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リノベーションマンション事例「マンションリノベの可能性を拡張する、開放的で自由な家」

雑誌「LiVES」に掲載されたリノベーションマンションから、今回は、大阪府豊中市の藤井さんご一家の事例をご紹介します。小さな3LDKを広々とした一室空間に。異素材を組み合わせ、キッチンとバスルーム、寝室が映像的に連なる空間が、家族の日常を豊かにする。(text_ Katsura Hiratsuka photograph_ Takashi Daibo)

昨年まで大阪屈指の高感度エリア、靭公園付近のマンションに暮らしていた藤井さん一家。しかし、「靱公園では子どもだけでは遊べない」と長男・麻生吾くんの小学校入学を機に子育て環境を求め、奥さまの万理子さんの出身地である豊中市周辺でマンションを探した。

行き着いたのは、58㎡の狭小物件。最小で3.8畳まで細切れにされた3LDKで、間取り図から伝わってくる魅力は皆無だった。ところが、内見をして印象はがらりと変わる。ルーフバルコニーがあるので広く感じられるし、開口部も三方向にあるので明るく風通しがよい。屋根に傾斜があるから天井を抜けば高さも出せる。

目の前は小学校で眺望もよく、景色もずっと保たれる。ポテンシャルを感じ、購入に踏み切った。リノベーションのポイントは開放的で風通しのよい一室空間とすること。住戸は壁や扉で仕切られず、構造用合板でできた置き家具や透明なガラスでゾーニングされている。

住戸全体が見渡せる一室空間。天井が高く、バルコニーの先まで視線が抜け、垂直にも水平にも広がりが感じられる。
空に抜けるルーフバルコニー。室内と床レベルを近づけて一体感を出した。目の前は小学校の校庭で、運動会もここから見学したそう。

既存天井を抜くと屋根の傾斜が現れた。中央上の照明はルミナベッラの「Moove」。屋根裏からコンクリート躯体に穴を開けて配線。

しかし、この家の個性は何といってもキッチン、バスルーム、寝室、クローゼットが同じ視界に収まるという構成の妙にあるだろう。設計を手掛けた藤イ昌トさんは、映像的に空間のイメージを膨らませたという。

キッチンの奥に緑のバスルームがある風景は設計で最初に思い描いた象徴的なシーン。キッチンはマントルピースをモチーフにデザイン。

「最初に浮かんだのは、キッチンの背後にバスルームが現れる風景。映像的なきれいさと展開の驚きがある、幸福な空間ができると思いました」

そう語る藤イさんは、大工や現場監督の経験があり、リノベーションでは自ら現場に入り、美的効果と施工性の両面から、細部まで入念に設計し、つくり込む。主要材料の構造用合板も、24mm厚と12mm厚を使い分け、経験から導いた方法で淡い白に塗装。要所には色合いや素材感が美しいタイルを用いて、空間を引き締めている。

体的な寝室は子どもたちの格好の遊び場。無加工の合板に薄く塗装した後、ヤスリがけして仕上げた淡い白の床や棚に、カラフルな子ども服やおもちゃが映える。

「クローゼットの洋服がお店のように並んでいるので、娘は張り切って服を選んでいます。息子はお風呂の緑のタイルがお気に入りのようで、小学校の作文で紹介したほどです」(万理子さん)

12mm厚の構造用合板で寝室をつくり、下をクローゼットに。

窓辺の明るいバスルーム。柔軟性が高く、防水面で安心なハーフユニットバスを使用し、上部は表面にゆらぎのある印象的な緑色のタイルとガラスで仕上げている。

マンションのリノベーションは一般的に、戸建てに比べると限界があると言われる。構造や窓など動かせない要素が多く、また外部を変えられないため、インテリアの改修に留まりがちだからだ。しかし、ここでは制約を感じさせない自由な改修で、ご家族の日常が新鮮なシーンへと変換されている。

居間の様子も窺える寝室。クローゼット上段の子ども部屋は絵を描くのが好きな麻生吾くんの“アトリエ”として活用。
[左]・既存の柱に合板を張り塗装。スチールパイプを取り付け、飾り棚にしている。
[右]・洗面も手作り。構造用合板で形をつくり、エポキシ樹脂で防水塗装した。

建物データ

〈物件名〉Green Apartment58〈所在地〉大阪府豊中市〈居住者構成〉夫婦+子ども2人〈建物規模〉地上6階建て(6階部分)〈主要構造〉鉄筋コンクリート造 〈建物竣工年〉1987年〈専有面積〉58㎡〈バルコニー面積〉15.5㎡〈設計〉藤イ昌ト/studio m+〈施工〉studio m+〈設計期間〉1ヶ月〈工事期間〉2ヶ月〈竣工〉2016年

※この記事はLiVES Vol.90に掲載されたものを転載しています。
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