リノベーションマンション事例「4mのシマトネリコがすくすく枝葉を広げるメゾネット空間」
雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、東京都江戸川区の佐久間さんご夫妻の事例をご紹介します。「本当なら、森に住みたい」という妻と、都会派の夫。折り合って決めた街なかのマンションには、一本の木を植えた。今や家族の一員のようだ。（text_ Eri Matsukawa photograph_ Takamasa Sasai）
「仕事中心の夫はアクセス優先で都心に住みたがりましたが、プライベートを大事にしたい私は郊外の一軒家を望みました。本当は森の中に住みたいくらい」（奥さま）
佐久間さんご夫妻が結婚を機に始めた家探しは、喧々諤々の議論の末、通勤に不便のないエリアで折り合った。購入したのは、マンションにはめずらしい吹き抜けのあるメゾネットタイプだ。内見時は細かく壁で仕切られた間取りで、リビングの吹き抜けも魅力が活かされていなかったという。しかし、仕事柄建築に詳しい奥さまは、「壁を取り払えばいい空間になる」と見抜いていた。リノベーションの設計を担当した古賀亮平さんには、ギャラリーのようなシンプルな箱にしてほしいと伝えた。
「好みは変わっていくものなので、造作家具でつくり込むのではなく、フレキシブルなベースをつくり、家具などで自由に色付けしていけたらいいなと」（奥さま）
吹き抜け空間を効果的に使いたいと知恵を絞った古賀さんは、初回の打ち合わせで、木を一本導入することを提案した。
明るい吹き抜け空間にゆったりと枝葉をのばすシマトネリコ。プランターをダイニングテーブルの一部に組み込むようにデザイン。プレーンな内装に緑が映える。
「観葉植物ではない木は、室内で生きていくことは難しいのですが、ここは明るいし風通しもいいので、育てていけると思いました」（古賀さん）
そのアイデアは、ご夫妻を大いに喜ばせた。メインフロアでは、個室をひとつ取り払ってLDKを広げ、吹き抜けの開放感と明るさを行き渡らせた。スチール階段は黒く塗り替え、クールな存在感を押し出している。
リビングには、階段の手すりにハンギンググリーン、床にはエバーグリーンの鉢植えを置いて。モロッコ旅行で購入したラグを敷き、大きなソファでくつろぐ。
モルタルの土間をイメージした床には、既存の床暖房を活かすため、フレキシブルボードを上張り。足触りはモルタルよりフローリングに近いが、植物が大好きな奥さまが気兼ねなく鉢植えを置けるタフさを備えている。
プランターと一体化された特注のダイニングテーブルには、植栽業者を3軒回って選んだという4mのシマトネリコが組み込まれた。今のところ生育はよく、成長の早い枝葉はこまめな剪定が必要なほどだ。3面に開口を持つ角住戸のため、窓を開けるととても風通しがよく、植物にとって好ましい環境なのだろう。ダイニングの壁は、コンクリートの素地を残すか白く塗るかで悩んだが、グリーンが映える白を選んで正解だったようだ。
毎日家に帰るのが楽しみという奥さまは、シマトネリコを「ネリ子」と呼んで家族の一員のように感じている。植物たちに水やりをするのがリフレッシュのひとときだ。閉めきって出かけるときも、換気扇と扇風機で空気を動かす。長期出張中のご主人は、「帰宅するたびに植物が増えている」と笑う。街なかのマンションは、少しずつ森に近づいている。
キッチンは業務用ステンレス。手前の作業台を移動すればテーブルを拡張できる。
明かりを落としてくつろげるよう、浴室の照明は調光式に。
玄関にはオープン棚を造作。普段履きの靴のみ飾るように置いている。洗面室の明かり採りである内窓は、古賀さんが解体した家具からとっておいたものを転用した。
モルタル塗りの玄関土間を個室の一部にまで連続させた。
建物データ
〈専有面積〉86.79㎡〈バルコニー面積〉18.27㎡〈主要構造〉鉄骨鉄筋コンクリート造〈プロデュース〉EcoDeco〈設計・施工〉古賀造〈設計期間〉3ヶ月〈工事期間〉2ヶ月〈既存建物竣工〉1995年〈リノベーション竣工〉2017年
※この記事はLiVES Vol.95に掲載されたものを転載しています。
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