
リノベーションマンション事例「壁ごとに好みの世界観を表現。空間演出のプロがつくる家」
雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、東京都目黒区の久保さんの事例をご紹介します。インテリアデザイナーが思い切り我がままに、実験的な部屋をつくった。力の抜けた遊び心とクールさのせめぎあいが、空間の個性となって語りかける。(text_ Eri Matsukawa photograph_ Takuya Furusue)
インテリアデザイン事務所case.work.を主宰する久保淳也さんは、目黒区にある築40年ほどのヴィンテージマンションを自宅兼オフィスにリノベーションした。物件はリフォーム前のものを探して安く購入。小学校の校庭に面し、大きなルーフテラスもある開放的な住戸だ。


「仕事を通して、自宅でやってみたいことが蓄積されていました。仕事の時には出せない我を全開にして、クライアントには提案できないような実験的なことにもチャレンジしています。僕の世界観を提示する、モデルルーム的な意味あいも持たせられたらいいなと」
住戸の半分以上を占める広いLDKは、4つの壁面が4種類の素材で仕上げられている。ひとつはヴィンテージのブリックタイル貼り。縦横の割り付けにもこだわり、半端なサイズのタイルが出ないように壁の寸法を微調整している。

キッチン側の一面はサブウェイタイルで埋め尽くした。目地無しで貼ったのは、タイルごとの微妙なガタつきが見え、ラフさを生むと考えたからだ。

ダイニング側の一面は、躯体コンクリートをむき出しのままにした。建設当初の下書きが残されていたり、配管が露出していたりと、荒々しさを見せている。残る一面は、躯体表面をモルタルできれいにならし、おとなしい仕上がりにしている。

無骨さが魅力のテーブルは家具屋にオーダー。分厚いパインの古材で天板をつくった。ペンダント照明はインドのアンティーク。壁は躯体コンクリート素地のまま。
「4面をすべて違う素材で仕上げつつ、空間全体がまとまって見えるようにしたいと考えました。これを仕事で提案しても、まとまりがつかないからと受け入れてもらえない。でも上手くやれば、シーン毎に雰囲気を変えられる飽きのこない空間がつくれます。よくある白一色やコンクリート素地だけではなく、これを例にして、いろいろなアイデアが出せるのではないかと」
確かに仕上げの多様さがまったく気にならないほど、全体がひとつの世界観に融け合っている。それぞれの仕上げは素材感が強く主張するものだが、大きな空間が緩衝となることも想定されているのだろう。



廊下の天井にはモールディングを施して甘さをプラス。
内装も魅力的だが、コーナーごとのものの飾り方にも独特のセンスが感じられる。そうした審美眼は、どうやって磨かれるのだろう。

久保さんがデザインしたブックシェルフは一本足で壁に立て掛けるユニークなもの。「今読んでいる本を2、3冊置くイメージで、気軽に移動できるのがポイント」

久保さんの仕事場と廊下の間はスチールのフレームでゆるく間仕切り。気に入ったガラスが見つかるまで素通しにしてある。

久保さんは年に一度は海外に出かける。こぎれいな都市ではなく、ワイルドさを求める旅だ。「歳をとったら行けないような場所」を基準に世界遺産などを巡るのだという。一見無造作に置かれている雑貨や装飾品は、そうした旅の成果物だ。最後に、こんな遊び心を発揮できるインテリアのコツとは何か尋ねてみた。
「余白をつくること。住宅は何年も住む場所。好みも変わっていくから、少しずつ育てていけるような空間が理想ですね」




建物データ
〈専有面積〉85㎡〈バルコニー面積〉68㎡〈主要構造〉鉄筋コンクリート造〈設計〉case.work.〈施工〉bosco〈設計期間〉6ヶ月 〈工事期間〉2ヶ月〈既存建物竣工〉1972年〈リノベーション竣工〉2013年


●久保淳也さん
神奈川県出身。インテリアデザイン事務所勤務後、30歳でcase.work.設立。店舗・住宅を中心に幅広くインテリアデザインを手掛ける。インテリアコーディネーターとしても活動中。趣味は海外旅行やキャンプ。
http://www.furouchi.com/