
リノベーションマンション事例「『自分の暮らしは、自分で創る』家族で生み出す新しくて懐かしい家」
雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、東京都世田谷区の原さんご一家の事例をご紹介します。リノベーション設計のプロが、自宅で解体から仕上げまで自力施工にチャレンジ。家族が力をあわせ、苦しみつつも楽しみ倒した2ヶ月半が結実した。(text_ Eri Matsukawa photograph_ Takuya Furusue)
リノベーション会社、フィールドガレージの代表・原直樹さんが自宅として中古マンションを購入し、自らリノベーションを行った。解体から施工まですべてを自力で行うというプロジェクトだ。
「どのくらい大変なのか、やってみないとわかりませんからね。設計が仕事ですが、工事は素人なので、道具や材料などをインターネットで調べながら進めました」(直樹さん)
購入物件は築17年。4階角住戸で眺望が良く、広い空や富士山が見える開放感を活かしたいと考えた。工事を始めてみると解体作業に予想外に時間をとられた。ひたすら壊し、分別して運ぶ。奥さまの祐子さんと二人の子どもたちも埃にまみれながらの作業。特にユニットバスなど大型の部材は分解も搬出も苦労した。
解体が終わると大工さんの応援を受けながら新たな骨組みをつくる。施工の手間とコストを省くため、個室と水まわりをなるべく動かさない間取りを計画。大きく変更したのはLDKで、和室を撤去してキッチンの壁と天井材を取り払い、L字の広い空間をつくった。和室の押入れは上段を娘の彩水さんが個室側から使うベッドに、下部をリビング側から使うソファベッドに活用することに。キッチンには手づくり生活を思い切り楽しみたい祐子さんのために、大きな作業台を据えることにした。



仕上げの作業に取りかかると、フローリング張りなら祐子さん、タイル張りなら息子の颯太君と、得意分野ができてきた。一番きつかったのは、期限が迫る中でもなかなか完成が見えなかったときだ。
「大変だったのは壁の下地づくり」と彩水さん。
パテを塗ってはならす単純作業を果てしなく繰り返す。
「でも、それが仕上がりを左右するということがわかりました。つらいところだけど、手を抜いたらアウトなんです」(祐子さん)。
完成までの数日間、怒涛のように施工と引っ越し準備をこなした祐子さんは、疲れていても、寝こんでいる暇もなかったと振り返る。
インテリアをまとめ上げるセンスは、直樹さんの面目躍如。アンティークの扉や古材から醸し出されるヴィンテージ感と、珪藻土や躯体コンクリートなどの素材の力が、施工のラフさを馴染ませ、完成された世界観を描き出している。

パイプスペースを隠すように造作した食器棚には、葉山の古道具店「桜花園」で購入した古い扉をあしらった。「これがインテリアのポイントです」(直樹さん)

多肉やハンギングのグリーンで賑わう一角。日当たりのいい住戸に引っ越して観葉植物を楽しめるようになった。置かれた小物ひとつにも、家族のストーリーがある。



「リノベーションを通していちばん良かったのは、子どもたちが自立する前に、一緒に一つのものをつくり上げることができたことです」(祐子さん)
「プロセスのすべてが家族の宝もの」と直樹さんもうなずく。
自分の暮らしは自分で創る。大事なのは、どんな状況でも楽もうという気持ち。そんな両親のスピリッツは、子どもたちにしっかりと受け継がれたに違いない。




建物データ
〈物件名〉原邸〈専有面積〉64.67㎡〈バルコニー面積〉7.38㎡〈主要構造〉鉄筋コンクリート造〈設計・施工〉フィールドガレージ〈設計期間〉2ヶ月 〈工事期間〉2.5ヶ月〈既存建物竣工〉1995年〈リノベーション竣工〉2016年

※この記事はLiVES Vol.95に掲載されたものを転載しています。
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