
リノベーションマンション事例「引き算のリノベーションで家具や小物の魅力を引き立てる」
雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、東京都府中市のUさんご家族の事例をご紹介します。置かれるものを主役にするシンプルな空間に、最小限の造作家具。分厚い躯体コンクリートの質感を、ありのままに活かした。(text_ Eri Matsukawa photograph_ Takuya Furusue)
奥さまの職場の変化に合わせ、お互い通勤しやすい場所に転居しようと賃貸マンションを探したのが物件購入のきっかけに。偶然インターネットのポップアップで表示されたエントランス写真の雰囲気の良さに釘付けになったという。早々に内見を申し込み、自然な流れで賃貸から購入へと転換。ちょうど長男を妊娠していることも分かり、節目のタイミングだった。リノベーションの依頼先をエコデコに決め、内見に付き添ってもらうことに。
「急な展開で購入には不安があったので、一緒に内見してもらえたのは心強かったです。幸い詳細な図面が残っていて、その場でどの壁が壊せるかを確認できました」(ご主人)

奥さまが妊娠中で動けなかったことから、打ち合わせは自宅で行われた。力のある家具や小物がセンスよく置かれたUさんの暮らしぶりを見て、設計担当の小林孝寿さんは「つくり込まず、自由に遊んでもらえるような場にしよう」と考えた
そこで、できるだけ余分な間仕切りを取り払って空間を広げ、造作家具も最小限にした“引き算のデザイン”に。分厚いコンクリートの壁や梁は、クロスを剥がして素地を見せ、存在感のある家具との釣り合いをとる。唯一の造作家具は、壁付けのキッチンとリビングのデスク。棚受けを見せないシンプルなデザインで背景に徹し、そこに置かれるものの魅力を引き出している。



当初、床は全面フローリングを希望したが、コスト調整を経てプライベートエリアはサイザル麻カーペット、ダイニングキッチンはコンクリート躯体現しへと変遷。コンクリートの床には抵抗もあったという夫妻だが、汚れやすいキッチンや食卓まわりもサッと拭けばOKのラフさが、今は気に入っている。

プライベートな場所はサラリとした感触が気持ちいいサイザル麻カーペット敷き。洗面室の間仕切りを思い切って省略したことで、開放感が増長されている。

[右]・玄関から土間続きのダイニングキッチン。手前の板間はリビング。コンクリート躯体現しの梁の素材感や床材の切り替えが空間にメリハリを与える。暖簾の奥が玄関収納。

天窓からの光で明るい玄関には、壁にフックを取り付け自転車2台をハング。奥には和の骨董家具を置き、お気に入りの食器を飾りながら収納している。
壁式構造のために撤去できなかった壁も、リビングのこもり感や、ディスプレイのための余白スペースへと活かされた。夫妻は玄関から見える壁際のコーナーに骨董の和家具をあつらえ、益子焼の器やヨーロッパの什器を飾っている。
「仕事や子育てに追われながらも、家族で過ごす時間を大切にできているのは、この家のおかげ」(奥さま)
成熟した敷地内の緑や、居心地のいいコミュニティを手に入れられたことも、ここで暮らす大きなメリット。中古の優良物件でしか得られない特権と言えるだろう。

[右]・躯体開口部の吊り戸を引き分けると、寝室とオープンスペースの連続感が出る。



朝日の入る東向きの寝室で気持ちの良い目覚めを迎えられる。

●BEFORE
以前のオーナーが大切に住んでいたため、状態が良かった。
好みに合う照明器具やカーテンはそのまま使用することに。
建物データ
〈専有面積〉84.75㎡〈バルコニー面積〉5.14㎡〈主要構造〉鉄筋コンクリート造〈既存建物竣工〉1982年〈リノベーション竣工〉2018年〈設計期間〉4ヶ月 〈工事期間〉2ヶ月〈設計〉EcoDeco

※この記事はLiVES Vol.107に掲載されたものを転載しています。
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