰り上げ返済につき数千円〜数万円かかることもあれば、残った元金に対して何%など、金融機関ごとに異なるため、事前に確認しておくことが大切です。
高額な手数料がかかれば、繰り上げ返済のメリットよりもデメリットのほうが大きくなる可能性があります。一度の手数料が少額でも、塵も積もれば山となるため、手数料もしっかり計算したうえで検討しましょう。
低金利の場合は繰り上げ返済の効果が低い
低金利で不動産ローンを組んでいる場合、繰り上げ返済をしても利息の軽減効果があまり得られない可能性があります。金利が低いほど、繰り上げ返済による利息の減額は限定的になるからです。
具体例を見てみましょう。下記の条件で、借り入れから5年後に500万円の繰り上げ返済をしたとすると、以下のように利息が減額されます。
<条件>
借入額:5,000万円
返済期間:35年
返済方式:元利均等返済
- 金利2%なら約165万円の減額
- 金利3%なら約258万円の減額
上記のように、金利が低いと繰り上げ返済の利息軽減効果は限られてしまいます。低金利のローンを組んでいる場合は、無理に繰り上げ返済をする必要はないかもしれません。
レバレッジ効果が低下する
不動産投資では借入金を活用するほど、レバレッジ効果が高まります。レバレッジ効果とは、自己資金に比べて大きな金額を投資できるため、収益性が高くなることです。
しかし、繰り上げ返済をすると借入残高が減るため、レバレッジ効果が薄れてしまいます。
投資戦略次第ですが、レバレッジ効果を最大限活用したい場合は、繰り上げ返済をするのは控えたほうがよいでしょう。
追加融資に影響が出る
金融機関の融資審査では、申込者の保有資産が重要視されます。保有資産が潤っていれば、万が一収入が減っても返済は継続できると判断されやすくなります。
一方で、繰り上げ返済をして保有資産を減らしてしまうと、金融機関から「返済能力が低い」と見なされてしまうかもしれません。結果として、追加で融資を受けづらくなる可能性があるのです。
将来的に投資物件の追加購入を視野に入れている場合は、現金を確保しておいたほうがよいでしょう。
不動産投資における繰り上げ返済の2つの方法

繰り上げ返済には、「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2つの方法があります。それぞれの特徴を以下でご紹介するので、参考にしてみてください。
返済期間を短縮する「期間短縮型」
期間短縮型は、毎月の返済額は変更せずに、返済期間だけを短くする方法です。
例えば、不動産投資を始めた当初は20年の返済期間でローンを組んでいたとしましょう。繰り上げ返済をおこなえば、18年や15年など、当初よりも早い時期に完済できます。
期間短縮型のメリットは、早期に元金を減らせることです。当初組んでいた返済期間が長いほど、期間短縮型の大きな効果が期待できます。
一方で、毎月の返済額は変わらないため、緊急時の出費にも対応できるようにある程度の手元資金を残しておくことをおすすめします。
毎月の返済額を軽くする「返済額軽減型」
返済額軽減型は、返済期間はそのままで、月々の返済額だけを減らす方法です。例えば、当初は月10万円の返済だった場合、繰り上げ返済することで7万円や6万円などに軽減できることになります。
返済額軽減型のメリットは、毎月の支出が減るため、キャッシュフローにゆとりが生まれることです。金銭的な負担が軽くなれば、新たに投資に回せる資金も増えるでしょう。
ただし、返済期間が変わらないため、利息額の大幅な軽減は期待できません。できるだけ利息額を抑えたい場合は、期間短縮型のほうが有利でしょう。
不動産投資の繰り上げ返済を避けるべきタイミング

不動産投資で繰り上げ返済をおこなう際は、タイミングを見極めることも重要です。ここからは、不動産投資で繰り上げ返済を避けるべきタイミングを詳しく解説します。
余剰資金がない場合
十分な余剰資金がない、または早期完済後に緊急時の支出に備えた準備金が不足してしまう場合は、不動産投資ローンの繰り上げ返済は避けたほうがよいでしょう。資金の流動性を保てるか慎重に検討し、将来の支出や投資機会に備えることが大切です。
ほかの投資に資金を振りわけた場合の期待リターンとローン金利を比較検討し、市場平均収益率より低い金利ならば、他の投資を優先させたほうが有益でしょう。
繰り上げ返済は自身の財務状況や投資目的に合わせて慎重にタイミングを見極めなければなりません。
繰り上げ返済のタイミングに迷った場合は、税理士やファイナンシャル・プランナーに相談するのもいいでしょう。
新たな投資物件の購入を視野に入れている場合
投資物件の追加購入を考えている場合も、繰り上げ返済は避けたほうがいいでしょう。現在の不動産投資ローンを前倒しで完済すれば、今後の借入審査で高評価を得られる可能性はあります。しかし一方で、繰り上げ返済をおこなうと手元資金が減少し、新規物件の手付金や投資費用の準備が困難になるリスクがあります。
低金利のローンを活用して不動産投資をおこなう、いわゆる「レバレッジ投資」は一般的な戦略ではあるのですが、繰り上げ返済をおこなえばレバレッジ効果が薄れてしまうため、タイミングとしてはふさわしくないでしょう。
投資スタイルに合わせてタイミングは異なる
不動産投資の行方は個人の投資戦略によって異なります。単に利回りを重視するか、資産価値の上昇を狙うか、老後の年金対策とするかなど、人それぞれ目的があります。
投資スタイルの違いによって、繰り上げ返済の最適なタイミングも変わります。例えば、長期保有を想定しているのであれば、総返済額が数百万円単位で減少する可能性があるため、早期に繰り上げ返済をおこなうメリットは大きいでしょう。
一方、短期的な売却を前提としている場合は、早期の繰り上げ返済が有利とは限りません。
また、新築物件か中古物件かによっても、借入金額やキャッシュフローはまったく異なります。投資スタイルによって繰り上げ返済のタイミングは異なるため、まずはどのような投資戦略を練るか、何の目的で投資をおこなうのか、今一度整理してみましょう。
不動産投資ローンで繰り上げ返済をおこなう際の注意点

不動産投資でローンの繰り上げ返済を検討する際は、注意しておくべきポイントがあります。繰り上げ返済のメリットを大きく得られるように、どのような注意点があるのか事前に確認しておきましょう。
手元の資金は最低限確保しておく
繰り上げ返済をおこなう際は、すべての現金を返済に充てるのではなく、ある程度残しておくことをおすすめします。理由としては、突発的な出費への備えや、収入の変動リスクに対処するためです。
手元にある程度の資金があれば、修繕が必要になった場合でもすぐに着手でき、物件の価値を維持できるでしょう。
また、人気の物件であれば空室期間を最小限に抑えられるため、収益の下落を防ぐことにもつながります。一時的に空室となり家賃収入が途絶えた場合でも、手元に現金があれば生活に大きな影響が出ることは少ないでしょう。
キャッシュフローが悪化するリスクを理解しておく
繰上げ返済をすると、キャッシュフローが悪化するリスクがある点を理解しておきましょう。利息支払い分は経費として申告できるため、節税効果が期待できます。しかし、繰り上げ返済で利息の支払い額が減れば、控除額が減ります。その結果、所得税や住民税などが増えて、キャッシュフローが悪化する可能性があるのです。
例えば、年100万円の利息支払いが、繰り上げ返済で50万円に減った場合、残りの50万円分は不動産所得になります。不動産所得が増加すると税金の負担も大きくなるため、金銭面的なメリットが得られないことも。
また、不動産から得た収益は、一定額を超えると不動産所得として確定申告する必要があります。経費計上額が多いほど、節税効果は高く期待できます。
ただし繰り上げ返済をおこなうと、手元の資金は増えても、支払う利息が減少する可能性も。
総返済額との差は些細な金額かもしれませんが、繰り上げ返済を検討する際は税金面での影響も考慮する必要があります。
繰り上げ返済の効果が低い時に収益を上げる方法

新たな投資を検討する場合は、返済中の融資を先に返してからでなければ新規の融資が受けられないと思っている方もいるでしょう。ただし、不動産投資ローンの残債があっても、安定した収入があれば、新規の融資が受けられる可能性があります。
手元にまとまった資金がある場合
手元にまとまった資金がある場合は、繰り上げ返済よりも追加で投資したほうがメリットが大きく期待できる可能性があります。
まとまった資金がある場合は、追加で物件を購入する際の頭金や手数料などを支払うための自己資金に充てられます。また、手元にある程度の資金があれば、金融機関からの評価が高く期待できるため、好条件で融資を受けられる可能性も高いです。
ただ単に繰り上げ返済するよりも、新たな投資物件を購入して家賃収入を増やしたほうが、キャッシュフローを大きく期待できるかもしれません。
特に、既存の不動産投資ローンの金利が低い場合は、繰り上げ返済のメリットが得られないかもしれません。繰り上げ返済によるメリットが得られないとわかった場合は、新たな物件から家賃収入を得たほうが、高い収益性が期待できるでしょう。
年収が高い場合
年収の高い方であれば、金融機関から追加融資を受けられる可能性が高いです。収入や資産状況次第では、新規物件の購入資金を別途借り入れできるのです。
加えて、購入予定の物件の資産価値が高く、安定した家賃収入が見込める場合にも、融資を受けられる可能性が高くなります。投資物件の収益性が高く期待できるほど、金融機関の審査を通過しやすくなるでしょう。
ただし、既存の不動産投資ローンの負担が重く、年収に占める返済額の割合が高すぎる場合は、追加融資が難しくなる可能性も。そのような時は、現在のローン返済をいったん完済させてから新規融資を申し込むほうが無難かもしれません。
まとめ
繰り上げ返済には多くのメリットがありますが、メリットだけが得られるわけではありません。レバレッジ効果が低下したり、手数料の支払い負担が増えたりなどのデメリットもあります。どのようなデメリットがあるのかも理解しておかなければ、繰り上げ返済をすることで、逆に損をすることもあるかもしれません。
繰り上げ返済のタイミングや投資スタイルを考えたうえで、慎重に検討することが大切です。

執筆者
民辻伸也
宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
大学を卒業し、投資用不動産会社に4年勤務後、選択肢を広げて一人ひとりに合わせた資産形成をおこなうため、転職。プロバイダー企業と取引し、お客様が安心感を持って投資できる環境づくりに注力。不動産の仕入れや銀行対応もおこなっている。プライベートでも、自ら始めた不動産投資でマンション管理組合の理事長に立候補。お客様を徹底的にサポートできるよう、すべての経験をコンサルティングに活かしている。
株式会社クレア・ライフ・パートナーズ