アパートの老朽化が進むとどうなる?対策を知って管理を万全にしよう

本記事では、アパートが老朽化するリスクや対策をご紹介します。老朽化したアパートの管理や改善に悩んでいる方は、ぜひこの記事を参考にしてみてください。
記事の目次
アパートの老朽化によるリスクとは

アパートの老朽化を放置すると、経営面や安全面で深刻なトラブルを招きます。そのため、老朽化にともなうリスクを正しく把握し、適切な対応を取ることが重要です。では、アパートが老朽化することで、具体的にどのようなリスクがあるのかを見ていきましょう。
空室増加のリスク
築年数が古くなると空室率が高まりやすくなります。なぜなら部屋探しにおいて、「築年数」が選択基準の一つとなっており、建物自体の状態がよくても、築年数が古い物件は候補から外される傾向にあるからです。また、外観や設備の劣化が進むと、同じエリア内の競合物件に比べて条件が悪化し、賃料を下げても入居者が集まりにくくなります。
その結果、入居者確保が難航して空室が増えることになります。空室対策としては、リフォームや設備の更新などの改善が必要です。
耐震性低下によるリスク
経年劣化により建物の耐震性も低下します。木造アパートでは、湿気や虫害によって木材が腐食したり、欠損したりすることで、構造が弱くなります。鉄骨造の場合も、サビが進行することで耐久性が損なわれることに。
外壁タイルの劣化が原因で地震時に落下し、入居者や通行人に被害を与えるケースも考えられるでしょう。
このような事態が起きると、オーナーが損害賠償責任を負わなければならない可能性があるため、定期的な点検とメンテナンスが必要です。リスクを完全になくすことは難しいため、早めに対策をしましょう。
資産価値低下のリスク
建物は築年数の経過とともに価値が下がるため、老朽化が進むと資産価値も低下します。特に、法定耐用年数を超えたアパートは減価償却費を計上できなくなるため、不動産所得にかかる税負担が増加します。
また、耐用年数を過ぎた物件では銀行から融資を受けられないケースが多くなります。買主からすると現金での購入が必要となり、ハードルが高くなることから、買い手がつかず、売却が難しくなることも。このようなリスクを避けるためには、老朽化が進む前に売却を検討するか、建て替えやリノベーションで価値を維持する方法を考えたほうがよいでしょう。
アパート老朽化対策の種類とメリット・デメリット

アパートが老朽化すると空室が増えたり、資産価値が低下したりと、経営に多大な影響を与えます。対策としては、「建て替え」「リノベーション」「売却」の3つの選択肢があります。ただし、それぞれの方法にメリットとデメリットがあるため、状況に合わせて判断しなければなりません。以下で、それぞれのメリットとデメリットを詳しく解説します。
建て替え
アパートを建て替えることで、耐震性の向上や収益性の改善が期待できます。新しい建物を建築すれば、地域のニーズに合わせた間取りや設備が導入でき、入居率が大幅に向上する可能性があります。また、法定耐用年数分の減価償却費を経費として計上できるため、節税効果も見込めるでしょう。
一方で、建て替えには解体費用や建築費用など多額の資金が必要です。また、工事期間中は家賃収入が途絶えるだけでなく、入居者への立ち退き交渉も避けられません。そのため、長期的な視点でアパート経営を考えている場合におすすめです。
建て替えの費用相場
建築費用は構造によって異なります。
- 木造:50~60万円/坪
- 鉄骨造:70~100万円/坪
- 鉄筋コンクリート造:100万円以上/坪
上記の費用をもとに予算を検討する必要があります。
リノベーション
リノベーションでは、既存の基礎部分を活用しつつ内外装や設備を刷新できるため、比較的低予算で対応が可能です。地域の需要に合ったデザインや設備を導入すれば、入居率や家賃収入の増加が期待できます。また、建て替えと比べて工事期間が短く、早期に経営を再開できるでしょう。
ただし、建物の構造上の制約から、間取りやデザインが限定される場合があります。また、リノベーション後も定期的な修繕が必要となり、長期的にはコストがかかる点がデメリットです。予算内で効果的な改善をおこないたい場合におすすめです。
リノベーションの費用相場
リノベーションの費用は内容によって幅がありますが、一般的には200~500万円が相場です。主なリノベーション費用の目安は次のとおり。
- 壁紙や床材の張替え:20~40万円
- キッチンのリフォーム:20~100万円
- 浴室のリフォーム:50~150万円
売却
オーナーチェンジでの売却は、入居者がいる状態でも可能なため、立ち退き交渉をおこなう必要がありません。さらに、売却益をもとに新たな投資用物件を購入することもできます。不動産会社に依頼すれば、比較的スムーズに手続きが進むでしょう。
ただし、売却希望価格で買主が見つかるとは限りません。また、売却時期が希望と合わない場合もあり、計画が思い通りに進まないリスクもあります。売却を検討する際には、物件の状態や市場動向をしっかりと把握することが重要です。
アパート老朽化による建て替えの検討ポイント

アパートの老朽化対策にはさまざまな選択肢がありますが、特に「建て替え」が必要なケースとはどのような状況なのでしょうか。ここでは、建て替えを判断する際に参考となる基準を詳しく解説します。
建物の構造部分に深刻な劣化が見られる場合
アパートの基礎や柱、梁など、建物の構造部分が大きく劣化している場合は、建て替えを検討する必要があります。特にシロアリ被害などで柱や基礎が著しく損傷している場合、建物の安全性が大きく損なわれている可能性があります。
リノベーションでも耐震補強は可能ですが、構造部分の劣化が深刻な場合、倒壊リスクを完全に排除することは難しいでしょう。そのため、建物の基礎や柱などに深刻な問題が確認された際には、建て替えを検討するとよいでしょう。
築年数が法定耐用年数を超えている場合
アパートの築年数が法定耐用年数を超えている場合も、建て替えを検討するべきタイミングの一つです。リノベーションをおこなった場合でも、法定耐用年数を延ばすことはできず、減価償却費を経費計上できない点が大きなデメリットです。
一方、新築アパートであれば、建築費用を法定耐用年数で割り、毎年、減価償却費として経費計上することで節税が可能に。
結果的に、リノベーションよりも収益性が高くなることがあります。そのため、築年数が法定耐用年数を超えた物件に関しては、建て替えを検討してみましょう。なお、アパート構造別の法定耐用年数は次のとおりです。

- アパート構造別の法定耐用年数
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・木造:22年・木造モルタル:20年・鉄骨造(厚3mm以下):19年・鉄骨造(厚3mm超4mm以下):27年・鉄骨造(厚4mm超):34年・鉄筋コンクリート造:47年
旧耐震基準に該当する場合
アパートが旧耐震基準(1981年5月31日以前の基準)に該当している場合は、建て替えを優先的に検討する必要があります。旧耐震基準では震度5強程度の揺れに耐える設計となっており、現行の新耐震基準(1981年6月1日以降に適用)と比べると耐震性能が劣る傾向に。
近年では、地震への意識が高まり、入居者が新耐震基準の物件を選ぶ傾向が強まっています。そのため、旧耐震基準の建物は入居率の低下につながるリスクがあるため、建て替えがおすすめです。
修繕費用が増加している場合
老朽化にともない、修繕費用が増加している場合も、建て替えを検討するタイミングです。設備の不具合や雨漏りなどの問題が頻発すると、収支計画に大きな影響を与え、収益が圧迫される可能性があります。
特に、予想外の修繕が発生した場合、収益性が著しく低下する恐れがあります。修繕費用が増加傾向にある場合は、長期的なコスト削減を考慮し、建て替えを視野に入れたほうがよいでしょう。
相続税対策を検討している場合
相続税対策を目的としてアパートの建て替えを検討することも有効です。新たにアパートを建設する際の借入金は相続財産評価額を引き下げる効果があり、相続税の負担を軽減できます。
また、新築アパートは入居率が高い傾向にあるため、比較的低い評価額で相続財産として扱うことも可能です。そのため、相続対策を重視している方にとっても、建て替えは有力な選択肢となるでしょう。
アパートの建て替え時に押さえておきたい重要なポイント

老朽化したアパートを建て替える際には、さまざまな課題や注意点が存在します。これらを事前に把握しておくことで、余計なトラブルを避け、スムーズに建て替えを進められるでしょう。以下では、アパート建て替え時に知っておくべき注意点を詳しく解説します。
解体費用が発生することを見越しておく
老朽化したアパートを建て替える際には、まず現存する建物を解体する必要があります。解体作業には当然費用がかかり、1坪あたりおよそ5万円程度が目安とされています。
費用の総額は、「アパートの延床面積 × 坪単価」で算出可能です。例えば、延床面積80坪のアパートを解体する場合、約400万円の解体費用が必要になるでしょう。
新築物件の建築費用だけでなく、解体費用も計画に含めておかなければ、資金不足に陥る可能性があります。資金計画を立てる際には、解体費用もしっかりと見積もっておきましょう。
家賃収入が一時的に途絶えるリスクを考慮する
アパートを建て替える場合、リノベーションに比べて工期が長引く傾向にあります。建築設計から施工、そして新しい入居者の募集までを含めると、1年近くの期間を要する場合も。
この期間中は家賃収入を得られないため、事前に収入減少を考慮して資金計画を立てる必要があります。
建設会社が作成する工程表に基づいて工事は進められますが、天災や突発的な事故によりスケジュールが遅延する可能性もゼロではありません。その場合、さらに家賃収入を見込めない期間が延びるため、リスクを踏まえた資金管理が重要です。
入居者に退去の協力を求める必要がある
アパートを建て替える際には、現状の入居者に退去をお願いしなければなりません。退去の依頼には一定の手続きがともない、スムーズに進めるためには計画的な対応が重要です。
賃貸借契約を更新しない旨を通知する場合、最低でも6カ月以上前に告知することが法律で義務付けられています。
さらに、入居者が新しい住まいへ引越すための費用(立ち退き料)は、基本的にオーナーが負担しなければなりません。一般的な相場として、1人あたり100万円程度が目安とされています。以下は、立ち退き依頼の主な流れです。
- STEP 1賃貸借契約を更新しない旨を正式に通知する
- STEP 2入居者と立ち退き料に関する交渉をおこなう
- STEP 3入居者に新居への引越しを依頼する
上記の手続きを適切に進めることで、トラブルを回避し、建て替えをスムーズに進められるでしょう。
信頼できる建築会社を選ぶ
アパートの建て替えを成功させるためには、信頼できる建築会社を選ぶことが重要なポイントです。なぜなら、会社ごとに提案できる仕様や得意分野が異なるからです。一部の会社はデザイン性に優れた提案を得意とする一方、耐震性能やコストパフォーマンスに強みを持つ会社もあります。
そのため、複数の会社に条件を提示し、相見積もりを取って比較検討してみましょう。
見積もりを比較することで、よりよい条件で納得のいく建て替えが実現できる可能性が高まります。
老朽化アパートからの立ち退きを依頼する手順と注意点

ここでは、スムーズな立ち退き交渉を進めるために押さえておくべきポイントを解説します。
契約満了の6カ月~1年前には通知をおこなう
入居者に退去をお願いする場合、最初におこなうべきことは、賃貸借契約を更新しない旨を通知することです。この通知は、契約満了の少なくとも6カ月前までにおこなう必要があり、1年前から準備を始めておくといいでしょう。
通知の方法としては、口頭での説明や書面による通知が一般的です。通知書を作成する際には、弁護士や不動産会社に相談するのもよい方法です。退去を求める理由を丁寧に説明し、入居者に誠意を持って協力を依頼しましょう。
また、証拠として書面を内容証明郵便で送付する方法もおすすめです。ただし、事前に口頭で説明してから通知を送るほうが、入居者の気分を害しにくくなります。
引越し先の提案をおこない負担を軽減する
退去を依頼する際には、現在の住まいの代わりとなる物件を提案することで、入居者の負担を軽減できます。不動産会社と連携し、近隣で同等の価格帯や条件に合った物件を複数ピックアップしておきましょう。そうすることで、入居者の新居を探す手間が省け、交渉をスムーズに進めやすくなります。
特に、入居者の要望に近い物件を提示することが重要です。例えば、家賃や立地条件が似た物件を提示すれば、移転後の生活をイメージしやすくなり、交渉が進みやすくなるでしょう。
立ち退き料を交渉して合意を得る
立ち退き料は、オーナーが入居者に支払う金銭で、主に引越し費用や新居の敷金・礼金をカバーするためのものです。一般的な相場は、家賃の6カ月分に引越し代を加えた金額とされています。上記の金額は、入居者が引越しをスムーズにおこなえるよう配慮したものです。
交渉の際には、項目ごとに費用を細かく分けるのではなく、総額として提示するほうが効率的。また、相手の納得を得やすい金額を事前に調査しておくと、スムーズな合意につながりやすくなるでしょう。
最終的に双方が納得した場合には、金額を文書に明記して契約書を交わし、のちのトラブルを防ぐことが大切です。
退去手続きと立ち退き料の支払いを進める
立ち退き料の金額に関して入居者と合意が取れたあとは、具体的な退去手続きを進めます。賃貸借契約解除に関する合意書を取り交わし、立ち退き期日を確認したうえで退去完了を確認します。退去が完了した時点で、事前に取り決めた立ち退き料を支払うのが一般的な流れです。
立ち退き料の相場
立ち退き料の金額に法的な定めはなく、オーナーと入居者の間で決定されます。ただし、相場としては家賃6カ月分に引越し費用を加えた額が目安とされています。
例えば、家賃が8万円のアパートの場合は次のとおり。
- 敷金:16万円
- 礼金:8万円
- 仲介手数料:8万円
- 引越し代:10万円
- 慰謝料:10万円
この場合、総額52万円程度が見込まれるでしょう。
特に店舗やオフィスとして利用している部屋に関しては、営業損失も考慮する必要があります。上記のケースでは、自分で算出することが難しい場合もあるため、弁護士や不動産会社に相談して適正な金額を算出しましょう。
立ち退き交渉を成功させるためのポイント
オーナー自身が立ち退き交渉をおこなう場合、以下のポイントを押さえることが重要です。

-
1. 立ち退き理由を明確に説明する
耐震性や老朽化など、具体的な理由を丁寧に説明し、入居者の理解を得るように努めましょう。
2. 十分な準備期間を設ける
退去までに余裕を持たせることで、入居者が新居を探す負担を軽減できます。
3. 誠意を持って対応する
誠実で丁寧な対応を心がけることで、信頼関係を築きやすくなります。
4. 交渉内容を記録する
記録を残しておくことで、万が一のトラブルにも備えられます。
立ち退き交渉は、入居者の生活に大きな影響を与えるため、慎重な対応が求められます。入居者の負担を軽減しつつ、計画的に進めることが成功へのカギです。
まとめ
今回は、アパートが老朽化するリスクや対策などを詳しく解説しました。アパートの老朽化が進むにつれ、デメリットやリスクが大きくなってしまいます。経営がうまくいかなくなるケースもあるでしょう。
本記事では、「建て替え」「リノベーション」「売却」の3つの対策があることを解説しました。それぞれメリット・デメリットがあるため、今後のことを見据えながら、ベストな方法を選びましょう。

執筆者
長谷川 賢努
AFP(日本FP協会認定)、宅地建物取引士
大学を卒業後、不動産会社に7年勤務、管理職を務めたが、ひとつの業界にとどまることなく、視野を拡げるため、生命保険会社に業界を超え転職。しかしながら、もっと多様な角度から金融商品を提案できるよう、再度転職を決意。今までの経験を活かし、生命保険代理業をおこなう不動産会社の企画室という部署の立ち上げに参画し、商品、セミナー、業務内容の改善を担う。現在は、個人の資産形成コンサルティング業務などもおこなっている。
株式会社クレア・ライフ・パートナーズ