
リノベーションマンション事例「懐かしさとモダンが溶け合う和と北欧のグラデーション」
雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、東京都武蔵野市のTさんご夫妻の事例をご紹介します。北欧デザインの家具や民藝の器コレクション、土間や板張りの和のディテール。異なるテイストのそれぞれの魅力を引き出した、あたたかみ溢れる住まい。(text_ Yasuko Murata photograph_ Takuya Furusue)
井の頭公園の緑を窓の外に臨む、築44年、68㎡の中古マンションをリノベーションしたTさんご夫妻。都内で自然を感じて暮らせる場所を求め、この物件を見つけた。奥さまは料理が得意で、盛り付けを追究していくうちに、陶器の魅力にはまり、買い集めるように。ご夫婦で焼き物の産地を旅して、窯元で器を購入することも多いという。

パーケットの床が広がるダイニングにイームズの椅子や北欧の家具が並ぶ。奥さまの好みを象徴するのが、デンマーク製のハイキャビネットに並ぶ民藝の器。和と北欧のミックスは、テイストは違うが、親和性の高い組み合わせ。天井は躯体を白く塗装、壁は珪藻土。
「リノベーションでは、土間や土壁など、懐かしい和のテイストを取り入れたいと考えていました。そこにもともと好きだった北欧の家具を合わせたり、民藝品の器を飾ったりしても馴染む家にしたかったのです」
そう話す奥さまは、もちろんキッチンに対する思い入れも強かった。設計の打ち合わせの際には、サイズや素材、収納するものなど、細かい部分まで描いたイメージスケッチを準備。理想のキッチンを家の中心に配置する考えも持っていた。
それを形にしたのが、ご主人の学生時代からの友人である、とのま一級建築士事務所の河田剛さんだ。
「キッチンを中心に回遊できるプランを提案しました。動線がキッチンを始めとした居場所の一部になるように考え、全体の広がりとつながりを意識しました」(河田さん)


L字に入り組んだ玄関を進むと、作業台兼カウンターのあるキッチン。バルコニー側にはダイニングとリビングが並ぶ。リビングと寝室のあいだはガラスの引戸で仕切ることもできるが、オープンにして回遊型のワンルームとして開放的に使うこともできる。

寝室とリビングの間は、ガラスの引戸で仕切ることもできる。
内装材は、玄関からキッチンにかけて、ワラ入りのじゅらく壁や洗い出し土間、長押や柱のような意匠など、和の建築要素を盛り込んだ。いっぽう、ダイニングやリビングは、パーケットフローリング、躯体を白く塗装した天井など、そこに置かれる北欧家具になじむテイストで構成。そのあいだをつなぐのが、スギ板を放射状に張ったキッチンの天井だ。


「広がりをより強調させ、公園の緑へ空間をつなげていくような狙いもあります。また、ナラの作業台、玄関とリビングダイニングをつなぐ縁側のような通路も、和から北欧へのグラデーションをつくっている一つです」(河田さん)

ダイニングから玄関を見る。玄関から洗面までは和のテイスト。

玄関と公園の緑をつなぐようにのびる通路。床にヒノキを横に張って縁側のような風情をつくり、和と北欧をつなげている。掃き出し窓には木枠の内窓を新設。
和のディテール、民藝の器、北欧の家具。Tさんご夫妻の好きな要素が調和され、根底にある共通の魅力が伝わってくるような空間だ。



通路の飾り棚には、料理関係の本や果実酒の瓶などが並ぶ。

真鍮の把手など、パーツ類のほとんどは奥さまがセレクト。
建物データ
〈物件名〉吉祥寺のリノベーション〈所在地〉東京都武蔵野市〈居住者構成〉夫婦〈建物規模〉地上12階建て(5階部分)〈主要構造〉鉄骨鉄筋コンクリート造〈建物竣工年〉1970年〈専有面積〉68.55㎡〈バルコニー面積〉9.45㎡〈設計〉とのま一級建築士事務所〈施工〉カーサ・ラボ〈設計期間〉4ヶ月〈工事期間〉3ヶ月〈竣工〉2014年

※この記事はLiVES Vol.84に掲載されたものを転載しています。
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