定期借家契約とは?普通借家契約との違い、借主のメリットとデメリット・注意点
この記事では、定期借家契約と普通借家契約との違いや、メリット・デメリットを紹介します。契約後のトラブルを避け、賢く物件を選ぶためにも、この記事を参考にしてください。
記事の目次
定期借家契約とは?

「定期借家契約」とは、契約期間があらかじめ決められていて、原則として更新がない賃貸借契約です。契約期間が満了すると、入居者は物件を明け渡さなければなりません。
定期借家契約は、貸主側の事情を考慮して2000年に導入されました。例えば、貸主が転勤の間だけ家を貸したい場合や、将来的に自分で住む予定がある場合に活用されます。
借主にとっては、契約期間が限定されるデメリットがある一方で、相場より安い家賃で住める可能性のある点がメリットです。ただし、住み続けたい場合は、貸主と借主の双方が合意して再契約を結ぶ必要があります。そのため、転勤や仮住まいなど一定期間だけ住みたい方におすすめの契約方法です。
普通借家契約とは?

「普通借家契約」とは、借主が希望すれば契約を更新でき、長期的に住み続けられる一般的な賃貸借契約です。日本の多くの賃貸物件で普通借家契約が採用されており、通常は2年契約で、期間が満了しても更新されるのが一般的です。
普通借家契約の特徴は、借主の居住権が強く保護されている点です。貸主が「転勤から戻ってきたので自分で住みたい」と希望をしても、このような自己都合だけでは契約の更新を拒否できません。貸主から更新を拒絶するためには、法律で定められた正当事由が必要です。例えば、建物の老朽化による建て替えが挙げられます。
そのため、借主は貸主の都合で退去を求められる心配が少なく、安心して住み続けられます。普通借家契約は長く住むことを前提としているため、同じ場所に腰を据えて生活したい方におすすめです。
定期借家契約と普通借家契約の違い

ここからは、定期借家契約と普通借家契約の違いを8つの項目に分けて解説します。
契約更新の可否
原則、普通借家契約は借主が希望すれば契約が更新されます。貸主が更新を拒否するためには、建物の老朽化や再開発による取り壊しなどの正当事由が必要です。
一方、定期借家契約には更新の概念がなく、契約期間が満了すると契約は終了します。引き続き住みたい方は、貸主との同意のうえ再契約を締結しなければなりません。
契約期間
設定できる契約期間にも違いがあります。定期借家契約は、貸主と借主の合意があれば、1年未満でも契約期間を設定できます。例えば、3カ月間だけの契約も可能です。
対して、普通借家契約で1年未満の期間を定めた場合、その契約は「期間の定めのない契約」とみなされます。そのため、一般的に1年~2年契約とするケースがほとんどです。
契約の成立
普通借家契約は、貸主と借主の間で合意があれば口頭でも成立します。ただし、トラブルを避けるために契約書を交わすのが一般的です。
一方、定期借家契約は、必ず書面で契約を結ばなければなりません。さらに貸主は、契約書とは別に「更新がなく、期間満了で契約が終了する」旨を記載した書面を交付して、借主に説明する義務があります。
契約の更新
普通借家契約は、契約期間が満了しても貸主側に正当な理由がない限り、借主が希望すれば契約は更新されます。
一方、定期借家契約には、更新の概念が存在しないため、契約期間が満了すると賃貸借契約は自動的に終了します。もし契約後も住み続けたい場合は、貸主と借主の双方が合意のうえで、新たに契約を結び直す、再契約の手続きが必要です。
賃料の増減額請求権
賃料の増減に関するルールも異なります。普通借家契約では、経済状況や近隣の賃料相場などの変化により、「現在の家賃が相当でない」と判断された場合、貸主も借主も賃料の増減を請求できます。
対して定期借家契約では、賃料を改定しない旨の特約があれば、賃料の増減を請求できません。ただし、賃料を改定しない旨の特約がなければ、普通借家契約と同様に賃料の増減を請求することが可能です。
賃貸人による期間満了前の通知
普通借家契約では、貸主が更新を拒否する場合、期間満了の1年前から6カ月前までに通知が必要です。この通知がなければ、契約は自動的に更新されます。
定期借家契約(契約期間が1年以上の場合)でも、貸主は同じく期間満了の1年前から6カ月前までに「契約が終了する」旨を通知しなければなりません。もし解約の通知を怠ると、貸主は契約の終了を借主に主張できなくなります。
途中解約
普通借家契約の場合、借主からの中途解約は、契約書に解約に関する特約があれば、それに従います。1カ月~2カ月前に申し入れることで解約できるケースが多い傾向にあります。また、貸主からは正当事由がなければ中途解約できません。
一方、定期借家契約は、原則として貸主も借主も中途解約はできません。ただし、中途解約に関する特約や、床面積200平方メートル未満の居住用物件で転勤などやむを得ない事情がある場合は、借主からの解約が認められています。
再契約
再契約は、どちらの契約でも可能です。普通借家契約は更新が基本ですが、期間満了後にあらためて再契約の締結もできます。
定期借家契約には更新がないため、引き続き住みたい場合は再契約が必要です。ただし、これはあくまで貸主と借主の双方が合意した場合に限られます。貸主が再契約を望まなければ、契約期間満了をもって退去しなければなりません。
定期借家契約と普通借家契約の利用割合
賃貸市場全体で見ると、普通借家契約が圧倒的多数を占めており、定期借家契約の利用はごく少数です。国土交通省の「令和6年度住宅市場動向調査報告書」の調査結果によると、令和6年度の民間賃貸住宅の契約種類は普通借家契約が94.7%、定期借家契約はわずか2.1%でした。

また、定期借家制度の認知度自体も高いとはいえません。同調査の令和6年度の結果を見てみると、定期借家契約の「(内容を)知っている」と回答した人は15.8%、「名前だけは知っている」が24.7%で、半数以上は制度を知らない状況です。

上記のデータから、日本の賃貸市場では長期にわたって住むことを前提とした普通借家契約が主流で、定期借家契約が適用される場面は少ないことがわかります。
定期借家契約の家賃相場

定期借家契約は契約期間が限定される借主のデメリットを考慮して、家賃が普通借家契約よりも低く設定される傾向にあります。定期借家契約では、相場よりも20%~50%ほど安い家賃で募集されることが一般的です。
また、なかには独自の計算式で定期借家契約の家賃を設定する不動産会社もあります。ある不動産会社では、「(普通借家契約での契約期間総額家賃 - 下記表の合計額)÷ 契約期間月数 = 定期借家契約での月額家賃」で定期借家契約の家賃を設定しています。
| 項目 | 調整金額 |
|---|---|
| 引越し費用 | 15万円 |
| 1年間の定期借家契約 | 50万円 |
| 2年間の定期借家契約 | 40万円 |
| 3年間の定期借家契約 | 30万円 |
| 4年間の定期借家契約 | 20万円 |
| 5年間の定期借家契約 | 10万円 |
| 仲介手数料 | 賃料の1カ月分 |
例えば、普通借家契約で15万円の物件で、4年間(48カ月)の定期借家契約の場合は以下の計算式となります。
(15万円 ✕ 48カ月 - 50万円)÷ 48カ月 ≒ 13.95万円
つまり、4年間の定期借家契約では、約13.95万円の家賃となります。
ただし、定期借家契約の家賃がすべて相場より安いわけではありません。物件のグレードや立地、貸主の意向によって、家賃が変動することを理解しておきましょう。
定期借家契約のメリット

定期借家契約は、契約期間が限られるデメリットがある一方、借主にとってメリットもあります。ここでは、定期借家契約のメリットを5つ紹介します。
家賃・初期費用が安くなりやすい
定期借家契約は、家賃や初期費用が相場より安く設定される傾向にあります。借主側には、契約期間が満了すると退去しなければならないデメリットがあるためです。
具体的には、周辺の同じような条件の普通借家物件と比較して、家賃が20%~50%程度低く設定されていたり、入居時に必要な敷金や礼金が下がったりするケースがあります。このように、定期借家契約は契約期間よりも住居費を重視する方におすすめです。
品質のよい物件に住める可能性がある
定期借家契約であれば、分譲マンションや一戸建てなど、通常は賃貸に出されないような質の高い物件に住める可能性があります。定期借家契約では、転勤や海外転勤などの理由で一時的に自宅を貸し出す「リロケーション物件」の募集が多いためです。
普通借家契約で物件を探した場合、一般的な賃貸マンションやアパートしか見つからないケースがほとんどです。しかし、定期借家契約の物件は貸主の家を期間限定で貸し出すことが多いため、設備が充実していたり、管理が行き届いていたりする、住環境のよい物件を見つけられます。
選択物件の幅が広がる
定期借家契約の物件も視野に入れれば、物件探しの幅が広がります。物件探しの際、定期借家契約も条件に含めることで、普通借家契約の物件にはない魅力的な住まいが見つかるかもしれません。
特に、質の高い物件や、特定のエリアで物件を探している場合、定期借家契約の物件を含めれば、思わぬ掘り出しものに出合える可能性があります。どうしても理想の物件が見つからない方は、定期借家契約の物件も視野に入れてみましょう。
短期間の利用に適している
定期借家契約は、短期間だけ利用したい方に向いている契約形態です。普通借家契約では通常1年~2年契約が一般的ですが、定期借家契約では数カ月単位で契約を締結できます。
例えば、転勤で1年間だけ住みたい場合や、自宅の建て替え中の仮住まいとして半年間だけ借りたい場合など、あらかじめ居住期間が決まっている方におすすめです。
別荘・セカンドハウスとして利用できる
定期借家契約であれば、物件を別荘やセカンドハウスとして気軽に利用できます。別荘は管理や維持費の負担がかかりますが、定期借家契約であれば必要な期間だけ家を借りられます。
例えば、「夏の間だけ涼しい場所で過ごしたい」「趣味の拠点として週末だけ利用したい」とお考えの方にぴったりです。手軽に自宅とは違う拠点を確保したい方は、定期借家契約の物件を探してみてください。
定期借家契約のデメリット・注意点

次に、定期借家契約のデメリットや注意点を見てみましょう。
契約期間満了で退去が必要になる
定期借家契約は、契約期間が満了すると原則として退去しなければならない点がデメリットです。普通借家契約のように借主が希望すれば自動的に更新されるわけではありません。
「この物件が気に入ったから長く住み続けたい」と思っても、貸主が再契約を認めなければ期間満了とともに物件を明け渡す必要があり、立ち退き料も請求できません。このように、定期借家契約は1つの家に長く住み続けたい方には不向きな契約方法です。
家賃・契約条件の交渉が難しい
定期借家契約の家賃や条件は、貸主の資金計画やスケジュールなどを考慮して設定されているため、交渉が難しい傾向にあります。
例えば、貸主が転勤中の居住費を考慮して家賃を15万円に設定している場合、入居希望者が「家賃を10万円に下げて欲しい」と交渉をしても、交渉が成功する可能性は低いでしょう。また、転勤期間が2年と決まっている貸主に対して「契約期間を2年から3年に伸ばしてほしい」と交渉しても、断られることがほとんどです。
強引な交渉は入居を断られるリスクがあるため、希望がある場合は、貸主の心証を損なわないよう丁寧に伝えることを心がけましょう。
再契約ができない場合がある
契約満了後も住み続けたい場合は再契約が必要ですが、貸主の合意がなければ再契約はできません。貸主側には再契約に応じる義務がないため、借主の希望だけではどうにもなりません。
貸主が「自分で住むことにした」「別の人に貸したい」と考えれば、再契約はできないため、再契約を期待して入居すると、将来の計画が狂う恐れがあります。基本的に、定期借家契約の物件には長く住めないことを理解しておきましょう。
契約期間中の解約ができない
定期借家契約は、原則として契約期間中の中途解約が認められていないことにも注意しましょう。借主は、契約時に定めた期間中家賃を払い続ける義務があります。
ただし、例外もあります。床面積200平方メートル未満の居住用物件で、転勤や親の介護などのやむをえない事情がある場合は、借主からの解約が可能です。また、契約書に中途解約に関する特約があれば、それに従って解約できます。
借主へ終了通知義務がある
契約期間が1年以上の定期借家契約では、貸主は期間満了の1年前から6カ月前までに、借主に対して契約が終了する旨を通知する義務があります。この通知を書面で受け取ることで、借主は契約が終了することを正式に知らされます。
もし貸主がこの通知を怠った場合、貸主が通知した日から6カ月間は、借主は住み続けることが可能です。しかし、これは契約が更新されるわけではなく、あくまで退去までの猶予期間が与えられるだけであることを理解しておきましょう。
まとめ
最後に、この記事のポイントを3つに絞って振り返ります。
定期借家契約とは?
定期借家契約とは、契約期間が決められていて、更新がない賃貸借契約です。原則として、期間が満了すると物件を明け渡す必要があります。転勤や仮住まいなど、期間限定で住みたい場合におすすめの契約方法です。
定期借家契約と普通借家契約の違いは?
最大の違いは契約更新の有無です。普通借家契約は借主が希望すれば更新できますが、定期借家契約には更新がなく、期間満了で終了します。また、契約期間の定め方や契約方法、中途解約のルールなども異なります。
定期借家契約のメリットは?
相場より安い家賃で住める可能性がある点や、分譲マンションなど質の高い物件に出合えるチャンスがある点がメリットです。また、数カ月単位での契約も可能で、借主の事情に合わせた短期的な利用にも柔軟に対応できます。
この記事では、定期借家契約と普通借家契約の違いや家賃相場、メリット・デメリットを紹介しました。定期借家契約と普通借家契約の大きな違いは契約更新の有無です。定期借家契約は期間が満了すると契約が更新されることはありません。
また、定期借家契約は家賃が相場よりも安い傾向にあり、質の高い物件に出合える可能性がある一方で、契約期間中の解約が難しい点に注意が必要です。定期借家契約の物件を検討する際は、特徴を理解したうえで、自分のライフプランやスケジュールに合わせた物件を選びましょう。
